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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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証明の戦い 2

 まず兄貴が繰り出してきたのは、うちの流派の基礎の型。おれは敢えて、同じ型で迎え撃った。2人全く同じ動きで、槍がぶつかり合う。

 何度となく繰り返した型稽古。おれも基礎はしっかり身に付けていたけれど、熟練度は兄貴の方が上。前にも同じような試合をやったことがあるけれど、何度かぶつけ合ううちに、おれの方が乱れて負け……それが、いつもの結果だった。

 ……少し打ち合っただけで、手応えの違いを実感する。前は、ついていくのも大変だった。でも、今は……追い付ける!


「少なくとも、口だけじゃねえみたいだな」


「余裕見せてると、足元すくうぞ……!」


「はっ。まだ小手調べ……だろっ!」


 何度か打ち合ってから、距離を離す。間髪入れず放たれた鋭い突きを避けつつ、おれも薙ぎ払いを繰り出すと、兄貴はどこか感心したような声を出した。

 そのまま、お互いに純粋な槍術の比べ合いが始まる。うちの基本は攻防一体……攻撃しながらも守りは捨てず、守りで生じた隙を攻める。全体的に見ると、武術としては守備を重視してるだろう。実戦を生き延びてきた親父だからこそ、戦いを生きる術を教えたかったんだって、今ならよく分かる。

 兄貴は、その槍をしっかりと受け継いでる。隙はほとんどない。だけど、おれだって負けるつもりはない。お互いに、突き崩すことを狙って槍を繰り出しながら、自分の守りは保つ。


 ……変な話だけど。おれは今、初めて兄貴の強さがちゃんと分かった気がする。

 何度も実戦を乗り越えた。UDB相手が大半ではあったけれど、対人戦だって経験した。強い相手と戦って、生き延びて、おれの技量は間違いなく上がった。

 兄貴は、記憶の中の強敵と遜色ない。それだけで、ものすごいことだ。きっと今でも、技量で真っ向からぶつかれば、おれは兄貴に敵わない。……だったら。


「っと!」


 上段を突く、と見せかけての、腰を落として薙ぎ払い。通じはしなかったけど、意表を突くことはできたらしい。

 これは型にはない。元は戦いの中で咄嗟に放った動き。それを、マスターやガルからアドバイスをもらって改良したものだ。


 おれが勝ってるものがあるとすれば、それは実戦経験と、ギルドのみんなから学んだものだ。

 気持ちでも負けるつもりはない。兄貴が本気なら、おれも本気。ここまで来たら、意地のぶつかり合いだ!


「……はっ。ほんと、腕上げたな」


「じゃあ、認めてくれるか?」


「そんな甘い気持ちで立ってねえって分かるだろ?」


 ああ、分かってる。お互いに、まだ……本気じゃないことも。今やってるのは、ただの槍術のぶつけ合いじゃない。戦う力を全て出し切らずに、認めてもらえるはずはない。


「ウォーミングアップは終わりだぜ。そろそろ、本番行こうじゃねえか」


 そう言った兄貴は、静かに構えた。兄貴のPSに、目に見える発動の予兆はない。けれど、使われたってことは、はっきり理解できた。

 ……兄弟だから、もちろんお互いのPSは知ってる。だけどそれは、簡単に対処できるって話にはならない。


「さあ、来いよ。認めさせてえなら……俺を、突破してみろ!!」


「ああ。……行くぞ、兄貴!!」


 出し惜しみはしていられない。初撃は、虚空の壁を使っての奇襲。距離を縮めて、一気に押し切るつもりで突いた。

 だけど兄貴は、おれが動き出した瞬間にはもう迎撃に移っていた。渾身の突きが弾かれる。

 思わず舌打ちしながら、能力を織り交ぜて攻め続ける。持久戦は向こうが有利だと分かってるから、思い切って踏み込む。でも、兄貴は崩れない。それどころか、攻撃はほとんど先読みで潰される。おれの僅かな動きから、次の一手を読まれてしまう。

 次第に、攻めていたはずが押され始める。分かってはいたけど、やっぱ辛いな、この力を相手にするのは……!

 虚空の壁を使って、何とか距離を離す。兄貴は追ってはこずに、静かにおれの出方を窺ってる。受けに徹するつもりか。


「思い切れるようになったのは悪くねえ。けど、まだ足りねえぞ?」


 兄貴のPS〈明鏡領域〉は……感覚の強化と拡張、と言えばいいか。

 あの力が発動していると、兄貴を中心とした円形の空間で起きたことを、五感とは違うもので感知できるようになる。範囲はおれの知る限り最大で10メートル程度、ただし広げるほど感覚は薄くなるらしい。


 特に、範囲を近距離に絞った時の精度は抜群だ。背後から奇襲を仕掛けようと、兄貴は正確に相手の動きを読み取ってカウンターを決められるほどに。

 乱戦向きの力ではあるけど、一対一でも厄介なのは見ての通りだ。僅かな動きから行動を見切られるし、フェイントだって即座に対応される。

 身体能力そのものが上がるわけじゃないから、動きを上回れば攻撃は通せる。でも、あの超反応をくぐり抜けるのは、実力そのもので大きく勝っていないと困難だろう。

 そうして、生半可なPSも通さない。どんな力でも強化された反応で即座に対応できてしまうからこそ、様々な能力と戦う闘技大会でも、兄貴は危なげなく勝利を重ねて優勝した。

 派手さはなくても、適応力が高くて突破困難。強いPSの基準は色々とあるけど、実戦を経験した後だと、こういう何とでも戦える力こそ何より厄介だって思う。


 ……知ってる。兄貴の力とおれの力は、相性があまり良くないって。

 おれの力は距離を捻じ曲げる。けれど兄貴は、その空間の異常にも反応できてしまう。できるだけ攻撃寸前で発動させるにしても、ラグは無しとはいかない。効果が皆無とまでは言わなくとも、縮めた距離で反撃を喰らうリスクも高まる。

 距離を離しての防御は有効だ。けど、守りに入ってばかりだと、届くことはない。おれは今、兄貴を突き崩せる証明をしなきゃいけないんだ。

 ……いいや、違う。これは、兄貴にだけじゃない。みんなに……そして、何よりも。


「まさか、これで終わりじゃねえだろ? ほら、次来いよ!」


「言われなくたって!」


 越えてみせる。おれは、ここで……!



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