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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
8章 もう一度、自らの足で
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ウェアルドとルーフ

「しかし、事情は承知だが、お前が会いに来ないのも悪いんだぞ? 私も母さんも若くないんだ。もっと早くに戻ってきてくれると思っていたのだが」


「う……。それは、本当に悪かった。近々、一度帰るつもりではあったんだが……支度をしているうちに、テルムの件が起きてしまったからな」


 一度帰るつもりだった、か。ウェアがギルドを開いた当初の理由は、俺を捜すためだったらしいが……それを達した以上、区切りではあったか。もちろん、今は俺のことだけではないだろうがな。


「しかし、父上……本当に大丈夫なのか? その、色々な意味で……だが」


 かなり言葉を濁している。ウィンダリア出身だということはテルムの件で分かったが……それ以上は、未だに隠しているからな、彼は。

 ルーフさん――今はそう呼ぶことにする――の側は、ウェアが聞きたいことはおおよそ想定できているのだろう、喉の奥で笑うだけだ。傍目に機嫌が良さそうなのは、息子や孫との久々の再会だからだろう。――俺のことも気付いていそうだ。


「最近はヴァンが諸々を引き継いでくれている。私が少し空けたからと問題にはならないさ。必要な根回しはしてきたしな」


「だからと言ってだな……そもそも、一人でこんな不用心に国外に出るなどと」


「母さんと二人で遊びに来た方が良かったか? お前の働きぶりを見たいと言っていたぞ」


「……勘弁してくれ……いや、母上には会いたいが、来られるのは俺の胃が保たない……」


「私としては、是非ともマスターが仕事漬けになる様子を見て、奥方様に注意していただきたい所ですがねぇ」


「頼むから、余計なことを、言うな!!」


 せわしなく尾と耳が動いており、視線も落ち着かない。こんな彼を見るのは初めてかもしれないな……リカルドとの時でもここまで乱れてはいなかった。


「こほん! 俺は真面目に言っているんだ、父上。こう……変装もなし、護衛もなし。さすがに不用心すぎないか?」


「立場とは服に紐付くとも言う。ましてや国外だ。こんな老人に注目する者など、誰もいないさ」


「……てか変装とか護衛って。なに、マスターの親父さん、そんな有名人なのかよ?」


「…………それは、まあ、その。何しろ英雄の親で、今はヴァンもあの立場であるから……だな?」


「いや、ヴァンって人の説明もされてねえんだけど……軍のお偉いさんっぽいことくらいは分かったけどさ」


 ……しどろもどろだな。ウェアの説明だけなら、もう少し堂々としてもいいはずだ。つまり、何か隠していることはほぼ確実。それを取り繕えない程度に動転しているのは間違いない。


「分かってはいたが、家のことはあまり説明していないんだな?」


「う……」


「まあ、息子が秘密にすることを暴くほど薄情な親でもない。その辺りは、ウェアルド本人が話すまで待ってもらえるか?」


「……そっすね。何かそろそろボロ出しそうだし」


「うぐ……さ、さすがに父上が来るのは焦るに決まっているだろう……」


 ふと、ウェアの視線を追うと、暁斗が少しだけ複雑そうな表情をしていることに気付く。

 ウェアの隠し事……彼の家のこと。それは暁斗にも繋がるはずだ。そして、彼も以前に、その辺りを濁していた。

 あまり知られたくはない……というところか。……自分探しをしている最中の暁斗は、その立場そのものをうまく消化できていないのかもしれない。俺の予想が正しければ、だが。

 なるほどな。こうも隠しているのは、暁斗のことも理由のひとつか。


「お前が気にしているのはリグバルドの動向だろうがな。それこそ、連中が仮に私を狙おうとしてくるならば、護衛がいたところで大差はない。空間転移などという無法があれば尚更、国にいても、私ひとりになるタイミングなどいくらでもある」


「それは……そうだがな」


「油断をしているわけではない、心配するな。危険を承知で、やるべきこともあるだろうしな。息子ふたりが戦っているのならば、尚更だ」


 今まで少し冗談めかしていたルーフさんだが、その言葉にウェアも目を細める。やるべきこと……か。やはり、ここを訪れた理由は、ただ息子に会いに来たというだけではなさそうだ。

 ウェアはしばらくして、深々と息を吐き出した。少し落ち着いたように見える。


「……ふう、分かったよ。どの道、今さらグダグダ言ったところでどうにもならん。父上を狙う相手がいたとて、大抵は返り討ちだろうしな」


「鍛えられているのは分かるけれど、やはり強い?」


「ああ。俺たち兄弟の剣の師でもあるからな」


「マスターの師匠って、そりゃとんでもなさそうだな……!」


「ははは。期待を裏切るようで悪いが、英雄と呼ばれた頃には、息子たちはすでに私を抜いていた。寄る年波にも勝てんしな?」


 ルーフさんは闊達に笑っている。どこまでが謙遜かは分からないが……少なくとも、俺はこの場で彼に一太刀浴びせろと言われても、困難だろうな。平穏に会話しながらも、隙がない。


「それで……だ。まさか本当に、俺を驚かせるために黙って来たわけじゃないんだろう、父上?」


「そうだな。積もる話は色々とあるが……」


 そう前置いてから、ルーフさんは時計を指差した。時刻は正午を少し過ぎている。


「昼食をとっていないのは本当でな。久々に腕を見せてもらってもいいか、ウェア?」











 そうして。昼食を準備しているうちに、美久もフィオも戻ってきて……ルーフさんを囲んだ食卓は、いつもとまた違う不思議な賑やかさがあった。威厳がありつつ人当たりの良い彼は、すぐに俺たちと打ち解けた。

 アトラ達は興味深げに色々とウェアのことを尋ね、それを聞くウェアはずっと横でそわそわとしていた。当たり前だが、この人にも年長者としてではない顔をすることがあるんだな。


 自然と、ルーフさんはしばらく赤牙に滞在することになった。彼がここに来た理由はまだ不明だが、その兼ね合いもあるのだろう。

 食事の場は、本当に談笑だけで終わった。そうして、ウェアとルーフさん、それから暁斗だけで部屋に戻り……さすがに今回はアトラ達も盗み聞きなどとは言い出さず、俺とジン以外は昼過ぎには外出していった。

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