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ホラー短編集

別れたはず

作者: 藍上央理

 上京してきて早5年。もうすぐ三十路になろうとしている。

 二十五にして上京とは遅いかも知れない。

 地元にいるのが辛くなった、それだけだ。

 狭い地域で、だれが別れただの、ひっついただのと噂されるのが嫌になったのだ。

 未経験者でもOKという文句につられて住み込みの組み立て業をはじめた。金も自由時間も合って、単調だけど、それなりに人生悪くないんじゃないかと思っていた。

 

 ある日、実家の母から電話があった。

 「近所に住む聡美ちゃんが急死した」というのだ。

 驚いて訊ねると、車で旅行中に高速道路で、居眠り運転のトラックが対向車線から飛び越えて、聡美の車にぶつかり、壁とトラックの間で挽きつぶしたと言うことだった。

 死体は残骸のようになって、葬式のときは顔も見ることができなかったらしい。

 あんたに電話してもいつもいないから……、と母親に文句を言われた。


 上京する直前まで聡美と付き合っていた。

 狭い町だから、いつ結婚するのか、とよく聞かれたものだ。

 でも、どうしても聡美と結婚する気が起らなかった。

 言葉では説明しようがない。聡美の存在が重たかったと言うべきだろうか。

 結婚という束縛から逃げ出すために上京し、聡美とはすこしずつ音信不通になるという手段で別れたつもりになっていた。


 別れたつもりになっていただけだった。


 聡美は5年間俺に電話をかけ、寮の外で待っていた。だから、友人と飲み歩き、母親の電話にも出なかったのだ。

 母親の電話に出たのは、偶然でしかなかった。

 聡美の姿を見なくなったから、やっと諦めたのだと思ったのだ。


 けれどその考えは甘かったと、今思い知らされている。


 俺は車の部品の組み立て作業をしている。

 組み立てていく部品の隙間から、白い聡美の手が俺の手首を握り締める。

 俺は聡美に別れを思い知らせるために、白い手のうえに車の部品を重ね合わせ、何度も挽きつぶしている。

 いつになったら、別れたと気づいてくれるのだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 閉鎖的な田舎から逃げるように上京しても、聡美さんは追いかけてきたんですね……! しかも5年も……! すごい執着心ですね。どんな胸中だったのでしょうか……! もしも主人公が「すこしずつ音信不…
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