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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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決意の意味

 彼女の言葉からは、確かに伝わってきた。彼女が、本気で俺について来ると言っているのが。


「だが、それでも俺は……」


 お前を危険に巻き込みたくない。そう、言おうとした時だった。


「飛行機は、二人分の席を手配しておこう」


「!」


「お父さん……!」


 今までずっと黙っていた慎吾が、突然そう言った。それはつまり……俺に、彼女を連れて行けということだ。


「慎吾……正気か!?」


「瑠奈は、そんなに君を慕ってくれている。君は、そんな瑠奈を残して行くような、薄情な男なのか?」


 慎吾の視線に気圧されそうになるが、今回ばかりは俺も引く訳にはいかない。


「俺の過去は、確実に危険だ。彼女が関わるべき世界じゃない……!」


「それを決めるのは瑠奈自身だ。そして、瑠奈は自分の意志で君に関わることを決めた」


「っ……子供が危険に飛び込もうとすれば、止めるのが親じゃないのか!」


「子供が本気で決意したならば、それを受け入れるのもまた親だ」


「死ぬかもしれないんだぞ……!」


「ならば、同じ理由で君を止めても構わないのか?」


 まるで、あらかじめ俺の言葉に対する反論が用意されているようだ。俺は、周りのみんなに助けを求める。しかし……誰一人、それに応える者はなかった。


「楓! 瑠奈が心配じゃないのか!?」


「心配よ、もちろん」


「なら、どうして!」


「私達も、そうだったからよ」


「…………!」


 ……彼女達。英雄達。そして、今の瑠奈。


「瑠奈がいい加減な気持ちで言っていない事ぐらい分かる。今日の事で、瑠奈だって戦いの怖さを知ったんだから。その上で、瑠奈はあなたと一緒に行くと言ったのよ。……その決意を、私達は尊重する。あのときの、私の両親と同じように」


「お母さん……」


「ねえ、ガルフレア。あなたは、死にに行くつもりなのかしら? そうだとしたら、私はあなたも止める。……生きて帰ってくるんでしょう? そのために、瑠奈は力になれるはずよ」


 ……そうだ。心配していない訳がない。楓も、慎吾も……本当は、引き止めたいんだ。俺はようやく、それに気付いた。

 それでも、自分達も若くして過酷な戦いへと挑んだ彼らは、知っている。決意することの意味を。


「俺達にとっても、瑠奈さんは娘同然だ。危険な目に遭ってほしくはない。だが……」


「楓と慎吾が止められねえのに、どうして俺達が止められる?」


「……優樹、当麻」


 彼らだって、抱いている感情は俺と同じ。その上で……彼らは瑠奈の意志を尊重した。


「理由はそれだけではないぞ。……あの男は、オレ達の素性を全て知っているんだ。ならば、綾瀬達が再び、それに巻き込まれる可能性は高い。お前に関わらなくてもだ」


「っ……!」


「常にオレ達が護ってやれるとは限らない。だからこそ、どこにいても同じなんだ。……きっと、綾瀬自身が強くなる必要がある。そういう意味では、ウェアルドは最も安心して任せられる男でもあるからな」


 そう……か。瑠奈は、みんなは、英雄の子供。あの道化が利用を考える可能性は、決して低くない。


「ガル、もう一度お願いする。瑠奈を、連れて行ってやってくれ」


「………………」


 娘の事を誰より想うが故、娘の旅立ちを止めようとはしない。そんな、慎吾の姿を見る。楓の、上村先生の、優樹の、当麻の、遼太郎の。



 ………………。



「……必ず……」


「え?」


「必ず……二人で帰ってくると誓おう」


「…………!」


 俺の言葉の意味が瑠奈に伝わるのには、少し時間がかかった。少女の顔に、じわじわと喜びが広がる。


「じゃあ……連れて行ってくれるの?」


「……もう一度確認する。後悔しないか?」


「当たり前だよ! ……ありがとう、ガル」


「……礼を言うのは、俺の方だ」


 危険を理解した上で、その決断をしてくれた事。本音を言えば……それは、本当に嬉しかった。


「学校は、俺が何とかしておこう」


 慎吾はふ、と微笑をもらす。その表情がどこか寂しげなのは、気のせいではないだろう。


「ありがとう、慎吾。あなたには、何から何まで世話になった」


「瑠奈の事を任せたぞ、ガルフレア。必ず護り抜いてくれ……意味は分かるな?」


 俺ははっきりと頷く。護り抜くには、俺も生きねばならない。初めて出逢った、あの日に言われた言葉だ。


「だが、二人で行くとなれば、準備も必要になるだろう。出発は来週で構わないか、ガル?」


「ああ。問題ない」


 俺一人ならば、すぐにでも発てる。だが、瑠奈には色々と準備があるだろう。


「みんなとも、しばらくサヨナラだね」


「そうなるな……」


 やはり、少し辛そうだ。


「大丈夫だよ。全部終わったら、みんなとはまた会えるんだからね」


「……そうだな。みんなには、話すのか?」


「ううん。みんなも、話したらついて来ちゃいそうだから……黙って出る」


「……いいのか?」


「うん。暁斗には、話さなきゃいけないと思うけど」


 確かに、同じ家の中にいる以上、彼には隠し通せないだろう。


「怒るだろうけどさ……コウとか」


「……確かにな」


 しばらくでも、友達と会えないのは、本当に辛いはずだ。それでも彼女は、俺と来ると言った事を取り消そうとはしない。


「先生、おじさん達……みんなの事、お願いします」


「任せておけ。あの馬鹿共は、俺達が何とかしておくよ」


 優樹が優しげに笑うと、瑠奈はありがとう、と頭を下げた。


「では……詳しい話は今晩、帰ってからしよう。みんなが目を覚ます前に戻らないとな」


 慎吾の言うとおりだ。彼らにバレる訳にはいかない。


「暁斗も、説得しないとね」


「ああ……」


 彼はそう簡単には食い下がらないだろう。何しろ、慎吾の息子であり、瑠奈の兄だ。


「その事については、後で考えるしかないだろう。さあ、行こう」


「……ああ」


 俺達は、慎吾に促されるまま、部屋を後にした。









「……慎吾」


「分かっているさ。全部、準備しておく」


 ガルフレアと瑠奈は、この短い会話も、そこに込められた意味も知る由がなかった。




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