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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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それぞれの理由

「どおおぉ……りゃあああぁっ!!」


 あまりにも無駄すぎる気合の入った声とモーションで、コウがぶん投げたボウリング玉は――ピンを倒すとかそれ以前の次元として、投げた1秒後にはガターに吸い込まれていった。ちなみに二投目だし、さっきは2秒で沈没してた。


「見事なまでにかっとばしたわね……」


「だ、大丈夫だよ浩輝くん! まだ最初だから巻き返せるよ!」


「うう〜、飛鳥の優しさが……超痛ぇ……はっ、そうだ、今こそオレの新しい力で巻き戻し……!」


「こういうとこでPS使ったら出禁だノーコンネコ。ほらとっとと代われ」


「誰がノーコンだっつーの!? ……いやネコでもねえわ!!」


 こいつ、運動神経自体はいいんだけど、コントロールとか求められるのは苦手ってか……あと今は間違いなく無駄に力んでやがる。いいところ見せようとして大暴投なのはこいつらしいけど、さすがに兄としちゃ心配になるぞこの分かりやすさ。

 ……言葉にはしないけど、浩輝がPSのことで冗談を言えるようになったのは、良いことだと思う。俺もようやく、本当に安心できそうだ。



 と、いうわけで。俺たちは今日、6人で遊んでる。今は絶賛、チーム対抗ボウリング戦だ。

 チームの内訳は俺と美久、コウと飛鳥、レンとコニィ。別に勝ち負けでどうこうって話にするつもりはねえが、勝てたら良いとこ見せられるだろうし、せいぜい張り切るとしよう。


 しかしこの組み合わせ、トリプルデートって感じ――とか口に出したらレンに悪すぎるから言わねえけど。あいつがまだ吹っ切れてねえのは、言うまでもないし。

 ルナとガル。この二人の気持ちは本物で、レンの気持ちはもう、どうしようもねえもんだ。……俺が見た限りだが、レンにだって可能性くらいはあった。この結果になった理由は、あいつ自身も分かっているんだろう。でも、俺からしたら、あいつが間違えてたのはその後の……。

 ……さすがにこれ以上は野暮か。ガルとこれ以上こじれるなら、言ってやるつもりだけどよ。ま……悩んでも考えてる今のあいつを見てたら、大丈夫だと思う。目を離すんじゃなくて、今度はちゃんと見守ってやるとしよう。


 と、いけねえな。今はそれを考える時じゃねえ。楽しむ時ぐらい、目一杯遊ばなきゃな。

 後ろで唸ってるトラネコは無視して、俺の番。……よし。久々だったが、上手いことスペアだ。


「へえ、なかなかやるじゃないの!」


「ず、ずりぃぞ!」


「頭の出来がちげえんだよ。どっかの力任せにしかできないバカネコと違ってな?」


「んぐおおおぉこのクソトカゲがよぉ!!」


「ほらそこまでにしろ。全く……いつも無駄に喧嘩するな馬鹿」


「あん!? おいこらレン、誰が馬鹿だって!?」


「本当のことだろ? カイは賢いって言うなら学習しろ。コウは一々乗るな。そのノリで喧嘩が許されるのは小学生までだぞ」


「いやお前急に口悪くなったな!?」


「ってかお前も煽ってんじゃねえっつーの!?」


「は……。お前らの喧嘩には困らされてきたからな。たまには反撃だ」


 すました顔で言いやがったこの野郎。……こんな言い方できるようになったのは、きっと良い変化だ。いやそれはそれとして誰が小学生だ!


「何だか蓮、少し雰囲気が変わったわね……」


「あはは、いいじゃないの。ウジウジしてるよりはっきり言っちゃいなさい!」


「心配するな、あいつら限定だからさ。さて、それじゃ……勝たせてもらうとするか!」


 慣れねえ反撃に俺らがタイミング失ってるうちに、レンの投げた玉は、見事にストライク。……スポーツに関しては、俺たちの中でもこいつが一番そつなくこなすんだよな。武道やってて、ちゃんと基礎ができてるってのもあるだろう。


「決まったわね、蓮」


「ああ。足を引っ張りたくはないしな?」


「コニィちゃんも蓮くんもすごい……」


 そう。女子は先に投げてるけど、コニィは一人ばっちりストライクを決めている。飛鳥と美久だって悪いスコアじゃねえけど。

 穏やかで控えめだから忘れがちだけど、コニィも大概すげえ身のこなししてるよな。いつもの棒術を考えたら当然なんだろうけどよ。


「まだ勝ったつもりには早いわ! 飛鳥も、お互いこっから巻き返してくわよ!」


「そ……そうですね! 浩輝くん……頑張ろうね!」


「う、うおお……! 飛鳥が応援してくれるなら! オレ、めっちゃ頑張るぜ!」


「俺、応援されればされるほど暴投する、に賭ける」


「奇遇だな、おれもだ」


「テメェらぁ〜〜!?」




 けっきょく。予想通りの理由でズタボロのトラが撃沈した以外は、みんなかなりの好成績ではあったけど。蓮とコニィがツートップで、並べるまでもなくチーム1位をかっさらっていった。

 ちなみにへこんでたコウは飛鳥が慌てて慰めたらすぐ復活した。……いやほんと心配だなこいつの将来!



 それからも、色々と巡った。

 カラオケじゃコウが鬱憤を晴らすように歌の上手さを発揮して、飛鳥も良い声だった。楽器だけじゃなくて歌も好き、って、二人とも音楽に関わるもんは全部好きらしい。

 一方でコニィはそんなに歌が得意じゃないらしい。下手とかじゃなくて、単に慣れてないって感じだけど……こっちは何か意外だな。


 俺たちの学校にも寄った。今日は土曜日だから部活が動いてるくらいだけど、一度見てみたいって女子たちが言ってな。先生にも許可をもらって、軽く案内することになった。

 天海高校は、この国の基準でもけっこう規模のでかい学校だ。三人とも、思ったより興味津々って感じで色んなことを聞いてきた。なんか、こういうのも新鮮だな……。


 そんな感じで、俺たちの普段の遊び場とか、よく行く場所とか。案内をいざ考えてみるとなかなか難しかったけど、三人で意見を出し合って……美久たちも、楽しんでくれてると思う。俺も、改めて普段の自分たちを振り返ってみるのは、けっこう面白いもんだった。


 そして、今は夕方。俺たちは近所で一番でかいショッピングモールに行って、さっきのボウリングと同じ組に分かれて解散した。いろいろ自由に見て回ろうぜって。

 これは、男3人で前もって決めてたことだ。俺は美久と話しときたかったし、コウも飛鳥とは色々あるだろう。レンはレンで、コニィに話があるらしい。


 思惑はともかく、まずは素直に買い物を楽しむことにした。

 美久は服やら小物やら、興味がある物をいろいろ買っていった。奢ろうとしたけど「私の方が稼ぎ上だし。彼氏面するのは早いわよ?」と言われて、ぐうの音も出ない。もっと手心をだな……。いやまあ、はっきり言うところが好きなんだけどな!

 俺も、ちょっと覗いた本屋で良さげな小説を買えたから満足だ。……気になった恋愛小説はかっこつかないので我慢しようとしたが、美久の側から「あんた好きそうじゃない? これ」って勧められたので買えた。……あれ? 好きそうってどういう意味だ!?



 そんなこんなである程度巡って、今は適当なベンチでちょっと休憩中だ。ゆっくり話すにもちょうどいいだろ。


「初めて来たけど、良い国よね」


「だろ? 外に出てから、マジでそう思うようになったぜ」


 この平和の価値が、今はとにかく身に染みる。……それをぶっ壊す奴だっているってのは、元々知ってたけど。平和を勝ち取らなきゃいけない人が今も当たり前にいるってのを、ギルドに入って体験できたからな。


「そういや、美久の名前ってエルリア人のお母さんに合わせたって言ってたよな?」


「そうよ。私にとっても、縁のある国ってわけ」


 だから一度来てみたかったの。そう言った美久の表情が、何だか寂しそうに見えた。

 もしかしたら、美久の母さんはいま、この国に……そう聞きかけて、止めた。居場所を隠していることは聞いてるからな。話題にしない方がいいだろう。

 ……家族に会いたくても会えないってのは、辛いよな。早く、何とかしてやりてえな、こいつのこと。先生とも互角だったクライヴさんに、俺はまだまだ届かねえだろう。だから、少しでも届くように、強く。


 でも、その前に……ここから先の戦いについて。やっぱり、俺の中にはまだ迷いもある。だから……彼女とは、話しておきたかった。


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