月光の翼、銀の守り手
「……う、うう……」
途切れる事の無いUDBの攻撃に、私達は全員が倒れてしまっていた。
全身が痛い。みんなのうめき声が聞こえる。まだ誰も死んではいない。けど、立ち上がる気力はもう誰にも残ってなかった。
「痛え、よ……」
「ちくしょう……」
体力もだけど、心も限界だった。もう駄目だって、認めるしかなかった。
UDB達は、倒れた私達を取り囲んで動かない。あの男が何かをしているんだとしたら……多分、今まではわざと止めを刺さなかったんだろう。そして、このままで終わりにしてくれると思えない。
「死ぬ、のか、オレ達……?」
コウがぽつりとそう漏らす。死ぬ、と言う言葉が、頭の中で反響する。
「みんな、ごめんね……私のせいで……」
「違う……俺が巻き込んだせいだ……すまない……」
「謝るなよ、二人とも……」
みんなの声は、弱々しく、震えている。
「情けねえけどさ……オレはまだ、死にたくねえ……」
「当たり前だろうが……誰も、死にたくなんてねえよ……」
「最期の瞬間って、どのくらい……苦しいん、だろう……」
「止めろよ、泣きたくなるだろ……」
私達は、ここで終わりなの……? もっと、みんなと一緒にいたかった。みんなとやりたいことがあったのに。
みんなの顔が浮かんでくる。お父さん、お母さん、おじさん達におばさん達、クラスのみんな、先生……。
今ここにいるみんなの笑顔。みんな……助けに来てくれてありがとう。ごめんなさい。私がもっと上手くやれば、みんなを巻き込まずに済んだのに。
……ガルフレア。ごめんね。また一緒に夜空を見るって約束、守れそうにないよ。
浮かんでは消える、みんなとの思い出。
死んじゃったら、誰にも会えない……何もできない。もう、新しい思い出なんて、ひとつも作れない。
………………。
「助けて……」
強がるのも、限界だった。
こんなのは、嫌だ。私はまだ生きていたい。もっと色んなことを経験してみたい。色んな人と出会ってみたい。もっと……もっと、みんなと一緒にいたい……!
「やだ……誰か。助けて、くれよ……!」
「ち、ちくしょう……なんで、こんな……!」
でも……その呟きはどこにも届かない。そして……いよいよ一体の巨人が動き始める。最初に近付いてきたのは、私のとこ。
「ま、待ってくれ……やるなら、俺を……!」
「何で、だ……動けよ……!!」
私は恐怖に耐えるため、目を閉じる。無意識に溢れていた涙が、頬を伝った。
「ルナ……ッ!!」
「くそおぉ……!!」
だけど――次の瞬間。私に届いたのは、死の痛みでも苦しみでもなくて。辺りに響いた、轟音だった。
「…………?」
その音の激しさに、私はぼんやりと目を開いた。同時に、麻痺してた思考が、少しずつ回復してくる。
まず分かったのは、私がまだ生きてること。次に、私にトドメを刺そうとしていた巨人が消えてたこと。
……いや、消えたんじゃない。巨人は、地面に叩きつけられてた。さっきのはその音だったみたいだ。いったい何が……。
「…………!」
巨人の上に……一人の青年がいた。
綺麗な白銀の毛並み。光を受けて輝く金髪。私のよく知る、ひとりの青年。
「あ……」
その青年は、真っ直ぐこちらを見据えている。
……その背中にあるのは、三対の光の翼。それは儚げだけど力強くて……まるで月の光を集めたみたいな輝きだった。
「ガル……?」
「………………」
私の良く知るその青年は……すごく悲しそうな顔をしてる。
「なぜ、みんなが傷付く必要がある。なぜ、お前たちがこんな目に遭わないといけない……?」
ガルは、呟くように言葉を紡ぐ。そんな彼の背後から、突然の乱入者に不服だったのか、三体の飛猫が襲いかかった。
「危な――」
「はあっ!」
私が警告を発するより速く、ガルは腕を振るう。そこから光が迸って、魔獣を三体まとめて吹き飛ばした。
「な……」
すごい。これが、ガルの力。彼のPSなの?
「みんなを脅かす者がいるのならば……俺はそいつを許さない。こんなことが、許されていいはずがない……!」
ガルはあの男のいる方に向き直る。そして……はっきりとした声で、宣言した。
「もう、誰ひとり傷付けさせてたまるか! 浩輝も、海翔も、蓮も、暁斗も……瑠奈も! 俺の大切なみんなは……何があろうと、全て俺が護ってみせる!!」
…………!!
私達を……護る。
ガルが護ってくれる……。
何があっても、ガルに護られている……!
「私は……!」
そうだよ……私には、まだ彼の声が聞こえてる。まだ生きてる……まだ、終わってない!
「遅れてすまない。だが、もうお前達に手は出させない。絶対に!!」
その力強い言葉が、折れてた心に染み渡っていく。
「ガル……」
「来てくれたんだな……」
「ったく、遅えんだよ……」
「さすが……俺達の先生だ……!」
ガルの言葉に、私達の中の絶望は呆気なく消え去り……生きる希望が湧き上がってくる。そうだ……私達はまだ、生きているんだ!
『――ふ、ふざけるな!!』
男のみっともない声が、辺りに響いた。