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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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居場所

 その日の夕食後。


「みんな面白い人達だったね」


「そうだな……」


 食事の時間は、賑やかなものになった。一同、初対面とは思えないほどに打ち解け、瑠奈達も、最初の硬さがとれるまでに、さほど時間はかからなかった。

 赤豹がしつこく瑠奈を口説き、白猫少女に鳩尾を蹴り飛ばされるという事件は起こったものの、とても楽しい時間だった。


「それに、ウェアルドさんの料理、すごく美味しかった! これは、勉強していかないとなあ……」


「副業で酒場なのだから、そちらの手伝いにも入るのかもしれないな。……俺は、あまり自信が無いが」


 瑠奈の言うとおり、ウェアルドの料理の腕は素晴らしく、酒場のマスターも伊達でやっているわけではないと見せ付けてくれた。どうやらギルド員がスタッフになっているようなので、俺も接客か料理を覚えていくしかないか。……接客はできそうにないので、料理を練習していこう。

 そして、後片付けと交流も終わり、皆が部屋に戻った後、瑠奈はいったん俺の部屋に来ていた。


「ふう。正直、来る前はいろいろ不安だったけど……何とかやっていけそうかな」


「そうだな。……俺を受け入れてくれたギルドに恩を返していきながら、記憶の手がかりを探す……先は決して見えないが、焦ってはいけないのだろう。ならば、長い付き合いになる彼らと親しくできそうなのは、良いことだ」


 それは、自分に言い聞かせるための言葉でもある。焦りが無いと言えば、やはり嘘になるからな。それでも、当てもなく行動を起こすのはただの自暴自棄だという、慎吾の言葉は胸に残っている。


 そんな俺に、瑠奈は何故か少しだけ笑った。


「ねえ、ガル」


「何だ?」


「ガルってさ……本当に、変わったよね」


「……そうか?」


「そうだよ。今だから言うけどね、初めて会った時のガル……何て言うか、どこか人を寄せ付けないような、そんな感じがあったから」


「……む」


 確かにそうだったのだろうな。俺は元々、人付き合いが得意な性格では無い。あの時も、慎吾の強引さが無ければ、俺は一人で旅立つことを決めていただろう。そして、もう倒れていたかもしれない。


「でも、今はさ……何って言うんだろう。えっと、うん、柔らかくなった。よく笑うようになったし」


「柔らかく……か」


 ……そうかもしれないな。そして、それは間違いなくみんなのおかげだ。ここまで安らいだ気持ちでいられるのは、大切な友がいるからだ。


「ならば、俺も正直に言う。俺は最初、お前の事をただの甘い奴としか思っていなかった」


「あはは……まあ、そうだろうね」


 俺を助け、俺を受け入れた彼女。その甘さの根源を知らなかった俺は、内心で嘲笑すらしていた。


「じゃあ、今は?」


「ん? ……あまり変わっていないな」


「ええ? 期待させといてそれは酷くない?」


「ふふ、悪いな。だが……」


 変わったのは、俺が彼女の甘さに抱く感情の方だ。


「お前は甘くていいんだ。甘さと優しさは、似たようなものだからな」


「……何なのそれ。無理やりいい話にしてごまかそうとしてない?」


 瑠奈は思わず、といった感じで苦笑する。……そう、甘くていいんだ。俺はその甘さに、何度となく救われてきたんだから。


「瑠奈。少しだけ、話を聞いてほしい」


 改まってそう切り出してから、俺は彼女を真っ直ぐ見据える。窓から部屋に入ってくる風が、彼女の栗色のロングヘアーを揺らす。


「俺は、君に見付けられたあの日からずっと、君に救われてきた。その感謝を表す方法が無いほどに、な」


「……そう、なのかな。私としては、大したことをしたつもりはないんだけどね」


「俺にとっては、大したことだったんだ。過去に怯えるだけだった俺と共に星を見てくれたことも……こうして、共に来てくれたことも」


 もちろん、他のみんなにだって感謝している。彼らも、俺にとってかけがえのない存在だ。それでも、もう気付いてしまった。彼女に抱いているこの感情は、また別のものだ。


「あの時、君達が死ぬかもしれないと思った時、俺は気付いた。君達が、俺にとってどれだけ大切な存在なのか」


 自分が思っていたよりも、遥かに。俺にとって、みんなの存在は大きなものだった。そして、同時に強く願った。慎吾に頼まれたから、などと言う理由ではなく、俺自信が。


「俺は、君達を護りたい。俺に居場所をくれた君達を……君を」


 みんながいなければ、俺はどうなっていたか分からない。みんなは、俺の何よりも大切な存在。そして……彼女は、俺にとって。


「改めて、ここで誓おう。これから先、何があっても、俺は君達を絶対に護り抜く、とな」


「……ガルフレア」


 瑠奈は、ふっと笑う。


「私もね。あなたに助けられたあの時、気付いた。私がどれだけあなたを信頼しているかって。あなたが護るって言ってくれたら、私は何よりも安心出来る。大丈夫だって、信じられる」


 出逢ってたったひと月だが、俺にとって、彼女は何よりも信頼できる存在。彼女も同じように、俺を信じてくれているのだろうか。その事が、嬉しい。


「……不思議だね。あの時、私達が出逢ったのって、本当に偶然なんだよね」


「……そうだな」


 シグの指定した転移先がエルリアだった事は彼の狙いだったのだろうが、そこに瑠奈が通りかかったのは本当に偶然だ。ならば俺は、その偶然に感謝しよう。


「私ね……あなたに出逢えて、本当に良かったって思う。まだそんなに時間が経ってないなんて、信じられないくらいに」


 彼女の笑みが、月明かりのように優しく俺の心を照らす。この笑顔を護りたいと思えるから、俺は。


「私も誓うよ。あなたの力になれるよう、努力するって。今の私じゃ力が足りないなら、強くなる。……護られるだけは嫌だから。私だって、あなたを護れるようになってみせる」


 ああ。君はもう、俺の力になってくれているさ。その心だけで、君が隣にいてくれる、それだけで。


 お互いに思いの丈を口にした後は、少し気恥ずかしくなり、ごまかすように笑いあう。


「だから、さ……これからもよろしくね、ガルフレア」


「ああ。よろしく頼む、瑠奈」




 明日から、どのような日々が待っているかは分からない。それでも、俺は諦めずに前に進んでいこう。俺の居場所が、ここにある限り。





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