表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
3章 内なる闇、秘められた過去
81/432

獅子王の面々

 中に入ると、俺の視界には、二人の人物が飛び込んできた。一人は精悍な顔付きのチーターの獣人。毛色はチーター本来のそれで、髪は茶色。目付きが少し鋭く、背が高くスマートな体型をしている。

 もう一人は、青い髪に穏やかな雰囲気の人間の少年。身長はそれほど高くなく、童顔なために幼く見られがちだが、実は成人している。と言うよりも、二人とも俺と年齢は一緒だ。


「ああ、ガルフレアだ。こんにちは」


「……ガルかよ。何の用だ?」


 友好的な感じで話しかけてくる人間の青年と、反面、何だか敵意のようなものを発するチーターの男。どうも、かなり機嫌が悪いようだ。


「何の用だ、とはご挨拶だな、リック」


「ごめんねガルフレア。リックったら、最近はやることが少ないから苛立ってるみたいでさ。この前の仕事でちょっとヘマして、その挽回を早くしたいらしいんだけど」


「余計なこと言うんじゃねえよ、レアン!」


 チーターの男……リック・ティンバーは、苛立ちを隠そうともせず、レアン・コルセットに向かって唸る。レアンの側は慣れているのでのほほんと笑っているが。


「ったく、最近は店番か雑務がほとんど。伝統あるギルドが仕事不足なんて、屈辱も良いとこだ」


「平和なのは良いことだろう。それに、仕事が減ってきたのはうちも同じだ」


「知るか、んなもん!」


 ……愚痴られたので答えたのだが、こういうのを逆切れと言うのだろうか。機嫌が悪いのは仕方ないが、対応に困る。


「第一、分かってるのかお前? うちとお前らは、商売敵みたいなもんなんだぞ?」


「良く共闘もしてるけどね。マスター同士も仲良いし」


「お前は黙ってろ! つまり、ここに来るってのは、宣戦布告みたいなもんなんだぞ? ケンカ売ってくるなら、俺はいつだって相手に」


「えい」


「おごッ!?」


 ……やけに可愛らしい掛け声と共に、リックの頭頂部目掛けて背後から鉄槌が振り下ろされた。が、残念ながら威力と声はイコールで無かったらしく、リックはそのまま頭を押さえて倒れ込んだ。


「貴方が喧嘩を売ってどうするの、リックちゃん。ガルフレアちゃんに失礼でしょう?」


 うずくまるリックに対し、鉄槌を下した張本人である人間の女性は、優しい笑みを浮かべてそう語りかけた。無論、リックは痛みに悶えてそれどころではない。


「……セレーナ」


「いらっしゃい、ガルフレアちゃん。ごめんなさい、この子ったら、貴方の事は特にライバル視してるみたいなのよ。許してもらえるかしらぁ?」


「ああ。俺は別に構わないが」


 彼女はセレーナ・ウェンディール。獅子王のメンバーでも古参の一人である。ふわりとした水色のロングヘアーはよく手入れされていて、美しい。見ての通り、のんびりとした独特の雰囲気を持つ人だが……誰もが認める、大人の美女である。


「ね、姐さん……」


 涙目になりながら、リックが立ち上がる。ちなみに、姐さんとは彼女の愛称であり、別に二人が姉弟と言うわけではない。


「駄目でしょ、リックちゃん? わざわざ来てくれたお客様なんだから、ちゃんとおもてなししないと」


「だけどよ、最近は仕事が……」


「それはガルフレアちゃんのせいじゃないでしょう? やる気があるのは良いけれど、他のギルドの方に当たってちゃいけないわねえ」


「う……」


 やんわりとたしなめられ、リックはそのまま黙り込んだ。いくら血の気が多い彼でも、セレーナとランドには逆らえない。


「怒られちゃったね、リック」


「うるさい……」


 リックの尻尾はせわしなく動いていた。これでもこの数ヶ月の付き合いがあるから、悪い奴ではないのはよく分かっているのだがな……。


「それで、ガルフレアちゃん。何か用事があるのかしらぁ?」


「ウェアからランドへの届け物を頼まれたんだ。渡し忘れていたらしくてな」


「あら、そうだったの? わざわざ悪いわねぇ」


 セレーナはにこやかに笑う。相変わらず包容力のある笑みだ。彼女の雰囲気がそうさせているのだろうが、何だか和やかな気分になれる。


「せっかくここまで来たから、直接渡したいんだが。ランドは忙しいのか?」


「忙しい事あるかよ。うちだって仕事不足だって言ってるだろ?」


「そうか。やはり、UDB関係の依頼が減っているのか?」


「うん。おかげであまり戦わなくて良いから楽だけど……UDB関係の依頼がギルドの中心だからね。あはは、商売あがったりだよ」


「そうか。これを平和と取るか、異常事態の前触れと取るか」


 少なくとも、ランドは後者と考えているようだったがな。だから、ウェアを訪ねてきたのだろう。


「異常事態、か。あれかな、嵐の前の静けさってやつ?〈闇の門〉みたいなのが、また起こったりするのかな」


「どうだろうな。何も起こらないでくれれば良いんだが」


「だな。仕事は歓迎だけど、ややこしいのは勘弁だ」


「まあ、難しいことは年長者たちに任せましょう? 私たちみたいな若者は、マスターを信じて動けばいいでしょう」


「……姐さんもう38だし、若者のカテゴリに入ろうとすんのはさすがに辛いんじゃ」


「リックちゃん、しばらく黙るか男を辞めるかどっちがいいかしらぁ?」


「ひぃっ!?」


 リックの失言に対して、セレーナが男として最大級に恐ろしい一言を放った。リックは身を縮め、尻尾が股の間を潜り抜けている。……と言うよりも、俺も思わずそうしてしまった。想像するだけで痛い。

 セレーナはいつも通りの口調を崩さないが……目付きが全く笑っていない。恐らく、リックがこの警告を無視すれば本当に潰される。女性に歳の話を振るのは、かくも恐ろしいものなのか……?


「あ、ガルフレアちゃん。ランドなら、さっきお店のほうに行ったから、まだいるはずよぉ」


「わ、分かった……」


 何だか色々な意味でいたたまれなくなってきたので、俺はそそくさとギルドを後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ