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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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月光の翼、銀の守り手

「……う、うう……」


 途切れる事の無いUDBの攻撃に、私達は全員が倒れてしまっていた。

 全身が痛い。みんなのうめき声が聞こえる。まだ誰も死んではいない。けど、立ち上がる気力はもう誰にも残ってなかった。


「痛え、よ……」


「ちくしょう……」


 体力もだけど、心も限界だった。もう駄目だって、認めるしかなかった。


 UDB達は、倒れた私達を取り囲んで動かない。あの男が何かをしているんだとしたら……多分、今まではわざと止めを刺さなかったんだろう。そして、このままで終わりにしてくれると思えない。


「死ぬ、のか、オレ達……?」


 コウがぽつりとそう漏らす。死ぬ、と言う言葉が、頭の中で反響する。


「みんな、ごめんね……私のせいで……」


「違う……俺が巻き込んだせいだ……すまない……」


「謝るなよ、二人とも……」


 みんなの声は、弱々しく、震えている。


「情けねえけどさ……オレはまだ、死にたくねえ……」


「当たり前だろうが……誰も、死にたくなんてねえよ……」


「最期の瞬間って、どのくらい……苦しいん、だろう……」


「止めろよ、泣きたくなるだろ……」


 私達は、ここで終わりなの……? もっと、みんなと一緒にいたかった。みんなとやりたいことがあったのに。


 みんなの顔が浮かんでくる。お父さん、お母さん、おじさん達におばさん達、クラスのみんな、先生……。


 今ここにいるみんなの笑顔。みんな……助けに来てくれてありがとう。ごめんなさい。私がもっと上手くやれば、みんなを巻き込まずに済んだのに。


 ……ガルフレア。ごめんね。また一緒に夜空を見るって約束、守れそうにないよ。


 浮かんでは消える、みんなとの思い出。

 死んじゃったら、誰にも会えない……何もできない。もう、新しい思い出なんて、ひとつも作れない。



 ………………。




「助けて……」


 強がるのも、限界だった。

 こんなのは、嫌だ。私はまだ生きていたい。もっと色んなことを経験してみたい。色んな人と出会ってみたい。もっと……もっと、みんなと一緒にいたい……!


「やだ……誰か。助けて、くれよ……!」


「ち、ちくしょう……なんで、こんな……!」


 でも……その呟きはどこにも届かない。そして……いよいよ一体の巨人が動き始める。最初に近付いてきたのは、私のとこ。


「ま、待ってくれ……やるなら、俺を……!」


「何で、だ……動けよ……!!」


 私は恐怖に耐えるため、目を閉じる。無意識に溢れていた涙が、頬を伝った。


「ルナ……ッ!!」


「くそおぉ……!!」




 だけど――次の瞬間。私に届いたのは、死の痛みでも苦しみでもなくて。辺りに響いた、轟音だった。



「…………?」


 その音の激しさに、私はぼんやりと目を開いた。同時に、麻痺してた思考が、少しずつ回復してくる。


 まず分かったのは、私がまだ生きてること。次に、私にトドメを刺そうとしていた巨人が消えてたこと。


 ……いや、消えたんじゃない。巨人は、地面に叩きつけられてた。さっきのはその音だったみたいだ。いったい何が……。


「…………!」


 巨人の上に……一人の青年がいた。


 綺麗な白銀の毛並み。光を受けて輝く金髪。私のよく知る、ひとりの青年。


「あ……」


 その青年は、真っ直ぐこちらを見据えている。

 ……その背中にあるのは、三対の光の翼。それは儚げだけど力強くて……まるで月の光を集めたみたいな輝きだった。


「ガル……?」


「………………」


 私の良く知るその青年は……すごく悲しそうな顔をしてる。


「なぜ、みんなが傷付く必要がある。なぜ、お前たちがこんな目に遭わないといけない……?」


 ガルは、呟くように言葉を紡ぐ。そんな彼の背後から、突然の乱入者に不服だったのか、三体の飛猫が襲いかかった。


「危な――」


「はあっ!」


 私が警告を発するより速く、ガルは腕を振るう。そこから光が迸って、魔獣を三体まとめて吹き飛ばした。


「な……」


 すごい。これが、ガルの力。彼のPSなの?


「みんなを脅かす者がいるのならば……俺はそいつを許さない。こんなことが、許されていいはずがない……!」


 ガルはあの男のいる方に向き直る。そして……はっきりとした声で、宣言した。


「もう、誰ひとり傷付けさせてたまるか! 浩輝も、海翔も、蓮も、暁斗も……瑠奈も! 俺の大切なみんなは……何があろうと、全て俺が護ってみせる!!」


 …………!!


 私達を……護る。


 ガルが護ってくれる……。


 何があっても、ガルに護られている……!


「私は……!」


 そうだよ……私には、まだ彼の声が聞こえてる。まだ生きてる……まだ、終わってない!


「遅れてすまない。だが、もうお前達に手は出させない。絶対に!!」


 その力強い言葉が、折れてた心に染み渡っていく。


「ガル……」


「来てくれたんだな……」


「ったく、遅えんだよ……」


「さすが……俺達の先生だ……!」


 ガルの言葉に、私達の中の絶望は呆気なく消え去り……生きる希望が湧き上がってくる。そうだ……私達はまだ、生きているんだ!


『――ふ、ふざけるな!!』


 男のみっともない声が、辺りに響いた。






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