表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
403/429

認められぬもの

「悪いな、ギリギリになってさ」


「ううん。なんかすごいことになったみたいだね?」


 爺ちゃんのことはさっき話した。待ち合わせには何とか間に合ったけど、本当に色んな意味で焦ったよな、今日は。


「あたしも後で挨拶に行くつもりだけど、マスターのお父さんかあ。少し緊張しちゃうかも」


「はは、優しい爺ちゃんだからそんな身構えなくていいぜ。マスターの親だよなぁってのが、すごく良く分かるっていうか」


 俺の場合はヴァン父さんのことも知ってるからなおさら。向こうにいた時にはたまに会うくらいではあったけど、婆ちゃんと一緒にすごい可愛がってくれてさ。

 ……もちろん、爺ちゃんの立場については知っている。優しいだけの人じゃないってことも。だけど俺にとっては、俺やノアを大事にしてくれる、ただの爺ちゃんだ。


「ま、紹介は後でするよ。今日はよろしくな?」


 今はみんな、色々と考えてる時期だ。だけど、正直あまり頭は働かなかった。戦いから離れて見つめ直すって言っても……すぐ、エルリアのみんなの事とかに意識が行く。今はきっと、自分自身について考えないといけないのに。

 一人でウダウダして、進展がなくて……そんな時に、気分転換にゆっくり街を見ようって彼女に誘われたのが、今日の約束だ。


 ……でも、これってさ。デートみたいな……もんだよな。

 って、なに考えてんだよ。俺自身が、保留してる立場だってのに。


「それじゃあ、今日はしっかりデートしようか?」


「んえっ!?」


 変な声が出た。そう意識したタイミングだったのもあるけど……真面目な彼女から、そんな言葉が出てくるなんてのも。


「良い反応だね?」


「い……いや、その。俺、そのへんは、こう……待たせてるから、何て言うか……」


「ただ待つだけとも言ってないよ。少しつっつかれるくらいは覚悟してもらわないとね」


「うぐぅ」


 何も言えねえ! ……イリアってもしかして、意外とSっ気ある?


「ふふ、ごめん。焦らせるつもりはないんだけどね? だけど、それを気にして変に身構えてほしくないんだ」


「……ん。そうだな、悪い」


 確かにそうだ。保留してるからそういうの考えたら悪いなとか、ぎくしゃくするのは変な話だろう。ただでさえ最近の俺は、色々と考え込みすぎてる自覚はあるし。

 ……なんかリードされてるな、って思うと、男としてちょっとどうかって気にはなるんだけど! ガルに人のこと言ってる場合じゃなかったな、本当に……。


「じゃ、とりあえず中心街の方に行こうぜ。イリアは何か見たいものとかあるか?」


「そうだね……ちょっと服を見たいかな。付き合ってくれる?」


「もちろん。あ、じゃあその後さ、俺は靴を……」


 こうして俺たちは、本当に適当に街を巡り始めた。

 別にあてがあるわけじゃない。ただ、何も考えずにこのカルディアの街を、当たり前の平凡な日常ってやつを過ごす。たまには、そんなのも悪くないだろう。……エルリアにいた時には、よくやってたな。


 エルリア、か。俺は戻らずにここに残った。それ自体は、後悔はしてない。みんなの側にいられない事は辛いけど。

 ……なんだろうな。今はどうしてか、あの頃の事がいやに懐かしく思えた。







 そうやって、しばらく遊んで……落ち着ける喫茶店で、ゆっくり話すことになった。

 気分転換と言っても、やっぱりその話題に触れないこともできなくて。


「じゃあ、やっぱり蓮くんは……あまり良くない状態なんだね」


「ああ。瑠奈のやつもだいぶ悩んでるみたいだし……カイと浩輝も、今回ばっかはどうすりゃいいか上手くやれねえってさ」


 みんなとは毎日、電話で話はしている。蓮とはあんまり直接は話せてないから、みんなから話を聞いていた。

 学校に行って、普通にやろうとはしているらしいけど。やっぱり、色々とうまく行ってないって。当然だよな。あんな目に遭って、そんな簡単に戻れるわけがない。

 力になれないのがもどかしい。けど、きっと俺がその場に行ったとしても、解決にはならないんだろう。……情けない話だけど、俺も今のあいつに何って言ってやったらいいか、分からない。


「……戦いから遠ざかってくれるのは、安心するところもあるけど。こんな終わり方じゃ、あいつはずっと傷を引きずるよな……」


「そうだね……蓮くんは、真面目だから」


「真面目すぎたんだよ、たぶんな。……心を支えるものが無くなって、そんな時に死にかけて。折れるなって言うほうが、無理だよな」


 どれだけ後悔しても足りない。俺はもっと早く、それに気付いてやれたはずなのに。……正直、最近は自分のことで手一杯になってた。先輩としても友達としても情けない。

 瑠奈とのことも、もっと上手くフォローする方法はあったはずだ。ガルとの関係がはっきりした後もだけど、その前だって……あいつの気持ちはずっと知ってたのに、これは本人たちの問題だから、なんてさ。


「後悔したってしょうがねえ。分かってるけど、じゃあどうすればいいのか……難しいよ、本当に」


「……うん。あたしも、力になりたいけど……」


 言葉での慰めは、やれるだけやったつもりだ。でも、現状は良くならなかった。きっと、時間も必要なんだろうけど……だからと言って、それが全て解決してくれるとも思えない。そもそも、時間に任せすぎたからこうなったんだし。

 ……瑠奈とカイ達も悩み過ぎなきゃいいけどな。あいつ達の方が、もっと当事者だと思ってるだろうし。


 正直、この話については、ここで考えすぎても堂々巡りになるだろう。ちゃんと様子を見ながら、話をしていくしかない。今度は、ちゃんと向き合ってやらないと、な。


「ふう。本当に、色々と上手くいかないもんだよな。今は、自分のこれからも考えなきゃいけないのにさ」


「戦うかどうか、の話だよね。暁斗は……どうするつもりなの?」


「……俺は戦い続けるつもりだよ。色々と、考えたけどな」


 テルムで瑠奈と話したり、戻ってきてからガルと話したり……他のみんなとも、軽くは意見を交換したりしたけど。やっぱり、俺の中にある気持ちは変わらない。


「もちろん怖いし、できるなら戦いたくない。みんなにだって、戦ってほしくないのが本音だ。だけど……それ以上に、認めたくないってのが、いちばん大きくてさ」


「認めたくない?」


「……あんな奴らが好き勝手することを。そのせいで、傷付かなくていい奴らが傷付くことを。……自分に何もできないまま、逃げることを」


 理由になるものは、いくつかあるけど。けっきょく、それをまとめると、認めたくないって感情がはじまりだった。


「多分、リグバルドだけじゃなくて……聖女の信者みたいな理不尽、傲慢な奴ら。そういうのがあるって、はっきり知ってしまったから。俺、思うんだ。それを一つでも減らしたいって……そういうのがまかり通るの、許したくないって」


 フィオ達のこと、すごく悔しかった。正しいと思ったことを、主張すらできなかった。もう、あんな思いはしたくない……だけど、リグバルドの好きにさせてたら、ああいうことがいくつも起きるのは間違いない。

 あの、ロディってやつに……狂犬。明るくて優しかったおじさんとおばさんを殺して、カイと浩輝をずっと苦しめてた奴ら。ロウさんを、たくさんの人を殺した奴ら。あんな奴らが、今でも好き勝手している。

 ……認めてたまるか。俺に、ひとつでもやれることがあるなら……俺のこの手で、何かを少しでも良くできるのなら。俺は、戦いたい。


「そもそも、俺はもうあいつらのこと知っちまったしな。戦わなくたって、また巻き込まれる可能性もあるって分かってる。そんなのに怯えながら待ってるだけなんて、ごめんだ」


「……暁斗」


「……何もかっこつけずに言うとさ、めちゃくちゃ腹が立っているんだ。殴られたまま逃げるなんて、殴ってきた相手の思い通りになるなんて、嫌だろ?」


 俺の言葉に、イリアは少しだけ目線を落とした。言葉にしてみると、やっぱりこの気持ちは少し黒いのかもしれない。だって、怖いのを押しのけるくらいに怒ってるってことだ、俺は。


「心配しないでくれ。それだけを理由にしたりなんかしないからさ」


「……ううん。あたしだって、腹が立っているのは同じだよ。君ならそういうの間違えないって思うし……もし間違えてもみんなが、あたしが気付かせてあげるから」


「そうか……ありがとう」


 何かを間違えても引っ張り上げられる人がいるってのは、本当に心強いものだって、俺もよく知っている。一度みんな信じられなくなって逃げたこと、すごく後悔しているからな。

 ……今にもエルリアに戻れてはいないし、全部割り切れてなんかいないけど……思われている事は、もう疑ってなんかいないんだ。いつか帰りたいって、その気持ちはちゃんとある。あるから、この心のモヤモヤを晴らして会いたいんだ。


「それじゃ、イリアも残るのか?」


「うん。あたしも、放ってなんかおけないよ。アガルトも、テルムも……たくさんの人が巻き込まれて、踏みにじられた。このままになんて、しておけない」


 そうだろう。彼女は、そういうのを許しておける人じゃない。初めて会った時からそうだったから、よく知っている。


「それに、暁斗たちも戦うなら、あたしはそれを守りたいんだ。……白状すると、君が戦うって聞いて、本音はちょっとだけ怖い。でも、それ以上に、心強いって思ったんだ」


「……イリア」


「これでもあたしは君のこと、本当に信頼しているんだよ? ……みんなが戦うことが怖いなら、そのぶんはあたしが守ればいいって決めたんだ。あたしには、そのための力があるんだからね」


 イリアのが大人で、経験豊富で、きっと今の俺より強い。だけど、いま彼女が戦うって聞いて、そうだろうなって納得の裏に、ちくりと刺すような怖さがあった。同時に、良かったって安堵もした。……これと同じ気持ちを、俺に持ってくれたんだろうか。

 誰だって、大切な誰かに戦ってほしくなんてないだろう。それでも、大切だからこそ信頼もしていて、心強い。

 瑠奈たちも同じだ。戦ってほしくない気持ちはやっぱりあるけど、あいつらとなら一緒に戦えるとも思う。だから……俺にできるのは。


「じゃあ、そのぶん俺もイリアを守るよ。守れるように、もっと強くなる。……仲間だから、な?」


「……うん。ありがとう、暁斗」


 みんなと対等に、戦っていく。そのために、努力を続ける。新しい力に目覚めたカイや浩輝のように……強くなりたい。

 ……そうだ。俺は、立ち止まっている場合じゃない。ひとつずつでも、前に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ