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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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いま、門を越えて

「今のは……!」


 兄貴以外のみんなもざわつく。元々のおれの力じゃ、今の動きができないことはみんな分かってるはずだ。

 おれだって、今のがぶっつけ本番……ただ、感覚で何がやれるかを理解できる。そのまま、続けて攻めた。


 側面、背後、頭上。槍を振るいながら『繋いで』『開く』。反撃が来る前に『閉じる』。さすがのもので、兄貴は位置を変えながらの攻撃にも見事に対処してきた。でも、さっきまでと違って、余裕は見えない。


 虚空の壁にできたのは、距離をねじ曲げること。方向までは変更できない。ましてや、その間に存在するものを無視なんてあり得なかった。

 大きく弾かれたので、おれも体勢を整える。


「っ……力が強くなった、の範囲じゃねえ。まさか、昇華したってのかよ!」


「ああ。おれは……ひとつ、越えられたみたいだ」


 こんな感覚なのか。PSが目覚めた瞬間にも似てたけど、それ以上に、何と言うか……すごい、解放感がある。

 何でできたのかは、正直よく分かってない。今この瞬間に、だし。ただ、自分の戦う理由をはっきりと叫んだ瞬間に、虚空の壁って力の在り方と、それをどう変えたいかが分かった。その願いに、こいつは応えてくれた。


「はっ。魅せてくれんじゃねえか、この野郎!」


「へへっ、お前も思いっ切り叫んでみろよ、新しい名前! アガるぜ!」


 後ろからの声掛けに、思わず笑ってしまう。

 実際、PS名を声に出すのは、力を安定させるのに役立つ。目覚めたばかりの力を認識するのには、良い手段だろう……なんて。

 ああ。そんなことよりも、それは確かに……楽しそうだ!


「おれ達の力、しっかりと見せつけるぞ! 〈次元の門(ディメンションゲート)〉!!」


 声を張り上げ、全身で突っ込む。そして――繋ぐ。

 兄貴の頭上に、おれの身体ごと跳んだ。


「ッ!」


 さすがの反応速度。叩き付けた槍は防がれた。

 反動を利用して空中で後ろに下がりつつ、繋ぐ場所を変える。落下の隙を狙おうとされたので、背中側に門を作って跳ぶ。そうして、逆に兄貴の背後に着地した。

 回転するような薙ぎ払いで受け止めてきたので、今度は敢えて正面から何度か打ち合う。頃合いを見て背後に門を作って離脱――すると見せかけて、転移先は兄貴の側面。そのまま攻撃を続ける。

 いま、一番の勝機は、慣れられる前に決めることだ。おれはいつも、踏み出すことを恐れて色々と逃がしてきた。ここで、おれでも踏み出せるんだって見せ付けてやる。おれ自身にも!



 虚空の壁ができていたことは、変わらずやれる。それに加えて可能になったのは、おれが認識できる空間を、ありとあらゆるものを飛び越えて繋ぐことだ。

 限定的な空間転移、に近いかもしれない。転移できる門を生み出す力、と言うべきかな。

 やれることの幅は、圧倒的に広がっただろう。奇襲に、擬似的な高速移動。タイミングを合わせれば、相手の攻撃をそのままぶつけ返す事だってできそうだ。


 ただ、あくまでも空間と空間を繋いだ後にどうそれを使うかなので、瞬発性はない。遠くを繋ぐほど接続に時間もかかるようだ。受けに使うぶんには、ある程度の先読みをしないと間に合わない。

 根本的な欠点も、変わらず抱えてる。2箇所を繋ぐってことは、相手もタイミングを合わせれば利用できる。できることが広がった分、余計に繊細になったとも言える。

 だから、そうさせない見極めが肝心だ。……感覚を研ぎ澄ませ。空間で状況を考えろ。上村先生ほどは難しくても……あの人の教えを活かして!


「なんて力だよ……とんでもねえな!」


 ……な、兄貴。いま、ちょっと嬉しそうだったのは、気のせいじゃないよな?

 ありがとう。おれが壁を越えられたのは、兄貴が向き合ってくれてるからだ。だから、あなたに……!


「全力で……証明する! 行くぞ!!」


 能力を完全発動。勝負を仕掛ける。

 こうなったら、お互いの思考と反応に限界がいつ来るかの勝負だ。

 跳ぶ。一撃を放ち、続けて跳ぶ。様々な方向から奇襲を仕掛けて、相手の反応速度を上回れるように。

 隙間を縫って、反撃も飛んでくる。それを、跳躍と距離操作で避けてく。余裕はない、紙一重だ。でも、避けられてる。

 今までにないほど、感覚が研ぎ澄まされてる。……出し切るんだ、おれの全てを。限界まで……いや、限界を超えても!


 余計な思考も消えてく。ただ、槍を振るう自分にだけ集中した。

 時間の感覚すら曖昧になって、何度打ち合ったか、分からないくらいの衝突の後。


 ……槍が。宙を舞った。


「はあ、はあっ……」


「……ははっ……」


 転がり、地面に落ちる槍。

 そして、おれの手には……まだ、槍がある。

 ……現実味が感じられるまで、少し時間がかかった。


「そこまで……一本だ!」


 親父の声が、結果をおれの頭に届けてくれた。

 ……勝った。おれ、兄貴に……勝ったんだ。

 それを理解すると同時に……おれは、膝をついた。


「……はぁ、はっ……ふぅ……」


「大丈夫か、レン?」


「すっげえしんど……と言うか、自分が今やったこと、どうやったか分かんない……え、よくやれたな、ほんと……」


 今は少しハイになっていたけど、全力で使ったら相当に疲れるな、これ。身体の消耗はもちろんだけど、それ以上に頭が。猛烈に甘いものがほしい。

 上手く使えば色々とひっくり返せそうな一方で、一手読み違えれば自爆しかねない繊細さ。今まで以上に使いこなすのは難しくなったんだろう。今のおれじゃ、足りないとこはたくさんある。

 ……いいさ。いきなり無敵のヒーローになれるはずもない。強くなっていこう、これから。


 おれが呼吸を整えていると、兄貴が近付いてきた。息は、おれほど乱れてない。


「あーあ。ついにお前に一本取られたか。しかも、ここ一番でと来たもんだ。悔しいな、ほんとに」


「……でもさ。兄貴、ずっとおれを導くように戦ってくれてただろ? 最初から全力で取りに来てたら、違ってたかもしれない。それに、見ての通りこっちだけフラフラだしな……」


「ははっ。けど、最後はマジでぶつかって、負けた。間違いなく、俺は全力でやって、お前を止められなかったんだ。これを認めてやらなきゃ……駄目だよな」


 そもそも、これは兄貴に認めさせるための試合。勝てたって、兄貴が納得しなきゃ意味がないものだ。……きっと、兄貴以外の人も。


「兄貴。おれは、行くよ。だけど、おれはまだまだ未熟で、きっとこれから何度もつまづくと思う。だから……」


 力はついたけど、完璧なんかじゃない。そんなおれが、戦い続けられるのは、みんながいるから、そして、そのみんなの中には……。


「一緒に、戦ってくれるか? 兄貴が、おれの帰る場所を守ってくれるなら……おれはきっと、また立ち上がれるからさ」


「……へへっ。ああ、当然だ! お前たちに任せっきりになんかするわけねえ。俺は、俺のやれることをやる。……一緒に戦おうぜ、蓮!」


 赤牙のみんなだけが戦ってるわけじゃない。そんなの、当たり前の話だ。おれ達はいつだって、たくさんの人に支えられてる。もう、それを忘れたりはしない、絶対に。


 兄貴の手を借りて、立ち上がる。次に話すべきは……こっちだな。

 振り返ると、コウとカイはちょっと後ろに下がった。こういうところは気配り細かいよな、こいつら。


「レン……」


 ルナは、言葉に迷うように、口を開閉してる。……そんなに驚くなんて、本当に全く気付いてなかったんだな。ちょっと笑ってしまう。

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