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第101話「人喰いという名の迷宮」

 アイディール王国王都トライアンフ。

 中央広場最寄りに位置するのが、冒険者ギルド本部である。


 そして、ここは本部本棟最上階のギルドマスター専用応接室。

 豪奢な肘掛け付き長椅子(ソファ)に、4人の男女が座っていた。

 ダンとエリン、そしてエルフの王宮魔法使いヴィリヤと部下のゲルダ主従である。


 クランフレイムが、『人喰いの迷宮』において行方不明となった。

 リアーヌの兄も、行方不明になった曰く付きの場所だ。

 

 勇者亭で事件を聞き、驚いたダンとエリン。

 もっと詳しい情報を収集しようと、ギルド本部を訪れたのである。


 ダン達の後を追ったヴィリヤ主従も、成り行きで同席する事となった。

 エリンは不満だったが、ダンが同席を許した。

 何か、特別な考えがあるらしい。

 ヴィリヤが気に入らないエリンは大いに腹が立ったが、今はチャーリー達を助けるのが優先だ。


 やがて扉が開いて現れたのは、サブマスターのイレーヌである。


「これはこれは、皆様、ようこそ。マスターのベルナール様はご不在ですので、今日は私だけで対応させて頂きます」


 チャーリー達の、救出に向けて意気込んだエリンは、思わず立ち上がった。

 向かい側に座っていたヴィリヤが吃驚して、目を丸くしていた。


「イレーヌさん! お願いします! チャーリー達が危ないんです」


 エリンの話し方は、いかにも唐突であった。

 

 切羽詰まっているのは感じられるだろうが、これでは肝心の話が相手へは伝わらない。

 案の定、イレーヌは首を傾げる。


「チャーリー?」


 エリンは、苛々するばかり。

 もどかし気に答えを告げる。


「もう! チャーリーは、クラン(フレイム)のリーダーですよ」


「クランフレイム? ああ、人喰いの迷宮ですか?」


 クランフレイム行方不明の件は、イレーヌにも報告が入っているようだ。

 それならば、話が早い。


「はい! クランフレイムが行方不明になっているはずです」


「ああ、あの迷宮ですね」


「あの迷宮って! 大変な事が起こっているじゃない!」


 気が競るエリン。

 語気がつい荒くなる。

 まるで、イレーヌを責めるように。


 だが、これでは堂々巡りだ。

 結局は、回り道となってしまう。

 とうとうダンが口を挟む。


「エリン、少し落ち着け」


「だって、ダン! 落ち着いてなんかいられないよ」


「エリン……」


「ダンはチャーリー達を見捨てるの? 今だってきっと助けを求めているんだよ。エリン達を待っているんだよ」


「分かっている、だから落ち着け。詳しい情報を貰う為にギルドへ来たんだぞ」


「はい! 今のやりとりでいらっしゃった用件は理解しました」


「イレーヌさん」


「人喰いの迷宮でいくつものクラン、何人もの冒険者が行方不明になっているのは把握しており、ギルドでも聞き取り調査は継続しています。クランフレイムの件も含めて現在の状況と公開しても差し支えない資料をお持ちしましょう」


 イレーヌは一礼すると、一旦応接室から離れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 15分程経って、イレーヌは戻って来た。

 分厚い資料の束を抱えて。


「お待たせしました、人喰いの迷宮に関してお伝え出来る内容の資料を取り揃えました」


「じゃあ、現況とギルドの方針を話して貰えますか?」


「かしこまりました、ダン様」


 ダンから促されて、頷くイレーヌ。

 軽く咳払いすると、持って来た資料を見て話し始めた。


「人喰いの迷宮は全10層からなる地下迷宮。アイディール王国成立より遥かに昔から存在する相当古い迷宮です。ちなみに人喰いというのは通称、正式には英雄の迷宮と呼ばれています」


「英雄の迷宮?」


 人喰いの迷宮とは仮の名前。

 ダンが復唱すると、クローディアは微笑む。


「我が国の開祖セヴラン・アイディールが王になる前……数千年前に冒険者として修業したと伝えられる謂れから名付けられました」


「と、なるとこの国へ来る冒険者は英雄にあやかって、腕試しで潜りたくなるだろうな」


「はい! 英雄の迷宮は魔物や怪物が多数徘徊していますので、戦闘の訓練には最適だと認識されています。また結構な宝物がイレギュラー的に発見されますので英雄の名と共に冒険者には結構人気のある迷宮なんです」


「人気がある迷宮……」


「はい、最早伝説ですが……噂ではセヴラン様のご宝物も隠されていると」


 英雄が修行した迷宮で、同じように腕を磨く。

 その上、隠された財宝もあるかもしれない。

 冒険者に人気があるのは、理屈として分かると、エリンは思う。


 ではダンは?

 ダンは、この迷宮に潜った事があるのだろうか。

 勝手が分かれば、探索し易い。

 

 しかし、今迄のダンの言動を見れば可能性は低い。

 もしも知っていれば、反応が全く違うであろうから。

 

 だがエリンは、念の為に聞いてみる。


「今更だけど……人喰いの迷宮って、ダンは潜った事があるの?」


「いや、ない。俺は単なる腕試しで迷宮に潜る事はしなかった。基本的に依頼があったモノしかやらないから」


「そうなんだ……」


 予想通りの答えであった。

 ダンは、人喰いの迷宮で冒険した事はない。

 腕試しをせずに、レベル相当の受けた依頼を確実にこなす事で力を付けて行ったのだ。


 エリンがそんな事を考えていたら、再びダンが尋ねる。


「で、イレーヌさん、現況は?」


「ええ、実はクランフレイムだけではなく、少し前から行方不明者が出るようになりました。まあこのような迷宮では良くある事なのですが」


「良くある事!?」


「はい。迷宮に限らず、冒険者が依頼を遂行しようとしたり、腕試しをする際には原因不明の突発的な事が良く起きます」


「原因不明と言うのは、想定は出来るが、確定が出来ないと?」


「仰る通りです。原因が魔物との戦いで命を落としたものなのか、人間同士の争いなのか、それ以外の原因なのか……はっきり言えばギルドとしては行方不明者に対しては傍観という方針スタンスです」


「傍観……成る程、特別な理由や事情が無い限り、捜索などはしないという事か」


「そうです。最終的にはギルドマスターの判断ですが、明確な理由が無い限り、ギルドが介入して特別な捜索、調査はしません」


「私的な依頼は許可しているが、という事だな?」


「はい、捜索、調査に限らず当ギルドへ来た全ての依頼は審査をした上で、正式な案件として冒険者へ案内します。被害者に近しい方が依頼された捜索依頼を断る明確な理由がなければギルドの正式な依頼として受注しますので」


「そうか……エリン、リアーヌの兄さんはそのような依頼を受けて命を落としたんだ」


「ダン……」


 エリンはリアーヌの悲しみを思うと、胸が張り裂けそうになる。

 どんなに、悲しかっただろうと。


「イレーヌさん、人喰いの迷宮がそれほど古いのなら、詳しい地図がある筈だ。悪いが、それを譲って貰えないか?」


「構いませんよ、オリジナルは無理ですが、魔法複写したものがありますから」


「助かる! それと行方不明者の傾向はあるかな?」


「傾向?」


「どのような状態の死体が出るとか、遺留品があるとか。もしくは目撃者が居れば、何か手掛かりになる証言から傾向が出ている筈だ。行方不明者のな」


「はい、傾向はあります。人喰いの迷宮でいえば、死体が殆ど出ないのです。更に言えば遺留品もです」


「死体が殆ど出ない? ……遺留品もか」


「ええ、そして目の前で忽然と消えたという証言もありました」


「忽然と? そうか……成程な」


「ダン……」


 イレーヌの話を聞いて、ダンは何かを感じたらしい。


 人間が、忽然と消える迷宮って……

 エリンはチャーリー達、クランフレイムへの心配……

 そして未知への不安が、再び湧き上がっていたのだった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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