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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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勘違い

「……つまり、貴様達の目的は、この国に戦乱をもたらす事だと?」


「その通りです、シグルド殿」


 俺とルッカに、五人の男達は語る。彼らによって語られた計画……それに、俺は目を細めた。ルッカは先ほどから口を開いていない。


「今、世界の在るべき姿は争い。例外は認めてはいけないのですよ。そう思いませんか? この国だけが平和なのは、不公平と言うものです」


「………………」


 中心の男は饒舌に喋り続ける。ルッカはどう考えているか……は、容易に判断できるが。


「そこで我等はあなた達とも同盟を結びたいと考えています。そうすれば、我等の力は確固たるものになる」


 喋るのに熱が入りすぎているのか、男はまだ、過ちに気付かない。


「どうですか? シグルド殿も、その少年も」


 滑稽だな。ルッカのことを知らない……いや、彼をルッカだと思っていないのか。所詮は、その程度の連中だ。


「悪い話ではないはずです。帝国との同盟も、さらに強力になるでしょう」


 本気でそう思っているとすれば、愚かにもほどがあるな。もう、どうだろうと()()()()が。


「さあ、シグルド殿。我等の力で、この世界を在るべき姿に……!?」


 男は、ようやく異変に気付いたようだ。恐る恐る、自らの足下に視線を送る。

 そこは、少しずつ……しかし確実に、凍りつき始めていた。


「う、うわああ!?」


 男が悲鳴を上げる。連中は、全く状況が理解できないらしく、慌てふためき始めた。


「な、なにをするのですか、シグルド殿!?」


「一つ、勘違いしているようだが」


 溜め息が零れた。そろそろ、付き合っている時間も惜しい。この馬鹿な連中に教えてやるとしよう。


「貴様達の目的には、何も魅力を感じない。よって、同盟は結ばない」


「な、何を……!?」


「俺達を帝国と一緒にするな。俺達の目指す世界は……恒久の平和。争いを広げようとしている貴様達の望む世界とは、真逆のものだ」


「…………!!」


「そして、個人的なことを言えば、俺はこの国が好きだ。この国は俺達の目標のような国だからな。それを壊す輩と同盟だと? 冗談じゃない。貴様達は、俺にとってだ」


「ひぃ……!?」


 そう宣言すると同時に、男を凍らせるスピードを、一気に上げた。


「あぁ……!? や、止めてくれ、助けて……!」


「障害は、排除する」


 男は何とか逃れようともがくが、脚が凍っているため逃げられない。脚が完全に凍り、胴が凍り、腕が凍り、首が凍り……。


「う、あああ!! ああぁ……あ――」


 ものの数秒で、男は、完全な氷の像となった。他の連中は、唖然としている。


「……な、何と言うことを!!」


「自分が何をやったか分かっているんですか!? これは、帝国への裏切りにも……!!」


「ああ……。ごちゃごちゃと、耳障りなんだよウジ虫共が」


 喚く男達に、ルッカがようやく口を開く。少年には、完全にスイッチが入っていた。途端、他の四人のうち三人が、宙へ投げ出される。


「わあああぁ!?」


「ま、俺より先にシグルドさんが手を出すとは思ってなかったけど。これで遠慮はいらねえよな?」


 ルッカの表情に、普段の優しさは微塵もない。だが、当然だろう。奴らはこいつの逆鱗に触れてしまった。


「そんな下らねえ理由で、この大会を潰して、俺の友達を巻き込んだだと? ふざけてんじゃねえぞ、テメェら。覚悟は出来てんだろうな?」


「じ、重力のPS……まさか、金ご――」


「五月蝿ぇ、喋んな。死ね、ゴミ共」


 有無を言わさず、ルッカは逆転させていた重力を元の向きへ戻し、更に増加させた。その結果、空中にいた連中は、凄まじい勢いで地面へと落下する。……何かが潰れるような音が、連続で三回響いた。


「不倶戴天。地獄に堕ちろ、屑共が」


「あ、あ……」


 倒れた男達に、ルッカは最大限に侮蔑を込めて呟く。そして、残された……意図的に残した一人は、仲間の無惨な姿に恐怖で震えていた。


「おっと! 逃げんなよ」


「ひっ!」


 ルッカが脅すと、男は情けない声を上げて身を縮めた。その間に俺は能力を解除して、最初に凍った男を元に戻す。俺の力で冷却したものは、元に戻すことも可能だ。

 無論、そいつはそのまま地面に崩れ落ちた。残された一人を無視して、ルッカが倒れた男を一瞥する。


「さすが〈零の蒼氷(アブソリュート・ゼロ)〉ってとこか……ほとんど仮死状態だな」


「まだ死んではいないだろう。お前が潰した連中と同じでな」


「え……」


 どうやら仲間が死んだと思っていたらしいそいつは、呆けた声を出した。まだ、全員息はある。もっとも、瀕死なのは間違いないだろうが。


「今すぐ介抱すれば助かるだろう。治療するなら好きにしろ」


「ただし、テメェらの顔は覚えたからな。逃げようとすんじゃねえぞ? もし姿を消したら、今度こそ地獄に案内してやるよ」


 男は状況を理解し、涙を散らしてこくこくと頷くと、すぐに仲間の手当てを始めた。俺たちはそれを無視して、会場へと駆け出す。


「ったく、甘いですよシグルドさん。あんな連中は殺しとくべきだ」


「お前だって加減したんだろう?」


「それはあなたが殺そうとしてなかったからです。冷気の強さで、あなたの考えはだいたい分かりますよ」


 一応は敬語だが、声音は荒々しいままだ。だが、着飾っていないこちらの口調のほうが、ある意味では好ましいと思っている。


「こんな奴らに構っているヒマがないだけだ。急ぐぞ」


「ええ。……覚悟しろよ、屑共が。みんなに何かしてたら、全員グチャグチャに潰してやる……!」


 過激な発言だが、今回ばかりは俺も同意だ。愚か者共には……相応の報いを与えよう。




 すぐに行く。だから、みんな無事でいろよ。……ガルフレア、お前もな。





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