――前へと、進めぬ者
目を開いた時、妙に眩しく感じた。
「……あ……れ……」
何もかもが、重い。目の前はぐらぐら揺れてて気持ち悪い。身体に力が入らない。頭も上手く回らない。
どこだ、ここ。……ベッドの上? どうして、おれは……眠って? なにを、してたん、だっけ……?
「おれ……は……?」
「蓮……!!」
声をかけられて、やっと周りに人がいるのに気付いた。
コニィ……コウ、カイ、ルナ。暁斗。先生。……ガル……他の、みんなも。
それだけじゃ、なくて。おれに、よく似た……人も……。
「お、や……じ……?」
「良かった……! 目を、覚ましてくれて……俺は……!」
……寝た、きり。目を、覚ました?
ああ、そう……そう、だった。親父たちは、砦の救援に、来るんだった。……砦。砦の、戦い。
そうだ、おれは、あの時に……死に、かけ、
「……うっ」
胸の痛みを、思い出した。
あのリスの笑い声が、耳の中に響く。どこまでも、楽しそうな声が。そのまま、おれの胸を……打ち抜いて。
震えが止まらない。冷や汗が流れる、腹の中は空っぽなのに、吐きそうだ。
心臓の辺りが、痛くないはずなのに痛くて、あの時の死にかけた自分が溶けて無くなりそうな冷たい感覚が湧き上がって苦しい寒い痛い息が吸えない嫌だどうして誰か助けて――
「蓮!!」
――思考が固まる。力強く、おれを包むものがある。……親父の、腕。
「大丈夫……大丈夫だ、蓮。ここには怖いものはない。父さんがここにいる。何からでも、守ってやる」
声が出ない。泣きそうな親父の言葉も、半分くらいしか、頭に届かない。
ただ、何よりも安心できるその腕の感触だけは、分かって。
もう。何も、我慢できなかった。
「もう……やだ……ぜんぶ……やだ……!」
全部、全部、ぐちゃぐちゃだった。とにかくもう嫌だって、それで一杯になる。
あと少しで、死んでた。いま、目を開いたのが、無かったかもしれない。そんなの……震えが、止まらない。
……それに。おれは、あいつの誘いに、迷った。迷って、しまった。
最後に、跳ね除けたって。おれは間違いなく、自分の命と、みんなの命を、比較して……しまった。
死ぬ怖さを知った今、もし同じ質問をされたら? ……自信が、ない。おれは、そんなことを考えられるんだって、分かってしまった。
怖い、怖いよ。何もかもが……もう。
「おれ……お、れ……もう、たたかい、たく、ないよぉ……!!」
少年の悲痛な叫びに、今はただ、皆が見守るしかできず。
誰もが簡単に、前へと踏み出せはしないのだと、思い知るように。