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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

The primitive sin

栄耀〜lume chiaro:Ove sorridere volle il creato……

作者: Ars Magna

知ってる?パソコンと同人誌は推定700年前からあるつて事。


ドンドン


……勿論、そんな訳無いと知っている。私のこの部屋が、楽園が、昔の人に理解されててたまるもんか。

この趣味、つまりは部屋全体を覆う女の子達を理解するのは少なくていい。その人たちはきっと全員女の子である。

集まって趣味を心ゆくまで語り合いたい。

私はよくそんなことを妄想する。

しかしそれは現実の虚しさの裏返しだろう。


ドンドン


パチパチと、木の燃える音がする。

部屋に充満している、反魂香の残り香。


私はさっき、真鍮の皿の上で魔薬を焚いて、死霊召喚を行った。

そして得たのは少なからず驚きの含まれる真実。


「魔術師は私だけじゃ無かったんだね」


私はしかし、彼のような存在を無視するに限る。何故ならそもそも魔術師は自分の世界が完結していなければならないから。


「ま、彼は魔術師とは呼ぶに足らないモノだから」


他を招き入れるなど言語道断。

それが付け入れられる隙を生むからだ。


ドンドン


さて、と私は思考を巡らせる。彼を召喚できたのは幸先がいい。彼の強い願いが私の術式に反応したのだろう。ならば今の私の術式と彼の魂は深い関係が結ばれている。


まず、これからの先駆けに、脚を紫紅のタリスマンが刻まれたロープで雁字搦めに縛ってしまう。更に簡易的な手錠で両手首を封じる。


カチカチと、金属同士がぶつかり合って邪魔だ。

体勢も苦しい。

正座の格好になりながら顔を灯火に近づけ

消えかけた反魂香の灯火に"澄んだ空気"を送ってやれば、ぶわり、と勢い良く燃えだした。


ちらりと振り返ってみると壁に大きく映る異形の影。異常な比率で描かれるソレは、部気味だなぁ、と一人思う。

息を一旦吐ききって、再度空気を吸い込んだ。

額の汗がじっとりと垂れる。


「源流破断。黄泉への道は閉ざされた」


一度、二度と指を振るい印を刻む。魔導書の示す通り五芒星を描くように。


「死霊転生。消えたくなくば、私の身体を使え」


既にプロテクト済みの私の魂を蹴っ飛ばし、追い出すように、彼の願いが奔流となって身体に注ぎ込まれる。あつくて、せまくて、くるしくて。


ドンドン、と。外で戸を叩く音を漸く私は意識した。

だが、全ては遅い。


痛いけど、成功だ。


私は身体を飛び出した。




飛翔の先は、中世のイタリア。かの探検家が目指した場所。そして私の根城がこれからできる場所だ。


ーー人の命が地球より重いなら


私は世界ををいくつも亡くすーー

これから行うのはただの実験であり、

魂として限界が訪れるであろうその時まで、

せいぜいこの世界をを侵略しよう。この小脇に抱えられた魔導書で。

ネイビーブラックが煌めく大学ノート。それがこの世界線に破滅をもたらす、50gの悪魔だったーー私はそう、呟いてみた。


目的の地はかの探検家が目指した王室だ。それは地下迷宮の最奥部にそびえるという。

ーーしかし彼の記憶では迷宮の先にあったのは私の家。遺跡の中にパソコンがあるとは思えない。つまりタイムリープして私の世界線に飛んだのだろう。さっき私は、そのタイムリープする為の魔術を真剣に逆探知した。


いまこうして時を飛んでいる最中、転送場所について考える。

そのまま探知して術式を利用したつもりだが、どうやら転移予想ポイントは彼が消えた場所とは違う。迷宮の中ではなくーー市街地か。


バシュっ、と軽い音がして、私は空中に放出された。

市街地の遥か上空。……これは相当ズレがある。

あの術は、不可逆だったのか。


今こうして整理する時間があるのは、落下している訳ではなく、私がいま幽体であるからに他ならない。

今頃私の肉体は強い想いを爆発させてハッスルする彼の魂に乗っ取られているだろう。まぁ、部屋には呪縛の魔法陣を敷いたから鎖に繋がれたまま泣いているはず。


それにしても


私が安定してこの世界線を旅するには、肉体が欲しいところだ。

しかし誰もが私のように魔術師であり、

こんな魂だけ器から追い出すような危険な真似をしているわけがない。

高度を下げ、町のシンボルである大きな噴水の近くに来た。

ここを街の中央とするように、綺麗に、計算された街並みだと思う。狂いのない、建物たちだ。

川を下る小舟の上で、朗らかに歌を披露する船乗り達に、見えないだろうがにっこりと微笑む。

美しい街だと、心から思う。


その中を私はすいすいと駆けていく。

魔術師が集う場所、と言えば決まっている。

教会。

それも真っ当な奴でなく、裏社会へのコネをもつ、例えば孤児院を運営するような教会とか良いんじゃない?

幸いなことに"十字"はすぐ側に見えた。


だが


私にはこれが何故だか分からない。

私はこの教会に近づくことは出来なかった。

近くに行けば、その存在を拒絶されるが如く、私は知らぬ間に引き返しているのだ。


仕方ない。事を早めるが良し。

近くの廃屋から、幽かに浮かぶ空の月を眺めて祝詞を詠んだ。

「Dominus tecum! Deus videt te non sentientem. Mihi te est aequum parere.」


肉体は亡き者となり、魂となっても力は残されている。

それは当時神秘的な事に思えただろう。

しかしそれは当たり前。

何故なら、魂という概念に力を与えたのは皆だから。


皆が魂を信じ、転生を祈ったからこそ。


前に、冒険家が語っていたな。しかしこれはそんな物ではない。

指向性の魔法ではなく、

概念神格化の類である。

魂という神性が、私の力の糧となる。


魔導を効率よく行う為に

「tenebrae」


力を借りる。この近くに潜む、原典の。

「Et obstupefacti tenebris.」



最盛を見せていた街並みに、ぽつりと一つ、黒雲が浮かんだ。

なにあれ?と凝視する人々。それ程にその雲は低位に、凶々しい形を持って存在していた。

散開。そして、繁華街は暗がりに閉ざされた。

まるで空を喰われたかのように、晴れない雲が視界を覆う。

人は本能の基に駆け出す、その様に酔いしれない筈がない。哄笑が溢れ、顔は歪む。

ーーどうした中世の魔術師たちよ。その程度では在るまいな?


代償として消え逝く魄。その苦しみに呻くように、私は叫ぶ。

原典が近くに、感じる。

移動をしている。

やはり教会に存在したのだ。さしずめ先程のは障壁なのだろう。不可視の壁は今やどうって事はない。彼らから素直に開けてくれる。


そして私は待った。強者の自覚があった。

だからこそ、空中に解き放たれた障壁の力を解析して驚き、慄く。


解析不能な、力。

それは、科学というものだろう。

魔術の付け入る隙の無い、理想的な障壁だった。


「私は、一般的な部類に入っていたのかい。障壁程度、超えられると思ったが」


科学的に造られたその障壁は、きっと幽霊を拒む物だったのだろう。だからこそ忌々しい。狭いはずの条件にこの私が捕まってしまった事が。


「……ここに原典は無いな。そもそも世界線を違えたかも知れない」


荒れ狂う風に揉まれながら、傷だらけの魂となった私は逃げる。

そこに、待ったをかけるものがいた。


「Puo aspettare un po?」


丁寧な口調とは裏腹に、劣悪な微笑みを浮かべる男だった。


「生憎、待ってられない。もう用はないから」


私は振り切ろうと浮かぶーーその動きが急に止まる。


「うぁっ!!」


背中の痺れ、これは?

見遣れば、私目掛けて向けられる、ねじ曲がった金属が螺旋状に絡まって出来たラッパの様な兵器。

それは私の知識にない、つまり異なる世界線の物だろうか。

殺意はいささか足りないが、十分な代物だ。私の身体は既に動けない。


「身体は、ね」

「⁈」


体の中で練り上げた、霊的な力を解放する。"天頂"曰く、魔力撃。

思う。これこそ魔力、そう魔力か。確かに生身の身体を持ちながらやれば、自分の体ごと役だろうといった一撃だ。

"魔"の力と名乗るに相応しい。

男は服が燃え盛るのを一生懸命に阻止している。


「ハハハッ」


トドメを刺すべく、魔術を展開する。


「Dominus tecum! Deus videt te non sentientem. Mihi te est aequum parere.」


殺意が足らないからだよ。下郎。


「Pulsus radio unda!」


漲る波動が、電磁波として彼の身を焦がす。


周囲が沸騰する様な高揚感。間違いなく上昇した気温に、魂として驚きつつ、黒く変色した焼死体を蹴った。

さて、もう帰ろっかな。

でも元の次元には戻れない。

誰かが捕まえに来たし。

だからこそ、原典を持って立ち向かおうとしたのだがーー


「次のイタリアにいくしかないか」


小脇に抱えられた、大学ノート一冊。破壊の余韻は未だに地響きとなって続くが、こいつがあれば大丈夫。


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