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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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再会と、別れと

 俺たちは、マリクが去った後、慎吾たちと合流して、まずは傷の簡単な手当てを済ませた。優樹がいてくれたおかげで応急とは言えかなり楽になったが、やはり出血による衰弱はある。それでも俺は、ふらつく足を早めた。

 上で転がっていた連中の中にも、死者はいなかった。激動の中、あいつらを守るように戦っていたらしい。マリクの命令で狙いが慎吾たちに集中していたのもあるようだが。


「俺たちはまず、この連中を縛り上げる。ガルフレア、君は先に、子供たちの元に行ってやってくれ」


 ……疑問は山ほどある。しかし、俺のことなど、今この瞬間はどうでも良かった。


 この時、俺の心を占めていた想いは、一つだけ。早く、みんなに……君に――







「みんな!」


 会場の前は、大騒ぎになっていた。大勢の人で溢れているにも関わらず、俺の目はすぐにみんなの姿を捉えた。


「……ガルフレア!!」


 瑠奈が、こちらに駆けてくる。俺が俺である事を教えてくれた少女が。

 彼女は、立ち止まる事なく、俺の胸に飛び込んできた。俺は体勢を崩さないように注意しながら、彼女を受け止める。


「無事で……無事で良かった、瑠奈」


「うん……ガルも」


 瑠奈の瞳からは、とめどなく涙がこぼれ落ち、俺の胸元を濡らす。……こんなにも、泣いてくれるのか。


「大丈夫、だって、思おうと……してたけど。もう、会えなくなるかもって、不安で……」


「……怖かったな。でも、もう大丈夫だ。俺は、ここにいるから。慎吾たちだって、みんな無事だ」


 俺と瑠奈は、存在を確かめあうように、互いを強く抱きしめる。彼女の暖かさが……俺の心を癒してくれる。


「……ただいま、瑠奈」


「……うん。おかえりなさい、ガルフレア……!」


 そのまま、少しだけそうしていた。どれだけ経ったか、瑠奈が顔を上げ、涙をぬぐう。そうして、笑顔を見せてくれた。


「ごめんね、ガル。濡れちゃった」


「構わないさ。心配をかけて、すまなかった」


 そうしている間に、他のみんなもやって来た。


「へへ、無事だって信じてたぜ、ガル。……ただ、いつまでもそうされてると、お兄ちゃんは非常に複雑な気分なんだが……」


「え? ……あ」


 暁斗に指摘を受け、俺と瑠奈はあわてて離れた。恐らく、俺の顔も赤くなっているのだろう……体毛があるから、人間ほど目立たないのが幸いだ。


「ガル、親父たちは?」


「中で連中を縛り上げている。心配しなくても、全員が無事だ」


「そう、か……みんな無事、なんだな……」


「ああ……おれ達、全員が生きて帰ってこれたんだ……」


 浩輝も、海翔も、蓮も、心から嬉しそうにしてくれた。……だが、海翔以外は、目が赤い。


「やべ……オレ、また泣きそう……」


「泣きたい時には泣いちまえよ。我慢する必要なんてねえだろ?」


「だから、何でお前はそんな平然としてるんだよ、カイ……」


 ……先ほどまで泣いていたようだな。当然か……あれほどの恐怖を味わったんだ。こうやって、落ち着いて会話出来るだけでも大したものだ。いや、努めて普段通りに振る舞おうとしているのかもしれない。

 その後ろを見ると、さらにルッカと慧、修もこちらに向かってきていた。


「ありがとう、ルッカ。みんなが無事だったのは、お前のおかげだ。そして、お前も無事で良かった」


「僕にとっても、みんなは大事な友達ですからね。礼には及びませんよ。先生……いえ、今さらごまかすことでもありませんね。ガルフレアさんも、無事で何よりです」


「……ルッカ、俺は」


「野暮なことを言うのはもう少し後ですよ。今は僕にも、みんなが無事なことを喜ばせてください」


 そう言って微笑んだルッカが、どこか寂しそうに見えたのは気のせいではないのだろう。ただ、彼が瑠奈たちを、そして俺を案じてくれていたのはきっと本当だ。だから俺は、静かに頷く。

 他のふたりは、俺の前に立つと、揃って頭を下げてきた。慎吾たちによると、ふたりは観客の避難を優先していたそうだが、弟たちが傷ついたことに傷付いているだろう。


「ガルフレアさん、ありがとう。浩輝達を助けてくれて」


「蓮に聞いた。みんな、ガルさんがいなかったら、どうなっていたか分からなかったって」


「いや……それこそ礼には及ばない」


 あの時の事を思い出すと、ぞくりとする。あと一歩遅ければ……そんな嫌な想像を断ち切るため、別の話題を持ちかける。


「そう言えば、瑠奈が助けた彼はどうした?」


「瑞輝さんなら、弟さんを探しにいきましたよ。無事を確認したいって」


「怪我の治療があるんで、終わったら合流するように言ってます」


「そうか。死者は出なかったんだな。良かった……」


 あれほどの騒動で、みんなが生き延びれた事は……奇跡に近い。

 もしもティグルが、最初からみんなに止めを刺そうとしていれば。もしもシグルド達がいなければ。もしも慎吾達が……少しでも状況が違っていたら、この中の誰かが死んでいたかもしれない。


「集まっているか」


「……お父さん、お母さん……!」


「…………っ!」


 そこで、慎吾たちとシグルドが姿を見せた。子供達の視線も、そちらに向く。瑠奈と暁斗が両親に飛び付いたのを皮切りに、それぞれの親子が抱擁を交わしていく。……邪魔をするわけにはいかないな。


「ガルフレア、傷は問題ないか」


「ああ、心配するな。さすがに、血が足りないが……命に関わるほどではないさ」


 正直に言えば、立っていると目眩がしてくる。その程度で済んでいるだけ、ましだとは思うが。とは言え、ゆっくりと休養する前に、確認すべきことはいくつも残っている。


「シグルド……ティグルは、結局どうなったんだ? 俺には、よく分かっていないんだが」


「俺もまだ連絡は受けていないが、大方の予想はつく。あいつが仕損じることなど、あり得ないだろう」


 黒影、と呼んでいたな。そして、彼は蒼天、ルッカは金剛……俺は、銀月。つまり、同等の使い手だとは思うが――そんな思考をしていた時だった。


「それは買いかぶりと言うものだ。……おれにも、手元が狂うことはある」


 突然、何も無い中空から声が聞こえてくる。かと思うと、その場所に一人の男が文字通りに現れた。


「それは知らなかったな。仕留め損なったのか?」


「心配するな、あの男は消した。同情の余地すらないからな」


 そこに現れたのは、漆黒の豹人だ。……彼は……!


「フェリオさん! あなたもここに……」


「フェル!?」


 ルッカの言葉を遮って、俺は思わず叫ぶ。間違いない。彼は、クロスフィール孤児院の、あのフェリオだ……!


「……ガルフレア」


 豹人は無表情に俺を見据える。ルッカも驚愕の視線をこちらに向けた。


「ガルフレアさん……まさか、記憶が!?」


 彼もフェリオも、俺が裏切ったものの一員なのだろう、ということは分かっている。だが、下手な嘘をつくよりは、素直に答えた方がいいと察した。


「全ては戻っていない。証明をすることはできないが……フェルを覚えているのは、孤児院の記憶があるからだ」


「………………」


「だが……俺が何らかの組織の一員で、それを裏切ったことは、思い出した」


「…………っ!」


 ルッカが顔をしかめた。それを望んでいなかったかのように。

 俺に残された最後の瞬間の記憶……俺はなぜ、シグ達を裏切ったのか。そして、俺が裏切ったものは何なのか。そこまでは分からなかった。

 家族の中で話しているみんなから、少し距離を置く。俺には、ここではっきりとさせておかなければならないことがある。


「シグ、聞かせてくれ。俺はあの時、お前に救われ、空間転移で記憶を失った。間違いないか?」


「……ああ」


 月光を手にした時に戻った記憶は、それだけだ。肝心な所が抜けている。


「俺が裏切ったもの……それは何なんだ? そして、俺はなぜ裏切ったんだ?」


「ガルフレアさん、それは……」


「それを知ってどうするつもりだ、ガルフレア」


「どうするべきかなど、知らずに判断できるものか。だが、このまま何も分からないままでは……俺は」


「分からないままで、何の問題がある」


 俺の言葉を遮ったシグルドに、一同の視線が向いた。


「ガル、詮索するのは止めにしろ。お前はもう、自由になったんだ」


「……自由?」


「そうだ。お前は、優しすぎたんだ。……きっと、最初から向いていなかった。望まぬ使命に、縛られる意味はない」


「……シグルド、お前」


 ……俺は言った。もう殺したくない、と。俺は、何らかの使命のために、きっと多くの命を奪ってきた。それでは駄目だと思ったから、俺は逃げ出した。


「今日、出逢った時のお前の表情は、明るかった。孤児院にいた時と同じくらいに……ここ数年、見たことがない顔だった」


「………………」


「お前にとっては、忘れていたほうが幸せなんだ、ガル。いや、俺にとっても……みんなにとっても」


 記憶が戻れば、俺は幸せではいられない……か。


「そうなのかもしれないな。だけど、それでは駄目なんだ」


 俺ははっきりと首を横に振ってみせた。


「俺は、記憶を取り戻さなければならない。確かに、今は幸せだ。だが、俺が記憶を無くしても……俺の過去は消えないだろう?」


 俺が覚えていないだけ。俺がしてきた行動は、消えない。その事が、未来の俺を……みんなを苦しめないと、誰が言い切れる?


「俺はこのひと月、記憶が戻るのが怖かった。だけど、今日はっきりと分かったんだ。俺の記憶があろうがなかろうが、俺の過去は俺を逃がしてはくれないと」


 過去から逃げるなど、誰にもできない。だからこそ。


「目を背けたら駄目なんだよ。それだと俺は、いつまでも真の自由を手にすることはできない」


 無くした過去に怯える毎日。それのどこが幸せだ。自由だ。


「マリクの言っていた意味は、俺には分からない。だから……今、手がかりはお前達しかいないんだ。裏切った身分は百も承知だ。それでも、頼む……!」


 それがみんなを傷付ける可能性があるのならば、なおさらだ。俺は、この記憶に、過去に、決着をつけなければならない。そうして始めて……俺は未来へと歩めるのだから。



 しはし、沈黙が続いた。それを破るように、フェリオが溜め息をついた。


「記憶を無くしても、お前はお前だな、ガル」


 先ほどまでの冷たい声音と違い、それは俺のよく知っている、冷静で面倒見の良いフェルの口調で……状況も忘れて、懐かしいと思った。


「そうだな。俺は、俺だ。当たり前のことだが、みんなに気付かされたよ」


 転移されてきたのが、みんなのもとでなければ、俺は野垂れ死にしていたかもしれない。


「良い出会いが、あったんだな」


「ああ。みんな、俺にとって大切な存在だ。そして、みんなのためならば、俺は過酷な道だろうと歩いてみせる」


 そして……我ながら甘いが、いつか全員で幸せな道を掴むことだってできる、そんな気がするんだ。


「本当に、あなたという人は。平穏を願っているくせに、自分から苦しい方を選んでしまうんですから」


「そうしなければ、真の平穏を得られないのならな」


「そう、ですか。あなたらしい言葉だ……。どうしますか、シグルドさん? 記憶を奪ったのは、あなただ。後の決定は、あなたに委ねます」


 シグルドに、視線が集まる。青虎の表情は険しく、良い流れではないことは察したが、まずは彼の言葉を待った。そして。


「……俺達は、お前に答えをやる事はできない」


「シグ……!」


「あの時は逃がしたが、次はそうもいかないんだよ、ガル。俺は理想を捨てる訳にはいかない。お前が障害となるならば、俺はお前を消さなければならない。そして、記憶が戻れば、お前はいつか、俺たちの前に立ちはだかるだろう」


「………………」


「もう一度だけ言う。お前は過去を捨てろ。それが、お前の最善の道だ」


 そう言い捨てたシグルドに、辺りが再び沈黙に包まれ……俺がさらに食い下がろうと反論を考えていた時。ぽつりと、シグルドが呟いた。


「それでも分からない大馬鹿だと言うならば……英雄たちの事を調べてみるといい。それはいずれ、俺たちに行き着くだろう」


「!」


「今のお前になら、意味が分かるはずだ」


 英雄たち。それが、俺とどう関わってくるのかは分からないが……。


「済まない、シグ。そして、ありがとう」


「……礼を言われる、ことではない。そして、忘れるな。その道を選べば、お前はいつか……俺達の、敵になる」


「そうなのかもしれないな。だがな、シグ……フェル、ルッカ。俺は決して、お前たちを()()()()。道はまだ、自分の意思で選べるのだからな」


 あの記憶の中で俺は言った。シグもフェルも、いつか俺の意志を分からせてみせると。そう、あの時の俺は、大切なものを裏切りはしたが、友であることを諦めてはいなかった。ならば俺は、その願いを忘れるつもりはない。


「…………。どこまでも、甘い男だ。ならば、勝手にしろ」


 そうシグルドが吐き捨てた辺りで、他のみんながこちらに向かってきた。


「……慎吾さん」


「改めて、今回は借りを作ってしまったな、シグルド。君がいてくれたからこそ、誰もが無事に帰ってくることができた」


「礼には、及ばない。あなたも分かっているはずだ。俺は、今回の襲撃者との関わりがあると」


「それでも、だ。無論、問わないわけにもいかないがな。……君たちは、何者だ? あの連中と、どのような関わりがある」


「……彼らは、味方でもあり、敵でもある。お互いに、騙しあっていることを理解した上での同盟関係ではあるがな。彼らがこうして派手に動いたならば、俺たちもその時が来たということだ」


「なに?」


「……フェリオ、ルッカ」


 シグルドは、慎吾の問いにはっきり答えるでもなく、二人を呼んだ。


「ここまで本格的な動きを奴らが見せ始めた以上、悠長にはしていられない。戻るぞ」


 彼の言葉を聞いた瞬間、フェリオはともかく、ルッカの表情が明らかに険しくなった。


「……今すぐに、ですか?」


「ああ。悪いが……お前にも、本来の役目を果たしてもらう時が来た」


 そう宣言されると、ルッカは大きな溜め息をついた。それを境に、少年の雰囲気がはっきりと変化したことを感じた。


「了解しました。できれば、この大会を最後の良い思い出にしたかったんですけどね」


「ルッカ、何を……」


 怪訝な表情で蓮が尋ねると、ルッカは何のことはないような表情で、あっさりと言い放った。


「皆さん。僕は、今日で学校を辞めます」


「…………!?」


 みんなが凍りつく。特に蓮と修は、明らかに表情を変えた。


「どういうことだ、ルッカ!?」


「突然、何を言い出してんだよ!」


「突然も何も。みんなだって、分かっているでしょう? 僕は……普通じゃないと。隠していた何かがあったんだと。それを表に出す、それだけです」


「何を言っているの!? 確かに、何かあるってのは分かったけど、それと学校に何が……」


「単純な話です。僕はもう、エルリアにはいられない。やるべきことがありますからね」


「ルッカ。親である俺に一言も言わずに、そんな事を……!」


「親? おかしなことを言いますね、父さん。……僕の親はとっくに死んでいますよ。あなたじゃない」


「!!」


 あっさりとした口調で、少年はあまりにも残酷な言葉を口にする。遼太郎は言葉を失うと、よろよろと数歩だけ後退り、倒れそうなところを上村先生に支えられた。


「ルッカ……! 今の言葉、訂正しろ!」


「勘違いしないでくださいよ、蓮。父さんには感謝していますし、尊敬もしています。……でも、血の繋がりは否定できない。父と呼んでみたところで、僕は決して、父さんの子供にはなれません。そんな人に指図をされる謂れもありませんね」


「て、てめえ、馬鹿野郎……!」


「ふざけるな!! お前は……お前は今まで、そんなことを考えて……!」


「……どちらにせよ、ファルクラム。オレはお前の担任として、そんな事は認めない」


 蓮を一旦制し、上村先生が前に出る。


「お前の事情、オレはそれほど詳しく知らない。だが、お前……いや、お前たちは、何かを知っているのは明らかだ」


「………………」


「このまま、黙って行かせるわけにはいかない。せめて、事情を話せ」


「……先生」


 ルッカの口から、再び溜め息が漏れた。


「どうしても行かせてくれませんか? その場合、力づくで行くことになりますが」


「……何だと?」


「言っておきますが、授業で僕がどれだけ手を抜いていたと? それに、シグルドさんとフェリオさんもいる。なまったあなた達に、そう簡単に止められはしませんよ?」


「ファルクラム、貴様は……!」


「……この国のみんなが好きなのは本当なんです。僕を、あなた達と戦わせないでください」


 それは懇願であり、脅迫でもあった。先生の言葉にも劣らない程の威圧感を持った。


「綾瀬 慎吾」


 フェリオは、ただ黙して話を聞いていた慎吾を呼ぶ。


「今回、このような事態になったのは、阻止出来なかった我々の責任でもある。だが、我々は、決してこの国に仇なそうとは思っていない。だから……行かせてはもらえないか?」


 こういう時、最も状況を冷静に判断し、最も的確な答えを出すのは慎吾だ。一同も、彼の言葉を見守る。彼は暫く思案した後、言った。


「俺達の子供を救ってくれた礼だ。今回は、行くがいい」


「慎吾……!」


「それが最善だとは思っていない。可能であれば、捕らえてでも話を聞くべきだろう。だが、今の俺たちではそれも難しい。それにこれ以上、この場で争いを起こすわけにはいかないだろう」


 皆はその決定に対して、何も言わなかった。慎吾の決定は皆の意志、と言う事か。遼太郎は俯いたままだが。


「だが、もしも先ほどの言葉に嘘があれば……その時、俺は君達の障害になるだろう」


「了解した……感謝する」


 フェリオは小さく頭を下げる。そして、シグルドとルッカ、フェリオの三人は、少しだけ前に俺達と距離を置いてから、振り返った。俺達と、対峙するような形だ。


「ルッカ、どうして……おれ、何が何だか分からないよ……」


 蓮は、絞り出すような声で、そう尋ねた。


「僕の生きる世界は、あなた達とは違うんです。僕は、日の当たる世界の住民じゃない」


「ルッカ、お前……」


「今までありがとうございました。みんなには、本当に感謝してます……こんな僕と、友達でいてくれて」


「ルッカ君……」


「蓮、修兄さん、それに父さん。母さんの事、よろしくお願いしますね……サヨナラ」


「…………っ」


 その宣言には、あまりにも強い意志が込められていて……蓮はもはや、何も言い返せなくなってしまった。


「ガル。裏切り者とは言え、お前は友だった。だから、これから先に何もしないならば、おれはお前をどうこうするつもりはない」


「フェル……」


「だが、もしも敵になるならば、その時は容赦しない。覚えておくんだな」


「…………」


 彼は昔から目標には一途な男だった。俺が障害になるなら、彼は俺を排除してのけるだろう。


「こうして、お前達が傷付いた事、何もせずに去っていく事は済まないと思う。だが、俺達にはやる事がある」


「シグ……ルド」


「お別れだ、ガルフレア。もう、出逢う事が無いように祈っておく」


 次に出逢う時が来るとすれば。その時に、俺達はどのような関係なのだろうか。……そしてきっと、その時はいずれ。


「願わくば、お前達が幸せに過ごせる事を」




 その言葉を最後に、去っていく彼ら。俺達はただ、その背中を見送る事しか出来なかった。





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