はるよびのようせい
冬の森は静かでなぁんにも音がしない。
みぃんなおうちの中に隠れてしまって外に出ようとしない。
お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、犬のジョンも猫のポチもニワトリのフランシーヌだっておうちや小屋の中から出てこない。ポチはトイレ以外はだんろの前から動こうとしない。
森に住んでいるキツネもウサギもクマだって巣穴の中から出てこない。
だから僕がそーっと一人でおうちから出て、雪をかき分けて森に行っているのを誰もしらない。
僕が森の中で何をしてるのか、誰もしらない。
なんてすてきなんだろう。
冬の森の中では僕は自由だ。
冬のあいだおうちの中では、ずっと、だんろに火がついている。
ばんごはんのあとは、みんなでだんろの前にすわって、お母さんが入れてくれたホットミルクを飲みながらお話をきく。
お母さんはとってもお話がじょうずで、おんなじ話でもぜんぜんあきたりしない。
お母さんがよく話してくれるお話に、こんなお話がある。
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むかしむかし あるところに ふかいもりがありました。
そのもりのなかには みずうみがありました。
ふゆ に なって、みずうみの みずが ぜんぶ こおると みずうみの まんなかに ちいさな まぁるい
“ひかりのたま”
が うかんできます。
“ひかりのたま” のなかには
“はるよびのようせい”
がねむっています。
“ひかりのたま” は だれにも みえません。
ただ しずかに こおったみずうみの まんなかに、うかんでいます。
“はるよびのようせい” は “ひかりのたま” の なかで おひさまの ひかりを あびながら ゆっくりゆっくり おおきくなります。
おひさまが のぼって しずんで またのぼります。
なんかいも おひさまがのぼり なんかいも おひさまが しずみました。
おひさまと いっしょに とっても ちいさかった “ひかりのたま” は とっても おおきくなりました。
おひさまの ひかりを いっぱいあびた “はるよびのようせい” も ”ひかりのたま“ の なかで、とっても おおきくなりました。
すっかり おおきくなった “はるよびのようせい” は “ひかりのたま” の なかで すこしのじかん おきて うごくようになりました。
“ひかりのたま” は みずうみを すべておおうくらいの おおきさまで おおきくなりました。
“ひかりのたま” の なかで “はるよびのようせい” は はるを ちゃーんと、よぶために いっしょうけんめい れんしゅうして、いました。
はるをよぶための うたは とっても むずかしいのです。
いっしょうけんめい れんしゅうを したので “はるよびのようせい” は とっても じょうずに はるをよぶためのうた を うたえるように なりました。
そして
たいようの ひかりが、いつもより すこし あたたかい あるひ
ぱぁん!!
と おおきなおとがして、みずうみから はみでるくらいまで おおきくなっていた “ひかりのたま” が われました。
われた “ひかりのたま” は キラキラとひかりながら みずうみに すいこまれて いきました。
“ひかりのたま“ の なかで おおきくなっていた “はるよびのようせい” は
ぱちり
と きんいろの まつげにかこまれた おおきくて キレイな みどりいろのめを あけました。
ほそくて キレイな てと あしを めいいっぱい ひろげて、ウーンと のびをすると まわりを きょろきょろ みわたしました。
そして にっこりと わらいました。
“はるよびのようせい” は おおきく、いきをすって はるをよぶうたを ゆっくりと うたい はじめました。
すると つめたく かたく がんこに むすびついていた ゆきのけっしょうたちが ひとつ またひとつと、むすびつきを ゆるめていきます。
ゆるくなった むすびつきの すきまから、ゆっくりと
やさしく あたたかな たいようのひかりが しみこんでゆきました。
たいようのひかりを うけいれた ゆきのけっしょうたちは、すこしづつ とけだして もりのきぎを うるおしました。
かわとなって もりから ながれていったものたちも ありました。
ゆきが とけはじめると、ふゆが こわくて すあなのなかで まるくなったり ゆっくりとねていた どうぶつたちが ひょっこりと すあなのいりぐちから かおを だすように なりました。
やさしい うたごえと あたたかな たいようのひかりを あびて もりのちいさな あたらしい いののちたちが つぎつぎと めを さましてゆきます。
はるをよぶうたは ゆきのけっしょうが すべてとけだし なくってしまうまで つづきました。
そして さいごの ゆきのけっしょうが かわに ながれてゆきました。
うたいおわった “はるよびのようせい” は すっかり めをさました もりのようすを みて とってもうれしそうに わらいました。
「はるよびはなされた!!!」
おおきなこえで さけぶと みずうみの まわりに キラキラとかがやく ピンクいろの ひかりのあわが うまれました。
「もりのきぎ」
“はるよびのようせい” の こえにあわせて、ひかりのあわが くるくると まいおどります。
「どうぶつたちや はなや くさや こんちゅうたちも」
「すべての せいあるものに しゅくふくを!!」
いいおわると “はるよびのようせい” は みずうみから いっぽ ふみだしました。
すると みずうみから でたところから ゆっくりと うすいピンクいろの ひかりのあわに、おおわれてゆきました。
みずうみの うえから あわが きえると “はるよびのようせい”
も いっしょに きえて しまいました。
これから はるがきて なつがきて ふゆがきて ふたたび はるよびが ひつようになるひまで “はるよびのようせい” は ひかりのあわに つつまれて ねむりにつくのです。
つぎの “はる” を よぶために。
おしまい〗
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冬のあいだにしてくれるお話のなかで、僕はこれが一番好き。
だからおうちを抜け出したときの半分くらいは“はるよびのようせい”をさがしている。
きっとどこかにいるはずだから…
ある日、森の中を歩いていると小さなみずたまりを見つけた。
僕がうででわっかを作ったくらいしかない、小さなみずたまりなのに、なぜか魚が一ぴき泳いでいた。
なにもかもが隠れて寝しずまった冬の森の中で、はじめて僕いがいで動いている生きものにであったのがなんだかうれしくて、僕は雪を固めてみずたまりの周りをかこうことにした。
それから毎日、僕はみずたまりを見に、おうちをぬけだした。
少しずつ大きくなるみずたまりにあわせて、かこいも大きくしていく。
10日目にはみずたまりはみずたまりじゃなくて、湖になっていた。
さすがに大きくなりすぎて僕はかこいをすることはあきらめていたけど、毎日通うのはやめなかった。
不思議な湖に住む魚も不思議で、僕があれこれしているとこっちをじーっとみてくる。
あんまりたくさん見てくるから僕も見つめ返すと、ずっとにらめっこしてるみたいになっちゃった。
楽しかったので魚とはたまににらめっこをしている。
その日もいつものようにおうちを抜け出して、湖にむかっていた。
でも、歩いても歩いても湖につかない。
迷子にならないようつけたシルシをたどっていっても、湖にたどり着くことができなかった。
探して探して、いつの間にかあたりが暗くなってきていた。
僕は湖が見つからないことが悲しくって、べそべそ泣きながらおうちに帰った。
おうちに帰ってひみつの出口を開けるとお母さんが立っていた。
僕がいないことに気がついて探していたらここを見つけたんだって。
おこられる!!
しょんぼりした僕を、お母さんはやさしく抱きしめてくれた。
“心配したのよ”
そう言ってぎゅーっと抱きしめてくれた。
雪の中、湖を探し回って冷えたからだがぽかぽかしてきて僕は泣きながら
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!」
と一生懸命、お母さんに謝った。
お母さんの後ろにはお父さんとお兄ちゃんもいて、お父さんからはげんこつを、お兄ちゃんからはほっぺたをひっぱられた。
そのあと、森であったことを話すと、
「それは“はるよびのようせい”が目覚めるための準備中だったのね」
って教えてもらった。
お話では話してなかったけど、“はるよびのようせい”は起きる前に自分が起きるための湖を作るんだって。
僕が見たのはそれだろう。って。
毎日通って、かこいを作ったり、お話をしてたから今までは行くのを許してもらっていたけど、“はるよびのようせい”がそろそろ起きるから行けなくなったんだろう。って。
これ以上、春がくるのがおそくなったらみんなが困るからって。
近いうちに春がきて、おうちからも出られるようになったら皆で湖を探しにいこうね。って約束をして、僕はすっごく久しぶりにお母さんにだっこしてもらって眠った。
冬の冒険はとっても楽しかったけど、僕はもうしないと思う。うん、たぶん。たぶんね。
だって
“はるよびのようせい”
が本当にいる。ってわかったから。
それにみんなにすっごく、心配されちゃったし。
冒険。したくてもできなくなっちゃった。
でもいいんだ!お話ししたらお外で遊んでもいいよ。って言ってもらえたんだ!
だから次の冬からはみんなと一緒に冒険にでかけよう!!!




