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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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君の運命にはなれなくても

「聞いてただろ? さっき、おれが言ったこと」


「……うん」


「さすがにもう、ごまかすつもりはないよ。……少しだけ、聞いてほしいんだ。おれの言葉。おれのワガママ」


 これは、本当に今さらの言葉。ルナを困らせてもしまうだろう。分かってる。でも……おれ達がこれからも友達でいるためには、きっと必要な儀式だ。

 ガルを見る。あいつは、頷いてくれた。……ありがとう。本当にこいつには、甘えっぱなしだったな。だから、ここで。


「おれ、お前のことがずっと好きだったんだ。友達として以上に、ひとりの男として……ルナっていう女の子が」


「…………。……あの時、保健室で、言ってたのは……」


「そうだよ、お前のことだ。ちょっとは気付いてほしいなって思ってたのに、ほんと鈍感すぎるだろ? ガルですら、大会の時には気付いてたんだぞ?」


「………………」


「……なんてな。それは、お前にだけは知られないようにごまかしてた、おれのせいだ。そのくせ……おれを選ばなかった、なんて八つ当たりして、本当にごめん」


 思い返すまでもなく、赤っ恥だらけ。どうしようもなく、みっともなくて……だから、もうひとつ上乗せするぐらい良いって、開き直れた。


「なあ、ルナ。もし、おれが……もっと前に、ちゃんと勇気を出してこの気持ちを言っていたら、お前は応えてくれてたのかな」


 それは、意味のない仮定。正直、自分でも悪趣味だと思う問いかけ。それでも、どうしても知りたかった。知らなきゃいけないと思った。

 ルナは、少しだけ目を閉じた。真剣に、おれの気持ちを噛み砕いてくれてるみたいだ。そして、少ししてから。


「保健室で話を聞いた時のことは、よく覚えてる。私、レンに好かれてる人は、幸せだろうなって思ったんだ。自分もこのぐらい想ってもらえたらいいのにな、なんて考えたりもした」


「………………」


「そうだね……きっと、そうだって気付いてたら、最初は戸惑ってただろうね。でも、私はレンがどんなに素敵な人か、よく知ってる。だから、もしあなたの気持ちを先に知ってたら、そうしてたかもしれないよ」


 でも、とルナは続ける。ああ、分かってるよ。この話の行き着く先は、ひとつの答えしかない。


「私たちは、そうはならなかった。どう考え直しても……今、そういう気持ちを持てるのは、ひとりだけ。もしもそうだったら、をちゃんと考えることもできないくらいに……私は、ガルフレアのことが、好きなんだ」


「……そうか」


「うん。だから……ごめんなさい、レン。私は、あなたの気持ちに応えることは、できない」


「……はは……」


 そうか。可能性は、あったんだな。その可能性を捨てたのは、おれだ。ガルフレアを妬んでいた理由のひとつは、自分の情けなさから目をそらしたかったからだって、もう分かってる。

 なんだろう。悔しさは、あの時以上だ。だけどもう、哀しくも、憎くもない。どこか清々しいとまで言えるような、妙な気分だ。それはきっと、やっと結末にたどり着いたから。それが、おれにとっての幸せではなかったとしても。


「ああー……これが、本当にフラれたってやつか。それも、自業自得と来たもんだ。ははっ、今さら泣けてくるとか、どれだけ女々しいんだか」


「……レン」


「ありがとう、ルナ。これで、やっと踏ん切りがついた。ちゃんと、おれの答えが出せた」


 そうだ。ガルの答えを自分の答えにするなんて……最初から、無理だったんだ。おれじゃ駄目だって、おれ自身が認めるには……自分で玉砕するしか、なかったんだ。

 少しだけ滲んでしまった涙をぬぐう。どこまで行っても自業自得、情けない馬鹿男の結末。……そんなもんだ。その程度だ。心から好きだったからこそ……この気持ちはここで、おしまいだ。いつか懐かしんで笑える日まで……胸の奥に思い出だけしまっておければ、それでいい。


「……こんなに、情けないおれだけど。お前を……みんなを守りたいと思ってるのは、変わらないんだ。だから、さ……」


 そうして、新しく誓う。今までを踏ん切って、これからを歩いていくために。


「これからも、お前を……いいや。お前と一緒に、守らせてくれるか、ルナ?」


 一緒に戦う仲間として。おれ達が力を合わせれば……怖いものは、ない。きっと、何だって守れるはずだ。

 少しして。ルナはゆっくり微笑んで、その手を伸ばしてくれた。


「頼りにしてるよ。一緒に戦っていこう、レン!」


「……ああ!」


 遅すぎて、我儘な清算。それを受け入れてくれた手を、おれは今度こそ、何も余計な気持ちなく握り返せた。

 ……君が、大好きだ。その気持ちそのものは、今も変わらない。だからこそ、これから君たちが幸せを掴めますように。あの時みたいなかっこつけじゃなくて、今度こそ本当に、そう祈れる。


 手を離す。家族みんなに見られてるの、ちょっと恥ずかしさはある。でも、見てもらうべきだったんだろう。

 少し下がってたコウとカイも、改めて出てきた。


「はーあ、いきなり二人の世界に入りやがってよ。オレらは除け者ってか?」


「全くだぜ。キレイに終わった感じ出しやがって。お前のヘタレっぷりに振り回されてきた身にもなれってんだ、なあ?」


 からかうような言い回しも、こいつらなりの檄だって知ってる。今まで気を遣われてたけど、そうだな。おれ達の間には、そういうのはいらない。だから。


「はっ。お前ら兄弟だけには言われたくないな? おれ達は揃いも揃って恋愛ヘタレ同盟、だろ?」


「はあ〜〜!? 数年間やきもきさせといて言うに事欠いてそれですかこのヘタレンがよぉ〜〜!!」


「……いやちょい待て、だから俺をこのクソザコトラネコと一緒にすんなっつってんだろ!?」


「背中から刺してくるんじゃねえっつーのこのマニュアルヘタレトカゲ!!」


 騒がしい。その騒がしさが、おれ達だ。親しいからこそちょっと礼儀を踏み越えるくらいが、ちょうどいいんだ。

 少しだけ騒いで……みんなで、顔を見合わせて思い切り笑った。ああ、やっと……ほんとのほんとに、元に戻った気がする。


 気が付くと、赤牙のみんながおれ達のところに集まっていた。上村先生とガルも。


「……ありがとな、ガル。見ててくれて」


「いいや。これは、俺の問題でもあったからな。見届けるぐらいはせねば、それこそずるいだろう」


「はは……ほんとに、真面目なやつ。……あーあ! 渾身の告白にのろけで返されちまったな! 聞いただろ、お前しか考えられないって! こうなったんだから……絶対、変な終わり方するなよ!」


 わざとらしく声を上げて。今は、ちょっとだけ痛みもあるから。情けないけど、強がって、精一杯のエールのつもりで。

 ガルは少し目を丸くして、申し訳なさそうな顔をして……でも、最後には力の抜けた微笑みで、頷いた。


 改めて、並ぶ。おれ達の家族、日常……帰るべき場所に生きるみんなと、向かい合う。


「全員、答えは出たようだな」


 慎吾先生の言葉に、みんな頷く。向こうのみんなも、もう誰も何も言わない。きっとみんな、ここで言うべきことは言い尽くした。家族の話は……それぞれ、家族でしてるだろうしな。


「こちらも、ただ待つだけのつもりはない。俺たちにできる形で、共に進むとしよう。……かつての俺たちのように、などとは言わん。お前たちは、お前たちの思うようにやるといい」


「……うん。分かってるよ、お父さん。私たちとして、私たちにできることをやってくる」


「心配はするな。オレも全力でこいつらを守るし……何より、こいつらはもう、守られるだけの存在じゃない。対等な仲間と呼べるほど、強くなった。それは、証明できただろう?」


 先生が、おれを見て笑った。そうか……少しは見せられたのかな、おれ。

 そう思っていたら……親父が、一歩前に出た。


「さて。こうなった以上、提案があるんだ」


「……親父?」


「――これから、俺たちとここにいる赤牙で、ひとつ模擬戦といこうじゃないか?」


「…………へ!?」


 あまりに唐突な提案に、コウが素っ頓狂な声を出した。でも、おれだって同じ声を出しそうになった。

 模擬戦? 親父たち……英雄と、おれ達が?

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