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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
3章 内なる闇、秘められた過去
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ギルドと仲間達

 ギルドに戻ってから、ガルやマスターと適当に雑談をしていると、そのうちみんなも居間に集まってきた。今は午前9時、全員が揃ってる。


「それでは、今日の依頼についてだ。各自、しっかり聞いておけよ」


 いつも以上に真剣なマスターの声音に、私達も姿勢を正した。もしかして、大きな依頼でも来たんだろうか。



 ギルドは、誰かが出した依頼を受け、それを解決する店。一言で言えば、便利屋みたいなものだ。


 仕事内容はとにかく多くて、荷物の配達や急用の代理人、人捜しから他の仕事の手伝いまで。『依頼を受ければ、非合法で無い限りそれを断る事はしない』というモットーをギルドを取りまとめる本部は掲げている。自分たちがそれを受けるか判断するのは各マスターの権利だけどね。

 本部に届いた依頼は、本部から適切なギルドに振り分けられるし、特定のギルドを指名したければ直接そのギルドに持って行ってもいい。複数ギルド間の共同作業もよくやるし、その辺りは割と自由だ。


 そんな中でも、メインになるのはやっぱり荒事だ。


 危険な場所の探索、UDBの討伐、凶悪な犯罪者の捕獲。どれも、戦いの危険が付きまとう。いくら誰もがPSを使えるって言っても、普通の人がやるには困難なことばかりだ。


 一般の人が出来ない事を代わりにやって、それに見合った報酬を受け取る。それが私たち、ギルド。この国になくてはならない、みんなを守る存在だ。



 ……なんて、かっこつけてみたのはいいんだけど。


「今日の依頼は……ゼロだ」


 全員、ひと昔前のコントのノリでずっこけそうになった。


 依頼されて初めて仕事が来るってことは、何も依頼が無ければ仕事が無い。だから、今日みたいに仕事が無い日も珍しくなかったりする。別にギルドはうちだけじゃないからね……。


「……何故いちいち溜めたんだ」


「いや、何だ。たまには趣向を変えてみようかと、な」


「そんな趣向、どこに必要なのさ」


「無理をして茶目っ気を出そうとしないで下さい。あなたは向いていないんですから」


 みんなからの一斉攻撃に、マスターはさすがにきまり悪そうに頭をかいている。


「あー、悪かった! 今から店のシフトを言うから、しっかり確認しろよ!」


「へいへい、りょーかい」


「最初からそうしてくださいよ……」


 一度張り詰めた反動か、いつも以上にダレた空気の中、お店のシフトが発表され始めた。



 仕方ない事ではあるんだけど、ギルドの収入は安定しない。うちのギルドはかなり大きな方なんだけど、それでも今日のような日があるぐらいだ。

 だから、多くのギルドが、安定した収入源の確保として、副業を行ってる。うちのギルドの副業は、ギルドの食堂を利用した酒場、と言う名のレストランだ。


 ちなみに、今日の私のシフトは、前半だった。


「依頼が無いぶん、今日は店で稼ぐぞ。しっかり頼むぞ、お前達」


「はい!」


 そんなわけで、みんなは慌ただしく店の準備に入る。オープンは11時。それまでにやることは沢山あるからね。


「今日はガルも一緒だね」


「そうだな。頑張るとしよう」


 と言っても、私は接客、彼は調理場なんだけど。

 エルリアで暮らしていた時のガルは、料理をしたことなんか無かったし、本人も考えてもいなかったそうだ。

 だけど、いざ初めてみると、元々才能があったからか、凝り性な部分が向いていたのか、ガルの料理は急速に上達していった。

 今では私より上手いんじゃないだろうか……と思う。あ、デザートに関しては譲らないけどね。


 その料理スキルの高さと、接客作業が苦手なのもあって、ガルはだいたいキッチンに入ってる。

 苦手って言っても、ルックスの強力補正がある彼が外に出れば、むしろ女性客のウケが良い。本人の気持ちの問題だ。


「お昼は私とガル、マスターにジンさん、アトラにコニィ、それからコウ……うん、これなら大丈夫だね」


 このレストランは依頼に出ていないメンバーで運営してる。なので、今日みたいに全員がいる日は気が楽だ。

 実際、私たちが来る前には本当に大変だったって聞いてる。フリーランス……特定のギルドに属さない人たちを雇ったりしてた時期もあったみたいだ。人数が倍くらいになったから色々と余裕ができたってジンさんが言ってた。


 ――そんなタイミングで、私の後ろから朱色の腕が伸びてきて、そのまま私を抱き締めてきた。ああ、今日も始まったか……。


「へへっ、瑠奈ちゃんと一緒なら、俺様も張り切っちまうぜ!」


「はいはい。張り切ってくれるのは有難いんだけど、とりあえず離れてくれないかな、アトラ?」


 笑って私から離れた豹の獣人。抱き締められても、それに慣れてしまって動じなくなってきた自分がちょっと悲しいところだ。


 初対面から私を口説いてきた彼、アトラは、その後もずっとこんな感じだった。黙ってれば二枚目と呼んでも差し支えないルックスなんだけど、とにかく服装も仕草も非常に軽い。

 良い人なのは間違いないんだけどね……このスキンシップは、程度の差はあれ日常茶飯事だ。うっかり慣れてしまうくらいに。


「あんた、本当にいい加減にしなさいよね。瑠奈が困ってるじゃないの!」


 私の代わりに、美久がアトラに食らいつく。彼女はアトラの節操の無さにはとても厳しい。当のアトラは全く気にした様子がないけど。

 歳はアトラが19で美久が17なんだけど、美久の方が手のかかる弟を叱るお姉ちゃんみたいに見えなくもない。


「うるせーな、瑠奈ちゃんへの愛情表現に妬いてんのか?」


「誰があんたに妬くか色ボケ! だいたい、何が愛情表現よ。女なら誰でも良いんでしょうが、あんたは」


「俺様の愛はひとりの女性で収まりきらねえのさ。ああ、お前みたいな色気も可愛げも無いのは願い下げだけどな~」


「何ですってぇ!?」


 私が何も言わないうちに、もはや私は関係無しのバトルに発展していく。もう見慣れたこの風景に、思わず乾いた笑いが漏れる。


 ……と。


「……アトラ。貴様……!」


 何故か軽くフリーズしてたガルが、解凍と同時に物凄くドスの利いた声を出す。あ、こっちのスイッチも入っちゃった……。


「毎度毎度、誰の許可があって瑠奈に触れている……!」


「あ? 俺様の瑠奈ちゃんへの愛に、誰かの許可が必要なわけ?」


「な……!」


「お前が瑠奈ちゃんの恋人ってんならともかく、そうじゃねえんだろ?」


「そ、それはそうだが。それでも俺は……そうだ、瑠奈の保護者のようなものだ!」


 保護者って、ガル……まあ、確かに彼は私のみたいなものなんだけど。


「保護者、ねえ。甘いぜガル。恋愛ってのは当人の意志! 保護者なんか部外者、恋する二人の視界にゃ入らねえのさ!」


「強引に押し付けておいて、よくもぬけぬけと言ってくれる……」


「強引なくらいじゃねえと、恋は逃げちまうからな! それとも……ひょっとして、自分が好きな子に積極的になれねえから、羨んでんのか?」


「……貴様と言う奴は……!!」


 ……とまあ、この二人は、普段はともかく私が絡むと非常に折り合いがよろしくない。

 私が原因だけに放っておくわけにもいかないけど、どうしたら良いのかも分からないんだよね。アトラのアレは止めても止まらないし。


 コウ達に相談したら、「お前がはっきりすりゃ良いだろ?」とアドバイスしてくれたんだけど……はっきりも何も、私は別にアトラを嫌いじゃない。恋愛対象として好きでは無いけど。

 それを本人に伝えても「嫌いじゃないなら、これから好きにしてみせる!」と、見事に効果ナシ。

 で、それをみんなに報告したら、何故か私が呆れられるし……どうしろって言うんだろう。


「もう我慢ならない。今後もその態度を改める気が無いのなら、豹肉のステーキにして店に出してやろう……!」


「はっ、返り討ちにしてやらあ! そっちこそ、狼のタタキになる覚悟は出来てんだろうな!」


 ああもう、そうこうしてる間に一触即発になってるし……狼のタタキって何!? いや、そんなこと気にしてる場合じゃなくて、これじゃほんとに喧嘩始まりそうなんだけど!


 ――ってところで、ようやく助け舟が出た。


「ほらお前たち! いつまで喋っているつもりだ? 動かないと仕事は溜まるだけだぞ!」


「……む」


「あーあ、怒られちまった」


 マスターの一喝で、ガルとアトラはしぶしぶ、それぞれの持ち場の準備に向かった。アトラがホールで助かったね。

 見物していたメンバーも、昼シフトのみんなはそれぞれの持ち場に、それ以外は好き勝手に散っていった。


 私はマスターに軽く頭を下げる。彼は気にするな、といった感じでひらひらと手を振った。……何だか、仕事始まる前なのに、どっと疲れたんだけど?


「モテるってのも大変だねぇ、瑠奈」


「あはははは……はぁ」


 同情するかのように声をかけてきたフィオ君に、私は乾ききった笑いしか返せなかった。




 まあ、そんなこんなで。

 今日もギルド〈赤牙〉の……と言っても副業が、だけど……活動が始まりました。





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