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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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トモダチ

 流されるまま。と言うか、親父たちにも背中を押されて。

 おれは、夜だと言うのに誘いに来た奴ら……コウとカイ、ルナと一緒に、夜の街へと出かけることになった。


 バストールはギルドの仕事で夜に動くこともあったけど、エルリアだと、こんな時間におれ達だけで出かけることはなかった。みんなによると、一応は上村先生と慎吾先生の許可をもらったらしいけど。


「……さすがに想像してなかった、な」


「急でわりぃな。けど、来てくれて良かったぜ!」


 コウは何か楽しそうに笑ってる。

 ……なんと言うか、遠慮がない。誘いに来た時点で今さらだけど、面食らってしまう。


「ごめんね、レン。何かこう、勢いで押しかけちゃって」


「いや……それは大丈夫、なんだけど、さ」


 何とかやってみる、って決めた直後ではあるんだけど……さすがに、それでいきなり上手く話せるほど、おれは器用じゃない。昨日までよりは、たぶんマシだと思うけど。正直、どんな顔で話せばいいか分からない。でも。


「……おれも、みんなとは話さないとって、思ってたから」


「………………」


「その……親父たちと話して……さ」


「……そっか」


 おれ以外のみんなだって、色々と話はしただろう。特に今日は、おれがいきなり学校を休んだりしたから……3人で話し合って、強引にでも行こうって決めたんだと思う。それは、何となく分かるんだ。そういう奴らだから、みんなは。

 だから……今日、ここからは、絶対に逃げたらいけない。それだけは、確信があった。みんなに対する嫌な気持ちも、おれの駄目なところも……消えたわけじゃない。でも、だからこそ……話さないといけないんだって、思うから。


「ま、そういう真面目な顔すんのは後にしようぜ! せっかくだし、今は街をゆっくり見ねえか?」


 カイの言葉に、気を取り直す。……後にしよう、か。

 でも、言われて改めて見るエルリアの街並みは……なんだろう。今さら、なんだろうけど。


「……なんか、懐かしいな」


「確かに。戻ってきてからも、よく考えたらちゃんと街を見てなかったんだよな」


 おれの場合は特に、完全に目を閉じてたのかもしれない。そう思えるようになるくらいには、考える力が戻ってはいるんだろうか。ただ考えることを止めてただけ、だったんだな。

 夜の街をみんなで歩くのは新鮮さもあるんだけど、やっぱりこうしてると、思い出も蘇ってくる。


「この辺、みんなで最後に来たのっていつだったっけ?」


「お兄ちゃんが陸上で優勝して、みんなでお祝い買いに来た時だったかな?」


「去年の夏だな。サプライズで祝ったら、あいつマジで千切れるくらい尻尾振り始めて傑作だったよな!」


「そうだったな……。あれから一年経つのか……」


「あっという間だったような、すげえ懐かしいような。不思議な気分だよなあ」


「コウのくせに急にジジくせえこと言ってんなよ」


「誰がジジイだっつーの!? ってか分かってんのか、オレがジジイならお前はもっとジジトカゲだろうがバーカ!」


「ああ!? てめえ誰が誰に向かってバカってほざきやがった! いい度胸だ、あっちに」


「夜遅い街中で何やってるのかな二人とも?」


『ひぃ……』


「……お前たち、な。ほんとに……」


 なんだろう、これは。いや、元々こんな感じでは、あったけど。どうして……元々と同じように、できるんだろう。

 意識して……前と同じに、してる? みんなにも何か気持ちの変化があったのは、分かる。でも、無理をしてるって感じは、そんなになくて。……おれの方も、それを嫌だと思ってないことに気付いた。


 ……そういや。友達同士の会話って……こんなの、だったんだな。

 なんか、すごく遠い場所にあったそれを、久々に手に取ったみたいで。風景以上に、それがひどく懐かしく思えて。まだ何も話せてないのに、ちょっと泣きそうになった。

 ごまかすために、何か言うことを探す。


「ところで、目的地はある……んだよな?」


 そう言えば、まだそれを聞いてなかった。みんなの感じからして、行く場所は決まってるっぽいけど、さすがにこの時間から、ほんとにただ遊ぶ場所に行きはしないだろう。


「ん。帰ってきたんだし、絶対に行っといた方がいい場所だな」


「絶対に……?」


「レンもよく知ってるとこだぜ? このメンバーなら、って場所!」


「おれも……って、あ……」


 ひとつ、心当たりが浮かんだ。この方角、この道のり。確かに、みんなでよく通った道だ。高校に入ってからは、ご無沙汰だったけど。

 おれが気付いた反応をしたからか、みんな笑った。


「そう。フィガロ自然公園。私たちの、秘密基地だよ」










 記憶通りの道を進んで、そこに辿り着いた時には、もう9時になっていた。

 どんどん開発されてる首都圏にあって、それでも残された自然。もちろん人の手は入ってるけど、辺りに広がる緑はなんだか心を落ち着けてくれる。

 おれ達の一番お気に入りの場所は、奥の開けたところ。みんな示し合わせるでもなく、その場所まで進んでいく。


「…………。本当に、変わってないんだな……」


 ルナは今でもたまに来てるって言ってたけど、おれは高校に入ってからは初めてだった。でも、管理の行き届いた自然公園の風景は、記憶にあるまま同じで。たかが数年なら当たり前、かもしれないけど……今のおれには、何だか。


「夜に俺たちだけで来るのはちょっと新鮮だけどな。前は慎吾先生がついてきてくれたし」


「ああ、天体観測の自由研究、やったなぁ! そのために来たのに、空がキレイってのでみんな普通に盛り上がっちまって、目的忘れそうになってさ」


「そうそう。懐かしいなあ、ほんとに」


 ああ。色んなこと、思い出す。昔はここで、ちょっとしたピクニック気分を味わったり、ただ何気ない話をしたりした。……それだけで、良かった。

 あの時みたいに、見上げる。夜空が……月が、綺麗だ。


「ここに始めて来たのも、もう6年くらい前だもんな。オレらの付き合いもそんだけ経つんだよな」


「……そう、だな。ずっと、一緒にいたよな、本当に……高校まで、同じにしてさ」


 その中に、少し前まではルッカもいた。考えてみたら、あいつは……どの学校でも良かったんだろう。いつか、六牙の立場に戻るつもりだったなら。

 だとすれば……あいつは、おれ達と一緒に過ごすことを理由に、選んでくれたんだろうか。今は、確かめることもできないけど。


「このバカトラのせいで同じ高校に入れるかはだいぶ不安だったがな?」


「うるせえっつーの! だから受験はマジで頑張ったってのこっちは!」


「実は慎吾先生が権力でごまかしてくれただけかもしれねえぜ?」


「なわけねえだろ!? ……ねえよな……?」


「あはは……さすがにお父さんも、人の一生に関わることを贔屓で操作はしないでしょ。……たぶん。きっと……?」


「お前が自信無くすのやめろよ!?」


 本当に、他愛もない会話。思い出はいくらでも出てきて、きっと話そうと思えばいくらでも話せる。……そうやって話せること自体が懐かしい、なんて思うくらい、あの夜から長い時間が経った気がする。

 でも、分かってる。そのためだけに、ここに来たわけじゃない。示し合わせるでもなくて、雑談が途切れた。


「さて、と。そんじゃ、そろそろいいか」


 どかりと、カイが座り込む。それに合わせて、みんなで輪になるように座った。


「レン。ちょっと強引だったけど……呼んだ理由は、だいたい分かってんじゃねえか?」


「……うん」


 あの夜、おれが理不尽に怒ってから……ずっと、向き合っての話なんか、できてなかった。

 死にかけたおれが目を醒ました後に、お互い一度は謝って……だけど、正直おれは感情がぐちゃぐちゃで、何も整理できてない状態だった。みんなも、そうだったのかもしれない。


「おれ達、ずっと……何も、上手く行って、なかったから」


「……そうだね」


 答えを、出さないといけない。それが、どんな形になったとしても。

 ……許されちゃいけないって気持ち。自分が嫌で仕方ない気持ち。そして……みんなに感じてる、この気持ち。どうするのが正解かなんて今でも分からない。だけど……逃げるのだけは、もう。

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