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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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ライバルタッグ

「コウ、無理だけはすんじゃねえぞ」


「……自分はさんざん無茶しやがったくせに」


 オレとカイは、牛鬼と戦う。カイ達のおかげでかなりダメージを受けてはいるみたいだけど、総合力では三体の中で最も厄介な相手だって言われてる。


 ……正直、めちゃくちゃ怖え。逃げ出してえ。いざ戦うと思うと……体の震えが止まらなくなってきた。

 ルナの能力で、オレの武器は殺傷力を持った。けど、あいつが貫通の力を込めた弾の数には限度がある。銃弾は無駄遣いできない。


 つまり、メインは接近戦。攻撃するには、あれに近付かなきゃいけねえ。そして……一発でも当たったら、死ぬ。


「……武者震いだっつーの」


 自分にそう言い聞かせて、銃剣を構えた。カイはオレ達のために命をはった。オレだって、やれる……!



 ――牛の化け物が、けたたましいまでの咆哮を上げた。


「……っ!!」


 一気に接近してきたミノタウロスの拳が、オレ目掛けて振り下ろされる。その一撃を、オレはギリギリのところでかわした。


「こん……にゃろうッ!」


 狂いそうなほどの恐怖を何とか抑え、奴の腕に刃を叩き付ける。――肉が裂ける感覚が気色悪い。飛び散る血の臭いと化け物の絶叫に、吐きそうになる。これが命懸けの戦いだってのを、イヤでも実感しちまった。


「おらおらおらぁッ!!」


 攻撃したオレまで動きが止まっちまったが、その隙をカイがごまかしてくれた。あいつの懐に潜り込むと、その腹に思い切り打撃を加えていく。攻めに転じたカイの攻撃の勢いは、さっきの比じゃない。

 カイの拳が牛鬼の身体にめり込む度、奴は苦鳴をもらして、少しずつ後ろに下がっていく。確実に、効いてる。


 けど、奴もやられるだけじゃない。受けた分を返すかのように、怒号と共にカイに腕を振り下ろす。


「おっと!」


 カイはしっかりとその一撃を回避し、オレの横まで下がってくる。


「ワンパターンだな。いい加減見飽きたぜ」


 余裕を見せるように、カイはにやりと笑う。……さっきのダメージだって残ってるだろ、お前。なんでこいつは、こんな状況で笑えるんだ?


「コウ、震えてんぞ。びびってんのか?」


「し、しょうがねえだろ! お前だってさっきは……」


「まあな。けど、お前がいるなら不安はねえ」


「え……」


 考えてもなかった言葉に、オレは思わず間抜けな返事をした。


「お前の実力は、俺が一番よく知っているからよ。だから俺は、お前がいりゃ大丈夫だって思ってるだけだ。お前は、俺の力が信頼できねえか?」


「…………!」


 場違いなほど軽く言われた言葉は、だけどオレにはすごく重く響いた。


 カイの力が信頼できねえかって? そんなもん……考えるまでもねえ。

 オレは誰よりも、こいつの強さを信頼してる。こいつはオレのライバルで、同時に……一番の目標なんだから。


 ……ああ。そうだ、そうだったな。オレの横にはいま、一番頼もしいやつがいる。

 こいつとオレが組んでるのに、何をビビる必要があるんだ? オレ達が揃えば……怖いものなんかねえ。あんな牛程度に、負けるはずがねえ!


「やれっか、コウ?」


「……へへ。当たり前だっつーの!」


 無理矢理にでも笑ってみると、怖さが和らいでいく。オレはやれる……信じろ。自分を、カイを。信じてしまえば、怖くなんかねえ。こいつと一緒なら、オレは何にだって負けねえ!

 オレの決意が固まるのとほぼ同時に、牛鬼がダメージから立ち直り、雄叫びを上げながら突っ込んできた。


「来るぜ、コウ!」


「ああ!」


 カイのラッシュのダメージは決して少なくないはずだが、奴の攻撃の手は緩まない。さすがUDBのタフネスってか……!


「奴のスタミナは半端じゃねえが、無限って訳でもねえ!」


「分かってる! 少しずつ切り崩していくぜ!」


 今度は焦らず、落ち着いて奴の突進を避けられた。脚を撃ってやると、奴は痛みと怒りに吠えた。


 奴の攻撃は、力強いけど直線的。ちゃんと見てりゃ、避けるのは難しくねえ。

 攻撃を回避しながら、距離を見て剣と射撃を使い分けて、少しずつ傷を増やした。カイもオレに合わせて、拳や脚を叩き込んでいく。


 オレらは、何度も何度も試合してきたんだ。互いのクセは知り尽くしている。カイの行動は全くオレを邪魔しないし、オレもごく自然にカイの動きに合わせる事ができた。


 けど、奴もなかなか倒れない。ダメージを受ければ受けるほど奴は怒り狂い、暴れまわる。


「ちっ、この暴れ牛が!」


 長期戦になれば、体力の関係でこっちが不利になんだろう。こりゃ、一気に決めるしか……。


「コウ! そろそろ攻めるぜ!」


 ……ホント、こいつとのコンビは、やりやすくて良いぜ!


 オレはカイに笑顔を返し、自分の力を発動させる。……生物にはロクに使えねえオレの能力だが、例外がある。それは、オレ自身だ。


「一気に行くぜ!」


 オレは地面を全力で蹴った。オレが発動させた効果は、時間加速。文字通り、オレに流れる時間を加速して、違う時間枠での行動ができるようになる。今のオレにできるのは、だいたい二倍が限界だ。だけどよ……。


 一秒の間に、オレだけが二秒分動ける。それがどんだけのアドバンテージか、しっかり喰らいやがれ、この牛野郎!


「うおおおぉッ!!」


 オレからするとスローモーションになった世界で、銃剣を容赦なく振るう。脚を切り裂き、脇腹を抉り、腹に弾丸を叩き込んでいく。


 奴は苦痛に叫びつつ反撃してくるけど、何しろスローだ。避けるのは苦にならねえ。

 ……けど、この力は強力な反面、反動もデカい。長く続けると、オレの身体が保たねえ。十分にダメージを与えてから安全圏に下がり、力を解除した。


「ボディが……」


 間髪入れず、カイが飛び上がり、怯んだ奴の懐に潜り込んだ。


「がら空きだぜぇッ!!」


 気迫の込められた跳び蹴り。それは爆炎を纏いつつ、奴の鳩尾に直撃する。

 完璧すぎるほどの急所への一撃……こんだけの体格差があっても、カイの強化された一発は、あいつの分厚い皮膚と筋肉の奥、内臓までしっかり届いたみたいだ。身体を折り曲げた牛鬼は、胃の中身を思い切り吐いた。

 ふらつきながら、牛鬼は後ろに下がる。先の戦闘からのダメージが積み重なっているようで、呼吸も喘ぐようなものに変わっていた。間違いなく、弱ってる。


「決め時だな……コウ、一気にやるぜ!」


「おう。オレ達のコンビネーション、見せてやろうぜ!」


 リロードしつつ、二人で牛鬼を挟み込む。オレが後ろに、カイが正面に。


「俺が合わせてやるから、有り難く思えよ」


「うるせえっつーの。お前こそミスるんじゃねえぞ!」


 本当は、そんな心配はしてない。カイなら間違いなくオレに合わせてくれる。弱った牛鬼とオレ達は、お互いに出方を伺い、じりじりと距離を微調整していく。見極めるんだ。確実に全力をぶつけられるタイミングを……!



 そして、しびれを切らしたのか、奴がカイに向かって突っ込んだ……今だ!

 オレは手加減無しでトリガーを引いた。奴の動きが止まる。カイはにやりと笑って、奴に突撃する。


「吹っ飛べ!」


 両手で奴の腹部に裳底を叩き込むと、そのまま爆炎を放つ。爆発の衝撃でよろめき、奴は後ろに下がる。


「まだだぜ!」


 その背中に、オレは渾身の力で突っ込み、銃剣を突き刺した。奴が今までに無いような、甲高い悲鳴を上げる。


 さあ……仕上げだ!


「飛ばして……」


「いくぜぇッ!!」


 オレは背中に刃を突き刺したまま、トリガーを引きまくる。

 そして、奴の腹部には、カイが渾身のラッシュを仕掛けていった。


 前後からの連撃。さすがの牛鬼もこれにはなすすべが無い。逃げることも反撃もできず、されるがままに攻撃を浴び続ける巨獣。そして……。


『……ア……グ、ゥ……』


 口から胃液と血の混じったものを吐き出すと、巨獣はそんなか細い断末魔を上げ……地響きを立てて、リングに沈んだ。


「あ……」


 完全に目を剥いている。ピクリとも動かない。起き上がる気配は、全く無い。


「……は、は」


 しばらく呆然としてから、やっと頭が回ってくる……勝った。オレ達、勝ったんだ。


「やった……はは、やったぜ!」


 正直言って、無理やり怖いのをごまかしてた。それを塗り替えてくのは、沸々と湧き上がる喜び。オレ達は、魔獣を倒した。まだ、生きてる……!


「言ったろ? 楽勝だってな……ふう」


 だけどそんな中、余裕ぶった笑顔を浮かべてたカイの表情が引きつる。彼はそのまま、膝をついてうずくまった。


「お、おい。カイ!?」


「はは……わりぃ。正直、いろいろ、限界だ……少しだけ、こうさせてくれ」


 ……この馬鹿。やっぱり無理してやがったのか。てか、身体もまだ震えてやがる。

 余裕ぶってたのは、怖いのをごまかすためか。だけど、そのおかげでオレも何とかやれた。……いつもオレは、色んな形でこいつに支えられてるんだな。


 って、一息つくのはまだ早え。今の今まで、牛鬼のことでいっぱいだったけど……みんなはどうなった、と思い立ち、オレは周囲を見渡した。




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