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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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もう一度、手を取るために

「おはよ、コウ」


 朝。迎えに来たコウは、ちょっとだけ驚いたみたいな顔をした。昨日、彼と別れた時には、正直へこんでたから……たぶん、どう慰めようかとか考えててくれたんだと思う。


「ちょっとは元気になったっぽいな?」


「うん。……心配かけてごめんね。けど、今は私が落ち込んでる場合じゃないからさ」


「……無理してねえよな?」


「大丈夫。ちゃんと、頑張りたいって思えてるからさ。そうしたいって思う通りにやってみるのが大事なこともある……でしょ?」


 私は、誰かに優しくするのが当たり前って、胸を張って言えるようになりたいと思っていた。だから、自分でもちょっと甘いなって思うくらいに、そうやろうとしてきた。どこまでできたかは分からないけど……少なくとも、ちゃんと届いたことはあったと思う。

 正直、不安はいっぱいだ。昨日の話だけで、吹っ切れたなんて言えない。だけど、考えないといけない向き先くらいは見えてきたから。


「……そっか。お前、何てっか……強くなったよな、ほんとに」


「それ、コウに言われるのは何か不覚だなぁ……」


「どういう意味だっつーの! ったくよぉ。……そんじゃ、行こうぜ」


 ……うん。まずは、私にとって一番大事なことを考えよう。4人揃って、ちゃんと話せるようになること。レンのこと……彼が私の何に怒ったのか。それを知って、今度こそちゃんと向き合いたい。







 ――でも、そんな意気込みとは裏腹。この日、レンは学校に来なかった。


「ま、無理してんのは分かってたからな……」


 話の内容が内容だから、休憩時間に誰もいない自習室に3人で集まった。

 カイの言う通り、家にいても辛いならって気晴らしを試した結果があれだったら、来なくなるのも当たり前なのかも 。


「……どうするよ。このままじゃ、何か余計にズルズルいきそうじゃねえか? 先生に頼んで、オレらも休んで見舞いに行くか?」


「つっても、な。レンが休むって決めたの、俺たちを避けてたのも理由だろ。勢いで押しかけたら、余計に追い詰めちまうかもしれねえ」


「……そう、だね。いま、慌ててこのまま行っても、どうにもできない気はする」


 本人がいないなら、ふたりと話し合うこともできる。こういう時こそ落ち着いて、みんなで考えるしかない。


「コウとカイは、どう思う? このまま、しばらくゆっくり休ませた方が良かったりするのかな……?」


「……俺たちは、このまま放っておいちゃいけねえとは思ってる。だってあいつ……一人にしたら、考えすぎてどんどん沈んでくやつだろ」


 一人で抱え込んで、ぐるぐると沈んじゃうところ……あの時のガルもそうだったね。考えてみたら、ガルとレンはけっこう似てるのかもしれない。真面目だからってのもあるだろうけど。


「そっとしといてやった方がいいのかなとか、昨日は色々あに……じゃなくって、カイと話したんだけどさ」


 学校だからか、言い直す。さすがに、カイとコウの関係はみんなに言ってない。いつかは、って二人は言ってたけど、それは全部終わらせてからにしたいって。


「考えてみりゃ、オレとカイの時だって、一人で考えてたら絶対に立ち直れなかったんだ。……一人にしたくねえよ。一人だと、思ってほしくねえ。オレらのせいでもあるし、なおさらな」


 大会のとき、私たちは一度みんな死にそうになった。それでも立ち直れたのは、みんなのこととか色々あったからだ。レンだってきっとそうで……今回は、もっと酷い目に遭ったのはもちろんだけど、私たちの誰も彼の支えになれなかったんだと思う。


「私も、そう思う。……考えよう、思い付くまで。このまま離れていくなんて、私は絶対に嫌だから」


「……おう。俺らだって、諦めるつもりはねえよ」


 まずは何をすればいいか。色々なことを考えなきゃいけないけど、ひとつひとつ片付けなきゃいけない。少なくとも、レンに元気になってもらいたいって気持ちは、みんな一緒だってのは分かる。

 この何日か、慰めたり話してみたりはした。けど、それで足りないなら、次はどうしよう?


 そうやって、話し込んでいたとき。もうひとり、部屋に入ってきた。


「3人とも、ここだったか」


「……上村先生」


 先生は帰ってきてから、みんなの前だと昔と同じようにしてる。けど、ずっと仲間として戦ってきた私たちには、先生もすごく疲れてるのは分かってた。


「時村のことか?」


「はい……。色々と話してはみたんですけど、やっぱり上手くいかなくて」


「そうか……。オレも話はしたんだがな。とにかく、誰かの言葉を受け止める余裕すらなさそうだった」


 レンと向き合おうとしてるのは、私たちだけじゃない。先生も、お父さん達も、レンの家族だってもちろん。それでも、今はまだレンには届かない。


「あんな目に遭わせて、手も上手く伸ばせない。……本当に不甲斐ない教師だな、オレは」


「……そんなことないっすよ! 先生がいてくれて、オレらはほんとに心強かったんすから!」


「そうですよ。俺たちはみんな、先生に感謝してます。あなたのおかげで生きているって言ってもいいんです」


「…………。すまん。オレが泣き言を言っている場合ではないな。ましてやお前たちの前で、など」


「いいんですよ。私たちは先生の生徒ですけど……赤牙としては、仲間ですから」


「……そうだな。支えるだけの関係ではない、か……」


 先生はひとつため息をこぼしてから、少しだけ力の戻った目で私たちを見た。


「お前たち自身も、色々と大変だったからな。言いに来たのは、抱えすぎるなという話だ。あいつに特に近いのはお前たちだろうが……他の者も無関係ではないんだ。オレだってな」


「……はい。ありがとうございます、先生」


「やれるだけやってみるっす。何か手伝ってほしいときは声かけるっすよ!」


 私たちだけの問題じゃない。言われるまで私は、3人でどうにかしないとって考えかけてたのに気付いた。そうじゃないんだ。私たちだけで、行き詰まってるなら――。


「む……すまん、着信だ。少し出る……ん?」


 ――そうしてこの日、私たちは知った。ううん、思い出した。とても大切で……当たり前なことを。

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