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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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証明の戦い 3

「やっぱ強えな、修さん……!」


 レンが戦う姿を、私たちは見守っていた。

 状況は一進一退。レンは強くなったけど、修さんの強さは私たちも知ってる。それに……修さんだって強くなってるはずだ。遼太郎おじさんの下で、ずっと鍛えてたことは聞いてるから。

 私たち以外のみんなも、それぞれの思いでやれることをやろうとしてる。こうして反対してるのだって、修さんにとって大事なことなんだろう。

 修さんは、レンの言葉を分かってないわけじゃないと思う。相手の思いを認めたとしても、それでも譲れないものだってあるってだけ。だから、戦ってるんだ。


「……けど、あいつ……ちゃんと、吹っ切れたみてえだな」


 カイの言う通り。何日か前には、槍を握るだけで倒れてしまったはずのレンは……いま、元々の技を取り戻してた。無理をしてるようにも見えない。

 私たちと思い切りぶつかったのがほんの数日前。その時には、だいぶ元気にはなってたけど、まだ色々と考えてたのは分かってた。

 昨日、コニィとかガルと話したのは聞いてる。その後、彼の提案でこうやって集まって……彼がいつもの調子に戻ってきて、良い方向に進もうとしてるのは、分かる。それでも、私は。


「……ふう。駄目だね、私」


「どうしたんだ?」


「さっき、レンが修さんと戦うって決まった時……無理しないで、って言いかけたんだ」


 そうじゃない、って気付いて言い直した。信じてる、なんて言ったのも、その罪悪感がちょっとあった。

 レンだって……戦おうとしてる。心配をしすぎるのは、彼を信じてないのと同じことだから。


「あんま考えすぎんなよな。色々あったんだし、心配になるのは当然だろ。俺たちはまあ、こういうノリに慣れてるからよ」


「そうそう。ルナはそれでいいんだよ。オレらはバカで突っ込んでばっかなんだから、そういうポジのお前がいて安心っての?」


「勝手にお前と同類にすんなよバーカ」


「ああ!? ……っとと、今はさすがにそれどころじゃねえっつーの」


 レンの攻撃を捌き切った修さんが、鋭く槍を突き出した。レンは舌打ちしながら下がる。状況は、どちらかと言えば押されてるんだろう。

 でも、分かる。レンは、諦めてない。ううん、何だか、それよりももっと……彼は、何かを見てるみたいに感じた。


「あいつはやれる。オレらは知ってんだろ? あいつがどんだけ頑張ってきたかをよ」


「だな。あいつ自身がどれだけ迷ったって……俺たちは見てきた。あいつがすげえやつだってこと、ずっとな。それ伝えてなかったのは反省点だけどよ」


「……うん。そうだね。しっかり見て……私たちも、レンの気持ちを受け取らなきゃね」


 私の頭の中にも残ってる。ひどい怪我で倒れて、今にも死んでしまいそうなレンを見た時の苦しさが。目を覚ました彼が、戦いたくないって泣き叫んだ時の苦しさが。

 でも、私がそれに囚われちゃ駄目だ。だから、見届けよう。立ち上がって戦ってる、私の大切な友達を……ちゃんと、信じるために。










「………………」


 橘 慧は、時村兄弟の戦いを、複雑な面持ちで見守っていた。

 彼は、弟と友人たちがバストールに旅立ってから、修と共に鍛錬を繰り広げていた。だから、修の気持ちは痛いほどに分かっている。

 彼自身にも、思うところはある。だが、慧は浩輝の前に立ち塞がることを選ばなかった。それでも、その選択は頭をよぎってはいた。だから、ああして全力をぶつける修に、羨望に近い感情もある。


「慧くん、ちょっといい?」


 声をかけられて、そちらを向く。海翔の姉、詩織だった。

 お互いの伯父と伯母が夫婦だったので、昔は親戚の集いでたまに顔を合わせていた相手。少し歳上の彼女のことを、海翔と一緒にお姉ちゃんと呼んで慕っていた。ある程度成長してからは会う機会も少なくなり、慧は気恥ずかしくなって普通に詩織さんと呼ぶようになったが。

 慧が頷くと、詩織は隣に座った。二人で、兄弟のぶつかり合いを眺める。


「ほんっと、男の子ってああいうの好きよね。うちのバカも喜んでやりそうだわ」


「……詩織さんは。止めないんですか?」


「そりゃ、止めたわよ。あいつが帰ってきてから、話をする機会はあったからさ。ほんとに気持ちが固まったのは、何日か前っぽいけど」


 それは、蓮との和解を果たした日。浩輝も、海翔も、瑠奈も、誰よりも早くに家族へとその決心を伝えていた。いま衝突している蓮と同じことを、一足先にやっている。


「叔母さんたちの仇とかの話は聞いたし、私だって許したくはない。けど、そんな危ないやつに自分で関わる必要ないでしょって。でも……分かっちゃったのよね」


 ほんの少しだけ、辛そうに。それでも、答えはもう、彼女の中で出ているらしい。


「ああ。()()()()()んだ、って。きっと、どんな手を使ったって、海翔は……絶対に行くんだなって」


「………………」


「浩輝くんも、そんな感じじゃないの?」


「……はい。あいつを止める言葉は、俺には思い付かなかった。……弟がどんな性格かぐらい、よく分かってますから」


 浩輝の覚悟を聞いて、最初は止めた。それでも、浩輝を理解しているからこそ、弟がどれだけ本気なのかも分かってしまった。そうして、慧もその結論に至った。

 親たちが止めないのは、それを理解しているからなのだろう。英雄と、それを見守ってきた存在なのだから。その内心で、どれだけ止めることを望んでいたとしても。


「もちろん、まだ止めたいですよ。でも、さっき瑠奈さんが言った通り、俺たちだってとっくに部外者じゃない。止めるとか止めないとか、きっとそういうのは今さらなんです」


 慧たちもまた英雄の血筋だ。自分たちだって狙われてもおかしくない。そうでなくとも、闘技大会のような事件が世界中で起こりはじめている。

 慧はリュートに殺された二人のことが大好きだった。弟と友人がずっと苦しんできたのも見てきた。その仇がいると言われて、無関係などと言いたくもなかった。彼らもまた、とっくに当事者なのだ。


「だから……俺も、決めたんです。俺にできる形で、あいつらの戦いを支えようって。きっと俺にも、できることはあるはずだから」


 エルリアで戦いが起きるかもしれない。その時に、彼らが帰ってくる場所を守ることも、共に戦うことになるはずだ。慎吾たちが何かをしているのも知っている。

 待っているだけでは受け止められない、それは変わらない。ならばこそ、当事者として共に戦う覚悟を。それが慧の出した答えで、詩織もまた同じだった。


「……うん。やっぱ立派よね、慧くんは。あいつに爪の垢でも飲ませてやりたいわ」


「俺はともかく……あいつは昔から立派なやつですよ。詩織さんの方が分かってるでしょう?」


「あは……あのバカ褒めると調子に乗るから、程々にしといてね?」


 明るく冗談めかして。何もかも納得できたといえば、嘘になる。それでも、弟たちの成長を嬉しく思う気持ちだってある。


「修さんも、それは分かっているはずです。……ただ、それで黙っていることに、納得できないだけなんだと思います」


「そうね……」


 傷心の蓮を気遣って、時村家はその話題に触れないように過ごしていた。対話の機会は他の家族よりも少なかっただろう。だからこそ、今ここでぶつかっている。

 頭で分かっていても、心が受け入れられないことはある。全力を出して、ぶつかって、それで何かが変わるかは分からない。ただ、意味がなかったとしても、彼らには必要なことなのだ。


 ある意味で、修は彼らの代表だ。ならば後は、見届ける。自分たちに残る迷いも、彼の槍に託す。

 二人はそれ以上は語らず、戦いを見届けることに静かに集中するのだった。







「どうした! それで終わりかよ!」


「…………!」


 兄貴を崩せないまま、何度目かの衝突。

 おれの槍は、どうやったって届かない。……予想していた通りの結果。きっとこのままだと、何回やったって同じことだ。

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