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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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思うがまま、やるべきことを 4

「何か、気付いたって顔だな」


「……親父。おれ……」


 何を、してるんだ。反省すら、ちゃんとできてなかった。おれは、おれは……ただ、逃げる方法を探してただけ、で。

 自分が駄目なやつだって、決めつけてしまえば……駄目なものを、責め続けていれば。ある意味で、楽だった。それだけ、なんだって。


「言っただろ? お前は、一番大事なものを無くしていないように見える、と。……本当に立ち向かう意志が無くなったのならば、立ち向かえないことを辛くなど思わない。だろ?」


「…………。そう、なのかな」


「そうさ。ただ、問題が一気に降り掛かってきすぎて、どうすれば良いか分からなくなってるだけだ」


 みんなのこと。ルッカのこと。……実力が足りないこと。死ぬのが怖いこと。全部どうにもできなくて、だから諦めようとしてた。

 ……自信は、ない。今、この瞬間だって……都合の良い言い訳に甘えるな、お前は最悪なんだ、って責め続けてくる自分がいる。周りが優しくしてくれるのは、そういう人たちだから当たり前だろうって。


「色々と言ってきたがな。お前はいま、自分で思っている以上に疲れているんだ。そんな時に、何もかも決めろなんて言わん。ただ……これだけ、聞かせてほしい」


 親父は、優しい目で俺を見ていた。きっと、何を答えたとしても受け入れてくれるって、そう思えた。そして。


「お前は、このままでいいと、思うか?」


「――――――」


 シンプルな、問いかけ。

 ……この、まま。このままで、いい、か?


「できるとかできないとか、方法があるとかないとか、そういうのは抜きだ。ただ、まずは自分がどうしたいか、を決めてほしいんだ」


「……どう……したい、か……?」


「全て投げ出したい、でもいい。少なくとも父さんは、何があろうとお前の味方をしてやる。……蓮が望むのは、何だ?」


 望み。おれが、望むもの。

 でも、おれに望む権利なんて――そうじゃ、ない。おれは、このままで、いいのか? このままが、おれの望むこと、か?


 怯え続けて。後悔し続けて。

 ただ、自分を蔑み続けて。

 何もできない、自分のままで。

 大事な兄弟を……放っておいて。

 ……みんなとも、このままで。おれは、それで、


「や、だ」


 ……そんなの。おれだって、本当は……!


「嫌、だよ……嫌に、決まってるじゃ、ないか……!!」


 考える資格がないと、言う資格がないと、思ってた。だけど、本当は……このままだなんて、耐えられない。


「だって、このままじゃ、おれ……みんなの友達で、いられない! ルッカの兄弟でも、無くなる……! そんなの、嫌だ……嫌だっ、絶対に、嫌だ……!!」


 我慢できない。色んなことが、浮かんで飛んで、自分でも何を言いたいのか分からない。でも、抑えられない。


「戦いたくなんてないっ……でも、嫌なんだ……みんなと、一緒に、いたいんだ……!」


 そうだ。弱い自分が、こんなにも嫌だったのは。

 それだと、みんなと一緒にいられないって、いる資格がないって、思ったから、で。


 嫌われたくなかった。ひとりになりたくなかった。ただ、おれの事を少しだけでも、大事な存在だと、思って欲しかった。

 それなのに。大切なのは、そっちだったのに。おれは、自分の弱さにばかり気を取られて、何のために強くなりたかったのかも、忘れてた。


「だけど……! おれが、色々とやらかしたのも、本当で……何も、届かなくて……もう、どうしたらいいか、分からなくてっ……」


 分からない。何も、分からない。いったい、どうすればいいのか。

 また、おれは泣いてるらしい。前がよく見えない。……何かが、触れた。親父の、腕? 抱きしめられてるのか、おれは。


「じゃあ、今のお前は、一番に何をしたい?」


 背中を、優しく撫でられる。耳元の優しい声は、不思議なくらいに、おれを落ち着かせてくれた。

 ……色々とぐちゃぐちゃで。考えて、決めないといけないことだらけで。でも、改めて聞かれたその言葉には、はっきりと答えが浮かんできた。


「……みんなと……ちゃんと、話したい……」


 自分も見えてなかったけど、みんなのことだって、見れてなかった。ずっと、目をそらして、逃げ続けてた。

 ばか、みたいだ。嫌われたくないからって、嫌われたことにして終わらせようと、するなんて。


 本当に、言いたいことを。ちゃんと伝えたい。ちゃんと、聞きたい。

 その結果がどうなるかは、怖くてたまらないけど。このままになんて、したくない。だから……。


 そのまま、しばらく泣いて。ようやく顔を上げられたおれを、親父はずっと抱きしめてくれていた。守ってくれてるって、思えた。


「やっと、本音を言ってくれたな。我が息子ながら、考えすぎるのは悪い癖だぞ?」


「……おれ……まだ、できる事が、あるのかな……?」


「まずは、どうにかしたいと思えたならばそれでいい。お前がこれからどうするのか、みんながどう思っているのか。それは、お前ひとりで出す答えじゃないだろう?」


 ……そうだ。その通りだ。みんなから見捨てられるべきだ、なんて。それは、おれが勝手に喚くことじゃ、ない。


「それに、お前は知っているはずだろ。彼らは、お前の話も聞かずに見捨てるような子たちじゃないって」


「……だから、余計に嫌だったんだ。みんな、あんなにいい奴らなのに、どうしておれは、って……」


 導かれるように言葉にして、ようやく自分の気持ちが形になってく。自分だけが相応しくない悪者に思えたのが、辛くてたまらなかった。許されたとして、いたたまれなかった。でも……それは結局、自分本位でしかなくて。


「だったら、腹を割って話すといいさ。案外、みっともないところまで晒した方がいいこともあるもんだ。ちょうどいい例も出たばかりだしな?」


「……うん」


 最後に、親父はおれの頭を撫でた。……なんだろう。こんなに、落ち着くんだな。


「上手くいかなかったら、その時はまた考えよう。繰り返すが、お前が何を選んでも、父さんはお前を必ず助けてやる」


 ……助けてくれる。助けを求めても、いいのか。……そうか。そう思えただけで、少しだけ楽になった。


「ありがとう……親父。それに兄貴も、他の皆さんも。鍛錬の邪魔をしてしまって、すみませんでした」


「……ははっ。気にすんなって! 良い話も聞けたし……お前がちょっとでも元気になったなら、それ以上はねえさ」


「浩輝たちも、絶対に君と話したいはずだ。身構えすぎずに、な」


 見守ってくれていたみんな、笑って頷いてくれる。兄貴の目がちょっと赤くなってたのは、気付かないフリをした。


「考えて、みる。……上手くやれるか、わからないけど」


「それでいいさ。……さ、今日はここらでお開きとしようか! 母さんが料理と一緒に待ってる頃だしな!」


 そう言えば、母さんに呼んできてって頼まれたからここに来たんだった。……たぶん母さんは、おれに見せたかったんだろう。みんなが頑張ってる姿を。

 色んな形で、おれのために何とかしようとしてくれてた。そこから目を背けることは……終わりにしたいって、思えた。まだ、自分の中にあるものへの嫌悪感が、消えてくれたわけじゃないけど。


 進まないと、いけない。確かめよう、ちゃんと。

 それが、どれだけ怖くても、みっともなくても。それより大事なものがあるって……思い出したから。








 ……そして。晩飯を食べて少し経った、午後8時。


「レン! みんなで遊び行くぜ! 今から!」


「…………………………え?」


 ――いや。さすがにそれは、心の準備ってものが……?





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