変わらない一同
「……ふう」
何か、いろんな意味で慌ただしかったね、今日は。まあ、もう慣れてきたけど。
「大丈夫か、瑠奈」
「平気だよ。確かにちょっと忙しかったけど、このぐらいへっちゃらだって」
「そうか。それなら良いが、疲れた時は無理をするなよ。俺に言ってくれれば、できる限りサポートする」
「あはは、ありがと。……でもね。ガル。心配してくれるのは嬉しいんだけど、あまり過保護にならなくても大丈夫だよ。私だってそこまで子供じゃないし」
「……む」
小さく唸る。どうやら、自覚はあるみたいだ。
「今朝のアトラのこともそうだけど、そこまで気を回さなくてもいいんだよ? ある程度は、自分でどうにかするからさ」
「……済まない。騒いでしまって、迷惑だったか?」
「あ、いや、別に怒ってる訳じゃないんだよ? ガルにはすごく感謝してるしね」
目を伏せ、しゅんとしてしまったガルに、私は慌ててフォローに入る。相変わらず、こういうとこは子犬みたいだ。
「ただ、私のことで二人が喧嘩とかしてるのは、ちょっと申し訳ないなってね」
「それは……済まない」
いや、私に謝る必要は無いけどさ。
「別にアトラが嫌いなわけじゃないんだ。あいつが信頼出来る奴なのは知っているつもりだからな。ただ、その……」
「…………?」
語尾を濁したガルに、私は首を傾げる。ガルは私の反応を見守ってから、ちょっと寂しげに笑った。
「とりあえず、部屋に戻るか」
「……うん、そうだね?」
何だか微妙な話題な気がしたので、私はそれ以上突っ込まないことにした。
コウと一緒に3人で居間に戻ると、カイとレンがのんびりくつろいでた。
「お疲れ、みんな」
「今日はけっこう賑わってたな?」
「ああ。夜は任せたぞ、二人とも」
ちなみに、カイはキッチンの方が多くて、レンはどっちも同じくらいだ。
カイはああ見えて家事の手伝いとか昔からしてたし、レンは何でもそつなくこなすからね。
「さ! 仕事も終わったし、オレは遊びに行くとすっか! ルナとガルも、ヒマなら一緒に出ねえか?」
「……ちょっと待って、コウ。先生から出された課題、終わったの?」
「課題?」
「うん。宿題の提出、今日だったでしょ?」
「あ、やべ」
自由時間に浮かれていたコウが一瞬で真顔になる。どうやら、完全に忘れていたみたいだ。
私たちのギルド入りは、形式上は研修だ。つまり、全部終わった時には、また学校に戻る。その時のために、私たちも最低限の勉強はしておかないといけない。
そんなこんなで、上村先生とガルが、私たちの勉強を見てくれている。こうやって課題を出したり、時間があれば授業してくれたりね。
だけど、勉強嫌いのコウにとっては、そんなものは当然二の次になるわけで……。
「ま、いいや。今日ぐらいはごまかせるだろ!」
「浩輝、お前な……」
呆れ顔のガルが、そのまま逃げようとしたコウを引き留めた。普段は友達感覚でみんなと接しているガルだけど、勉強が絡むと教師の顔に戻るんだよね。
「お前はそれだから成績が落ちていくんだ。この前のテスト、何点だったか忘れたのか?」
「頼む、見逃してくれよガル。課題は帰って来てからやるからさ!」
「いや、しかしだな……」
「お願いだって! 上村先生にバレなきゃ良いんだから!」
「そういう問題では……あ」
「それなら、どちらにしても失敗だ」
「どちらにしても……って、あがぁッ!?」
コウが気付いた時には時既に遅し、彼の頭に鉄槌が下っていた。それを叩き付けたのが誰かは、言うまでもない。
「い、痛ってえぇ……せ、先生、いつの間に!?」
「たった今、部屋から出てきた」
コウの後ろでは、上村先生がものすごく不機嫌な顔で仁王立ちしていた。
「い、いきなり拳骨は酷くないっすか……?」
「なに。優樹から『勉強しなければ8割殺しまでやっていい』と言われているから、拳骨など優しいものだ」
「それ瀕死じゃないすか!? あんのクソ親父いいいぃ!!」
……とりあえず、自分が勉強すれば問題ないって発想は無いらしい。
「それよりも、橘。オレにバレなきゃいい、か」
「あ、それは、あの……え~っと……」
先程の問題発言を追及され、コウはあからさまに視線を泳がせてる。
「舐められたものだな。これも、オレが最近丸くなりすぎたせいか?」
「いや、十分とんがってるかと……」
「やかましい」
「……すんませんでした」
コウ。ツッコミは入れる相手と状況を考えようね……。
「よし。ならば、今日は特別にマンツーマンで勉強を教えてやろう。今からオレの部屋に来い」
「は!? どうしてそんなことに……」
「……8割殺しで止めるつもりだが、手元が狂えば10割になる可能性も」
「いやあ特別授業楽しみだなあ!」
先生が言い終わるより早く、コウは全力ダッシュで二階に上がって行った。
「ふう。お前たちも、あいつの勉強、暇な時にでも世話してやってくれ」
「あはは……はい」
「ったく、あの馬鹿は」
ギルドでの4ヶ月、色々と勉強してきたつもりだけど……私たちのやり取りは、本当に変わらないなあ、なんて。
まあ、そういう寸劇はともかく。一騒動終わったので、私とガルはそのまま部屋に戻っていった。