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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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拭えない迷い

 エルリアに俺たちが帰ってきてから何日か経った。3日目の、レンにとっては2日目の学校が終わった帰り。



「……あー、うー……」


 今日、俺はコウの家に邪魔させてもらってる。……ちょっと俺らだけで話したかったから、二人きり。

 んで、部屋に入ったはいいものの、コウのやつは途端にへにょりと座って、何かヘンな呻きを上げ始めた。


「脳みそ足りなさすぎてついにヒトの言葉忘れちまったか……」


「ざけんなっつーの青トカゲ!」


 俺たちはお互いに過去を受け入れたわけだけど、けっきょく関係はそんなに変わっていない。ま、これが何だかんだでちょうどいいしな。どんな振る舞いだろうと、俺らが兄弟なことは同じだ。

 ……今はちょっと打算もある。俺らまで暗くなったら、もうどうしようもなくなっちまいそうだし。


「なんてっかこう……とにかくモヤモヤすんだよ! 分かんだろ!」


「まあ、そりゃな。その相談しに来たんだしよ」


 俺らだってこの何日か、何もしなかったわけじゃない。だけど今のところは、見事なまでに空回りだ。

 学校にレンが来た初日、あいつが闘技前にぶっ倒れて……それから余計に元気が無くなって。話してきたルナまで、かなりへこんじまってて。今日は手分けして、それぞれとちょっと話をしようとしたんだけど。


「レンのやつ、やっぱすげえ距離置いてきてるよな……」


「……そうだな。それであいつが落ち着くなら、しばらくはそれも有りなんだろうけどよ」


「……そう思うかよ、兄貴は?」


「思わねえから悩んでる」


「だよなあ……」


 一応、学校生活は何とかやっているけど。俺たちからは、さりげなく距離を離そうとしてきている。気付いてはいるけど、無理に踏み込むのはまだ早いと思って、しっかりとは話せないままだ。

 ……いや、違うか。やっぱ俺もコウも怖いんだ。次に間違えたら、完全に壊れてしまう気がして。そりゃ、前は踏み込めなかったせいでああなった。けど、だから次は踏み込めばいい、なんて単純になるわけがねえだろ。


 戦いで殺されかけたトラウマ。俺と同じとは言わねえけど、理解はできるつもりだ。時間と記憶も戻ったし余計にな。あんなもん味わったばっかで、まともに何かを考えられるわけがねえ。

 俺の場合は、コウや暁斗、慧にルナ、親父たちがいたから耐えられた。でも、あいつは元から傷付いて限界だったところに、あんな目に遭った。……考えれば考えるほど、あいつの苦しさがどんだけかってのが分かって、その原因のひとつな自分がすげえ嫌になる。言ってる暇ないのは分かってるけどよ。


 ……ぶっちゃけ、色々なことが嫌な重なり方をしすぎちまってると思う。

 大喧嘩して、まともに話もしてなかったこと。死にかけて心がボロボロなこと。何と言うか……どっちの話題を出すにも「そんな場合か」ってなっちまうっていうか。

 それで、ずっとギクシャクしてる。今のレンを放っておきたくはないけど、じゃあどうすればいいのかって。

 一緒に悩んでいくのが友達。今回もそうだって分かってはいるんだけどよ。さすがに考え無しで突っ込むのは違うだろ。だから、コウと話して整理したかったんだ。


「ルナの方はどうだった?」


「……レンにいろいろ言われたってよ。ガルを一番に選んだのも当然とかどうって……でも、ルナはやっぱ意味分かってねえみたいでさ」


「……ああ。ま、そうだろうとは思ったけどよ」


「あああぁもうあの鈍感! 今回ばっかはさすがに説明できっかよぉ! てか、さすがにちょっとは気付いてやれよぉ……!」


 レンの恋心。それを俺たちが言ったりしたら、それこそ全部が最悪で終わりそうだ。ものすごく惨めになるだろうことは、簡単に想像できる。

 だけど、このままだと彼女はレンが何に傷付いているか、その一因を知ることができない。本当に、難儀だ。


「改めて、何も上手く行ってねえな……」


「ぐぅ……けど、どうすりゃいいんだよ? オレらの問題だけならまだいいけど、戦いがイヤってのはオレもそうだし……」


「それは俺もそうだけどな。……そもそも、俺たちも考えなきゃいけねえんだよな、戻るかってこと」


「…………。カイ兄には聞いとこうと思ってたけどさ。戻る気か?」


 躊躇いがちに聞かれた。……すぐに答えようとして、だけどほとんど無意識に、言葉が詰まった。一呼吸だけ置く。


「……そうだな。あのクソ野郎を放っておくつもりもねえし、それ以外にも許せねえことはたくさんあるし。戦い続けるつもりだよ、今はな」


 いま言ってることに嘘はねえ。けど、やっぱ即答できねえくらいには、俺だってショックを受けてて。即答できねえってことは、()()なんて逃げ道を用意してるのは、どっかに迷いがあるってことで。

 戦いに関わってから初めて、身近な人が……ロウさんが、死んだ。あんなに強かった人が、殺された。それをやったのがリュートの野郎ってことが余計に……はらわたが燃え上がりそうな怒りと、そんな相手に勝てんのかって恐れ。

 ああ、俺はどっかであいつにびびってる。それは認めるしかねえよ。俺自身だって2回も殺されかけてるしな。


「お前は……いや、お前も、迷ってんだろ? 聞いてくるってことはな」


「……お前には正直に言っとくけど、そりゃそうだよ。昇華した時は、何だってやれるくらいの気分だったけど……あれよりもっとひでぇ戦いとか、さ。やっぱ……怖えよ」


 ここで迷わないって言える方が、どうかしてるか分かってないかだろう。それに……俺の中には、コウ達には安全なところにいてほしいって考えだってある。


「……今は冗談抜きで言っとくけどな、コウ。怖えなら、それでいいんだぜ。俺がどっちを選ぼうが、お前は別を選んだって構わねえんだ」


「分かってるよ。分かってる、けど……戦いたくねえのはもちろんなんだけど、オレもあいつらは許せねえし……いろいろ放っときたくねえし……兄貴と一緒にあいつらをぶっ飛ばしてえ、ってのも思ってて……」


 戦いたくない。逃げたくない。戦わないでほしい。一緒に戦ってほしい。……俺は、全部思ってる。たぶんコウも、そうなんだろう。だから迷っているんだ。

 ……一緒に戦ってくれねえかって、みんなと一緒なら怖くねえって、そう口に出せたら楽なんだろうか。いま、この怖さが消えてくれねえのは、みんな一緒でいられるか分からないってのもあるから。


「……あー、くそ! マジでスッキリしねえ!!」


 頭をがしがし掻きながら、コウは大声を上げた。正直、俺も叫びたい気持ちは分かる。ずっと、モヤモヤしっぱなしだ。

 ……考える時間は、あと1週間と少し。このままじゃいけねえけど……本当に、どうすりゃいいんだろうな。


 駄目だ。こんな煮詰まった時に考えたって、大抵はロクなことにならねえ。せっかくだ、ちょっと気分転換してえけど。


「そういや、慧のやつは?」


「慧兄なら……なんか帰りが遅いんだよな。親父たちは何か知ってるっぽいけど、オレにはプライベートだから心配するなとしか言わなくてよ」


「……お前に隠してんのか? 何か珍しいな、あいつにしては」


 慧は、浩輝がこの家に来てから、こいつの兄貴としてよく面倒を見てくれていた。もちろん俺の代わりなんてもんじゃねえ、本当の兄貴として。俺がコウの兄貴に戻っても、慧との関係はそのまま変わらねえだろう。

 それは別として、あいつは真面目で隠し事とか理由がないならほとんどしないタイプだ。そんなあいつが、わざわざ言葉を濁すってことは、何か理由があるってことか?


「しかも、大体なんかヘトヘトなんだけど、悪い感じはしねえんだよな……気にはなるけど、ヘンに聞くのはどうかなって思ってよ」


「ま、おじさん達が知ってるなら変なことじゃねえだろうけど……」


 隠してるのは気になる。俺たちの知らないところで、何かやっているのか? ……考えてみたら、自分たちのことで手一杯で、いなかった間にエルリアがどんな感じだったかをちゃんと聞いてなかったかもな。少し、調べてみてもいいかもしれねえな。



 けっきょく、この日はあまりいい答えも出ず、解散になった。コウと俺の意見が似てるのを確認できただけ、良しとすべきか。

 ……正直、ただ考えるのは限界だろう。何か、見方を変えなきゃいけねえ。でも、その何かが、まだ俺には何も見えてこなかった。




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