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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
3章 内なる闇、秘められた過去
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調査依頼

「……それで、他には? ……分かった。すぐに手配しよう」


 時刻は午前9時。朝飯の片付けが終わり、全員がそのまま居間に集まっている。

 今日は店を開く予定も無いため、みんなでテレビを見たり雑談したり読書したり、思い思いに過ごしていたが、ウェアルドが電話を片手に真剣な表情になった。それに気付いた一同も、何となしに様子を伺っている。


 彼は電話を切ると、のんびりとしている一同を見渡す。


「くつろいでいる所を悪いが、依頼が入ったぞ」


「お、やっぱりか。今日はボケは無しだよな、マスター?」


「……昨日のことは忘れろ。誰がこんな手の込んだボケをするかよ」


「だから慣れないことはしないほうが良かったのですよ」


 コホン、と一度わざとらしい咳払いをするウェア。その間に、一同はテレビを消したり本を閉じたりして、彼の話を聞く体勢に入った。


「今回の任務は、街外れにある廃工場の調査だ」


「廃工場?」


「ああ。知っている者はいるか?」


 そう言われても、自分に縁の無い工場などさすがに知らない。ほぼ全員が首をひねっている中、ジンだけ例外だった。


「廃工場と言えば、先月にクライン社が廃棄したものですかね」


「そうだ。最近になってその工場に、不審な人影の出入りが目撃され始めたらしい」


「不審な人影ですって?」


「ああ。詳しい人相は分からないが、複数の人物が工場内に入っていく姿が、数回にわたって目撃されているそうだ」


「へえ。それは確かに妙だね」


 廃工場に用事がある者などそういないはずだ。考えられるとすれば、元関係者ぐらいのものだが。


「目撃者は複数いるから、見間違えとは考え辛い。クライン社にも確認をとったそうだが、心当たりが一切ないらしい。つまり、正真正銘の不審者、というわけだ」


「だから、何か問題が起こる前に調査をしろと?」


「そうだ。その連中がよからぬことを企んでいる可能性は十分にあるだろう」


 誰もいない廃工場に出入りする集団、か。確かに、かなりきな臭い話だな。付近の住民が不安に思うのも当然だ。


「依頼内容は、連中が何をしているのかを突き止めること。そして、人に害を為すと判断されたならば、そいつらを捕らえる事だ」


「では、状況によっては戦闘も起こりうるな」


 ウェアと誠司の言葉に、みんなの表情が少し引き締まる。特に瑠奈たちエルリア組は。


「対人戦、か。初めてじゃないけど、あまり慣れないんだよな……」


「そうだね……UDBとの戦闘とは、色々と違うからね」


 相手もPSや武器などを使ってくるのだから、獣との戦いとは戦略も変わってくる。それに、心情としてのやりづらさもあるのだろう。もっとも、フィオの存在もあるので、彼らはUDBであっても軽率に命を奪うことは良しとはしないが。


「上手く遭遇できるかも分からないし、身構えすぎなくてもいい。遭遇しないほうが望ましいかもしれんしな」


「集団の目的や規模も不明瞭ですからね。感づかれないうちに決着をつけるのが理想ではありますが、いきなり深追いすべきでもないでしょう」


 だからこそ調査なのだろう。その連中が何者で、何をやっているか。それを知れば対処法も見えてくる。


「依頼の概要は、こんなところだな。では、この依頼を受けるメンバーだが……」


 一つの依頼に、いつもギルドが総出で取りかかるわけではない。その規模や危険度、適正などから、ウェアがメンバーを編成することになる。


「ジン。今回は、お前にリーダーを任せるぞ」


「はい、かしこまりました」


 大方の予想通り、最初に呼ばれたのはジンだ。こういう任務においては、特に頼りになる男だからな。


「ガル、美久。お前たちはジンのサポートをしてくれ」


「ええ、任せてちょうだい!」


「了解だ」


 続けて呼ばれた俺と美久も立ち上がる。この三人は、調査系の依頼ではよく組むメンバーだ。小回りが利き用心深い美久も、こういった調査のスキルは高い。


「他は、必要と思うメンバーを二、三名、ジンが選抜してくれ。お前が動きやすいようにしてもらったほうが良いからな」


 ウェアに言われ、ジンは品定めするような視線で、一同を見渡す。……途中、俺と目が合った。微妙にその笑顔に嫌な予感を感じるんだが……。


「そうですね。では――」













「で、俺様に海翔、それから瑠奈ちゃんねえ……」


 溜め息混じりに赤豹が言う。

 メンバーの発表後、俺たちはすぐに出発した。現在、目的の工場の前なのだが、アトラにはあまりやる気が無い様子だ。


「あなたはあの中では経験が豊富なほうですからね。海翔も頭が切れますから大丈夫でしょう。そして、瑠奈がいないとガルフレアが怒りますから」


「…………ジン」


「最後のは冗談ですよ。コンビネーションを考えたのは事実ですがね」


 いつも通りの笑顔で言い放つジン。何だか最近、この事が皆の玩具にされている気がしてならない。いや、俺が半端なのが悪いという自覚はしているがな……要は発破をかけられているんだ。


「それにしても、大きな工場ですね」


 瑠奈の言葉通り、目の前に広がる工場の敷地は広大だ。これは、調査も骨が折れそうだな。


「クライン社っつったら、機械工業の大手だしな。俺もパソコン関連とかで色々とここの製品には世話になってるし」


「私でも名前は知ってるわ。どうして廃棄されたのかしら?」


 海翔と美久は、そんな会話をしながらジンに視線を向ける。


「詳しくは知りませんが、本社のほうの意向らしいですよ。まあ、色々とあるのでしょう、色々と」


「色々、ねえ。とっとと取り壊しときゃ良かったのにな」


 気だるげにアトラが言うが、これだけの施設だ、解体工事もそう簡単にはいかないだろう。それは分かった上での愚痴だろうがな。


「いつまでもここで話していてもしょうがない。早く始めるとしよう」


「そうですね。では、早速チーム分けをするとしましょうか」


 これだけの工場だ、全員で同じ所を調べても非効率だろう。今回は、時間をあまりかけない方が望ましいしな。


「もし相手と遭遇した時を考えると、少人数だと危険じゃないですか?」


「それも一理ありますが、分散していたほうが不測の事態に対処しやすい、という面もあるのですよ。特に、何が仕掛けられているか分からないような場所ではね」


「まとまってりゃ、罠でもあったら一網打尽にされちまう危険があるってこったな」


「なるほど。アトラが言ったら説得力ねえけどな」


「……こんのクソガキ」


「日頃の行いのせいでしょ」


 無論、少人数化のデメリットも避けられないが、俺たちは少人数でのチームに慣れている。ギルドの活動では珍しくないからな。


「私は訳あって一度この工場に入ったことがあるのですが、ここは大きく分けて三つの区画になっています。よって、私たちも三組に分かれましょう」


 どうやら、それも最初から考えた上での人選のようだな。だとすれば、二人ずつのペアか。


「東ブロックはガルフレアと瑠奈。西ブロックは海翔と美久。そして中央ブロックが私とアトラです。意見のある者はいますか?」


 ジンの口から語られるチーム編成。それを聞いたアトラは、一瞬で実に不服そうな顔になる。


「俺様、華のねえチームかよ」


「あなたは私が手綱を握っておかねば、何をしでかすか分かりませんからね。特に、女性と見れば見境なく襲いますから」


「俺様は発情期の獣か!」


「おや、違ったのですか?」


「………………」


 アトラは酷くげんなりとした様子で口を閉じた。文句を言う気力も無くなったようだ。彼はジンに対しては滅法弱い。


「では、特に文句も無いようですね。ガルフレア、美久、あなた達にはこれを渡しておきます」


「これは?」


「工場内の見取り図です。それぞれの担当範囲に印をつけてあります」


 俺は見取り図を開いてみる。青色のマーカーで囲まれた部分が、俺たちの担当範囲のようだな。


「マスターから大抵の情報は受け取っていますので、何か不明な点や忘れた事があれば私に聞いて下さい。後は、何かおかしな所を見つけたら、すぐに連絡を。特に瑠奈と海翔。あなた達はこの手の任務には不慣れでしょうからね」


 そう言いながら、俺と美久にも目配せする。俺たちがしっかりとサポートしろ、と言う意味だろう。今回のメンバー選出は、瑠奈たちに経験を積ませる意図もあるはずだ。


「では、始めるとしましょう。アトラ、いつまでも拗ねないで下さい」


「へいへい。ジン様には逆らいませんよ、っと」


 一切のやる気が感じられない口調で、アトラは言う。ジンとのペアなので、問題は無いと思うが。


 ジンを先頭に、巨大な工場の中へと足を踏み入れていく。

 工場内は、多種多様な機械類が至るところに放置されたままになっていた。海翔と瑠奈が少しせわしなく辺りを見渡しているが、物珍しさもあるのだろう。


「これは、本当に骨が折れそうね……」


「全くだぜ、はあ。それじゃ、とっとと解散しようぜ。早く片付けて帰りてえしよ」


「そうですね。では、始めましょうか。例え何も成果が無くとも、予定時間には確実に合流地点に着いていること。各自、気を付けて下さい」


「はい! カイ、そっちも頑張ってね」


「おう、ルナもな。んじゃ行こうぜ、美久」


 軽く言葉を交わした後、俺たちはジンの指示通りのチームに分かれて、それぞれの担当区域に向かう。

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