~問題編~
私、史上初の読者参加型ミステリーです。
問題編の最後に問い掛けられた謎に挑戦してください。
2014年12月――。
この日は久方ぶりの大雪に見舞われ、空から舞い散る雪が、一面を白く覆い尽くしていた。
豪雪地帯で知られるこの新潟も、都市部では思ったほど積もらない。
特に海岸付近では、強風に飛ばされ、積雪は大した事はない。寧ろ、気を付けなければならないのは、路面に光るアイスバーンの方だろう。
朝の冷え込みが厳しかった、ここ石川小学校も、昼を過ぎれば、雪も止み、体も慣れてきて、児童の動きも機敏になってくる。
今日一日の最後を飾る、クラブ活動の時間。四人の児童が、寒空の校舎の中庭に集まっている。
「じゃあ何処から探そうか?天音、決めてよ」
暖かそうな毛糸の帽子を被った佐藤麻里佳が、ホームズキャップの女の子に、指示を仰ぐ。
「麻里佳がリーダーなんだから、麻里佳が決めて」
ホームズキャップの伊織川天音が、面倒そうに言いながら、手を擦り合わせて暖を取る。
「でも、実質は伊織川がリーダーだろう?CEOの命令だ」
黒のダウンを着込んだ、塩谷孝文が天音に言う。
「取り敢えず、あっちから探そうぜ」
青いアノラック姿の加原大樹が、グラウンドを指差すが、誰も耳を貸さない。
「大体、何でこんな事をしなきゃならないのよ」
天音が白い溜め息を吐くと、麻里佳が黄色いミトンの手を天音の肩に乗せる。
「私達、探偵クラブだから」
麻里佳の笑顔に忌々しさを感じながら、天音が麻里佳の手を払い除ける。
「麻里佳が勝手に作ったんじゃない!」
目を吊り上げる天音に、塩谷が一言申す。
「伊織川がクラブに入らなかったのが悪い」
「そうだそうだ」
機に乗じて天音を茶化す加原に、天音が鬼気迫る顔で吐き捨てる。
「うるさい!虫っ!」
罵られて怒り狂う加原だったが、そのボキャブラリーの低さでは、到底、天音には敵わない。
「う、うるせー!バーカバーカ!」
白い地面を踏みながら、悔しさを露にする加原を無視して、三人はしばらく考え込んだ。
そもそも、探偵クラブとは、4年生から強制的に入会しなければならないクラブに、入会しなかった天音の救済と、問題児の加原の収監先として、麻里佳が担任を通して発足させたクラブで、部員はこの四人。
普段は部室でまったりとアンニュイに過ごしていたのだが、急遽、担任から依頼が舞い込んだ。
「ウシのキーホルダーを探して欲しい」
それが、探偵クラブの初仕事になった。
初めて活動らしい活動をするクラブのリーダー麻里佳の鼻息は荒い。
「どんなキーホルダーなんだ?」
困った顔の塩谷が麻里佳に訊ねると、麻里佳がポケットから写真を取り出して見せた。
「コレだって」
デジカメで撮られたであろう写真には、ウシのキーホルダーがアップで写っている。
先生の机の上に置かれたウシのキーホルダーは、デフォルメされたウシがウレタンか何かで出来た、其処らに売ってそうな代物で、とても大切な物には見えない。
天音は塩谷の肩越しに一瞥すると、「フン」と鼻で笑い、
「先生は外で無くしたって言ってた。まずは駐車場を見てみましょう」
四人は教員用の駐車場へ向かった。
* * * *
薄く積もった雪が、白々と地面を染める駐車場に、数台の車が、ぽつりぽつり留まっている。
「今朝、無くしたらしいから、雪の中に隠れてるかも知れないな」
塩谷が駐車場を見渡しながら呟く。
「そうね、こりゃ大変だわ」
麻里佳が塩谷に同意して、溜め息を漏らす。
「必殺、雪爆弾!」
雪でテンションが上がった加原が、植え込みの上の雪を固めて、麻里佳に投げ付けた。
麻里佳がサッと雪玉を避けると、後ろにいた天音の肩に直撃し、砕け散った雪が、天音の顔に掛かった。
一瞬、静まり返る四人。ワナワナと身を震わせる天音が、憤怒する。
「死ね!クソ虫!」
天音が怒濤の勢いで、加原を追い掛ける。恐怖に顔を引き吊らせた加原が、必死に逃げ惑う。
「伊織川!参った!ゴメンなさい!」
そんな加原の謝罪の言葉に一切耳を貸さず、天音が加原を追い立てる。
猫に追い掛けられるネズミのように懸命に逃げる加原の体が、突然宙を舞い、背中から地面に叩き付けられる。
「……ドサッ」
強かに背中を打ち付けた加原が、ヨロヨロと半身を起こすと、その背後で文字通りの仁王立ちする天音。
「下らない事をするからよ、バカめ!」
その加原の後頭部目掛けて、握った拳を振りかぶった瞬間、天音が何かに気付いて動きを止める。
「退け!虫っ!」
天音が加原の腰を蹴り上げて、加原を退かせる。
「これは……」
天音が覗き込む地面に、塩谷と麻里佳も駆け寄って見る。
そこには、校舎の火災発生時に放水するための水が貯められた、防火水槽の四角い鉄蓋があり、その縁に真新しい引っ掻き傷が付いていた。
この防火水槽は滅多に開ける事はない。開けたとしても、定期的な検査の時のみで、時期も夏休み期間のはずだ。
「虫っ!ここを開けなさい!」
防火水槽の蓋は、そう大きくなく、三十センチ×四十五センチくらいの物だったが、子供が一人で開けるのは無理がある。
塩谷も手伝って、ようやく少しずらせた。
「あった!」
麻里佳が指差す方には、ビッシリと張った氷に嵌まったウシの姿だった。
「何でこんな中に……」
塩谷が持っていたボールペンを突き立てて、ウシの周りの氷を破壊する。
氷はさほど固くなかったので、すぐにウシの救出に成功した。
初仕事を見事に完遂した探偵クラブの面々は、担任の柳沢先生の下へ意気揚々と向かった。
* * * *
職員室では、担任の柳沢先生が嬉しそうな顔で一行を出迎えた。
「早かったのね」
優しく微笑む柳沢先生に、麻里佳が救出したてのキーホルダーを渡す。
「大変でしたよ、柳沢先生……まさか、あんな所に落ちてるなんて」
麻里佳が調査報告を始めると、柳沢先生は熱心に耳を傾けていた。
「後は犯人探しですね。私達に任せてください!」
麻里佳が胸をドンと叩いて、身を反らせると、柳沢先生が慌てて止める。
「いいのよ、佐藤さん。見つかっただけで、先生は満足よ」
追加調査を遮られた麻里佳が不満そうに、頬を膨らませる。
「でも、先生……」
納得行かずに柳沢先生に詰め寄る麻里佳を、天音が制止する。
「いいのよ、麻里佳。犯人は柳沢先生なんだから」
天音の告白に、探偵クラブの三人は、驚愕の声を上げる。
「よく考えて見なさい。たかだか、こんなキーホルダーを単体で写真に撮る訳無いでしょ?しかも、この机の上で……」
天音に言われて合点がいった三人が、柳沢先生に突っ掛かる。
「何だよ先生!俺達、めちゃくちゃ苦労して取って来たんだぜ?」
「そうだよ!俺なんか氷を壊すのにボールペン一本ダメにしたんだから!」
ブー垂れる男子児童二人を、柳沢先生が止める。
「ちょっと待って!確かに先生は防火水槽にキーホルダーを隠したけど、先生が隠したのは、お昼休みだし、先生が隠した時は、氷なんて張って無かったわ。ただの水で、ウシは浮くから取り易かったはずよ」
「んな訳ねぇよ!キーホルダーは氷にガッチリ嵌まってたぜ!なぁ、塩谷?」
「あぁ……間違い無い。ボールペン壊れたもん」
二人に迫られ、タジタジの柳沢先生が首を傾げる。
「一体、どう言う事?」
すっかり困ってしまっている柳沢先生の姿に、天音はクスッと吹き出した。
「なぁんだ、そう言う事か……」
可笑しそうに笑う天音に、柳沢先生が訊ねる。
「伊織川さん、どう言う事なの?」
眉をハの字にしている柳沢先生に、天音が言う。
「単純な事ですよ、柳沢先生。これと同じような事を夏に経験した人も、いるんじゃないかしら?」
含みを持たせた言い方で語る天音に、ますます頭がこんがらがる柳沢先生なのだった。
さて、
柳沢先生が、お昼休みに隠した時は凍っていなかった水が、一時間ほどで凍ってしまった。
この謎を解明してください。
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締め切りは解答編が投稿されるまでです。
どなた様も、ふるってご参加ください。