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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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たとえ全てが灰燼に帰しても

 ――ガルフレア達が聖女との戦いを繰り広げていたのと、ほぼ同時刻。





 二人の周りには、巨大な昆虫の骸が、5体。撃破するたびに追加されていた怪物たちは、ついに打ち止めのようだ。

 ロウもマックスも、己の武器を杖のようにつき、呼吸を荒げている。それでも、二人に目立った負傷はない。


「ふぅーー……老体にゃ堪えたなぁ、ったくよ」


「……まだ、余裕がありそうではないか、ロウ殿。私は……立っているだけで、やっとだぞ」


「空元気ってやつだよ。疲れて口調作る気にもなりゃしねぇ」


 言葉通りに本来の口調のまま、呼吸を整えるロウ。少しだけ、二人は体力の回復に時間を費やした。

 そうしているうちに、メルヴィディヴス達の遺骸が転移していく。もしも彼らがここで止めなければ、砦には多大な被害が出ていただろう。


「さて……まだやれるかよ、マックス?」


「……何とか、動けはするだろう。急ぎ、赤牙の救援に向かおう」


「グハハッ。ま、あいつらなら大丈夫だろうが……だからって待ってんのは性に合わねぇわな!」


 気力を奮い立たせ、二人は立ち上がる。自分たちの国を荒らす連中はまだ残っている。誰かに託して終わりでは示しがつかないとばかりに、二人のギルドマスターは奥へと駆け出し――




 ――僅かに感じた耳鳴りに、ロウは上を向く。そして、見た。

 ヒトのような見た目をした何かが、その狂爪を振りかざし、マックスへと襲い掛かろうとしているのを。


「マックス!!」


「っ!!」


 ロウの声にすぐ反応できたのは、彼も歴戦であるが故だ。斧を振り上げた先に迫るのは、怪物の腕。

 それを受け止めた豚人を、凄まじい衝撃が襲った。


「ぐっ……!」


「……この野郎!」


 ヒトの腕とは思えない威力に呻くマックス。それでも、弾くように斧で押し返し、距離を開かせたのはさすがの経験値だ。

 ロウも追撃の弾丸を放つが、ソレは難なく爆炎を回避する。


「さすがはギルドマスター、良い反応だ。防がせるつもりはなかったのだが、反撃までこなすとはな」


 二人の目の前に降り立ったのは、コヨーテの獣人。二人がその姿を見るのは初めてだが、彼が何者なのかは考えるまでもなかった。


「一目で分かるな……てめぇが狂犬、リューディリッツって野郎か」


「その通りだ。餌場を探していたところに、丁度良い姿が見えたのでな」


「……餌場とは、舐めてくれるな」


 歴戦のギルドマスター二人を前にしても、リュートの余裕は崩れない。しかし、ロウ達にも感じられた。これは慢心ではない、この男は本当に危険であると。


「なるほど、バトルジャンキーのお眼鏡に叶ったってわけかい、俺たちは? 嬉しくねぇな」


「ああ、誤解しないでもらおうか。俺は別に、強者との戦いが好きなわけではない。ただ……」


 牙を剥きだしにして、リュートは笑う。そこには嗜虐的な感情と、馳走を前にしたような喜色が確かにあった。


「強者を踏みにじり、喰らう。その瞬間こそ、俺にとって最高のディナーなのでな?」


「……なるほど。何から何まで最悪だな、てめぇは……!」


「くくっ、実に光栄な褒め言葉だ!」


 相手を食料としてしか見ない悪辣さ。そもそもヒトを喰らう時点で、この男はどうしようもない異常者だ。

 言葉が通じても、まともな会話にはならない。ならば、やるべきことは決まっている。


 マックスもロウも、連戦の疲労で本調子ではない。それでも、決して許してはならない者が、目の前にいる。

 どのような苦境であろうと、民の脅威を前に放置するつもりなど、二人にはない。それぞれが背負った〈砂海〉〈胡蝶〉の名に恥じぬためにも。そもそも相手も、自分たちを逃がすつもりはないだろう。


「ではお相手願おうか、テルムの戦士たち。果たして、貴様たちを喰う時はどんな顔をしてくれるのだろうな?」


「はっ、言ってろ気狂いが! そのよく動く舌が、消し炭になるまでぶち込んでやらぁ!」


「見せてやろう。我々は……この国は、貴様の餌などではないということを!」


 最初に切り込んだのは、マックスだ。

 彼の持つ力の名は〈黒鉄剛刃(くろがねのやいば)〉。その効果は、己が肉体の強化。言ってしまえば単純な力だが、彼ほどの修練を重ねた者であれば、あらゆる局面に対応できるほどの身体能力をもたらす。

 同系統の力と比較すると、肉体の頑丈さが大きく上がるのが特徴だ。大型UDBの攻撃すら受け止められる鋼の体躯は、前衛としては最高峰に信頼できる力と言ってもいいだろう。単純、ゆえに強靭。実直な彼の性質をこの上なく表した力でもある。


 マックスの戦斧が、空を裂きうなる。大振りな斧の攻撃も、彼ほどの達人であれば、広範囲を瞬時に薙ぎ払う必殺の嵐だ。


「ほう、さすがだ! 他の有象無象とはまるで違う。冷や汗が出そうだな」


「案ずるな。何かを感じる間もなく、両断してやろう……!」


 リュートはその超人的な身のこなしで、斬撃をいなしていく。さすがの怪物も一旦は受けに回っており、砦の時のような遊びは見えない。


「おら、俺を忘れてんじゃねぇぞ!」


 そして、的確に支援するのはロウのガトリングガン。着弾点から沸き上がる炎は、リュートの動きを確実に阻害していく。

 ロウの力〈炎帝の息吹(イフリートブレス)〉は、物質を熱エネルギーへと強制的に変換し、爆炎を巻き起こすものだ。さすがに生物には使えないが、無機物であれば何であろうと武器に変えてしまえる、強力な破壊力を持った最高峰の炎操作(パイロキネシス)である。


 マックスがその身体能力で相手を抑え、ロウが爆炎で仕留める。またはロウの炎が敵を封じ込め、マックスが叩き斬る。二人はそのコンビネーションで、大型UDBすら幾度となく仕留めてきた。


 だが、目の前の怪物は、そんな二人の猛攻を凌いでいる。


「なるほど、一瞬たりとも気を抜かせてくれん。本物の強者だな、貴様たちは」


「…………!」


「ああ……実に、楽しみだ。さぞや、貴様たちは美味いだろうな!」


 そう言いながらも、リュートは明らかに二人の連携に適応を始めていた。マックスの戦斧に合わせて振るわれた腕が斧を弾く。そうして隙間を作り、必殺のはずだった弾丸を避けてしまった。

 ならばと炎を足元にばら撒いても、彼は十メートルはあろうほど高く跳んだ。そして、再び空中から、体重を乗せた一撃を放つ。狙う先はロウだ。

 鯱人はその一撃を回避する。だが、直後に絶句してしまった。先ほどまで立っていた床が、深く抉れている。ロウとマックスが、大型UDBと全力で戦闘しても大した傷などつかなかった、頑丈な遺跡の床がだ。


(何だよこの膂力は! 大型UDBをそのまま圧縮したみてぇな……いや、もっとやべぇか!? 強化能力にしたって、こりゃ……!)


 桁が違う。そもそも、PSを発動したマックスを相手取るだけでも、並大抵ではないのだ。さらにロウの攻撃をも防ぎ切る身体能力。人など一撃で潰せてしまうだろう圧倒的な力。赤牙に聞かされていた上でなお、想定を上回る怪物ぶりだった。


「誤解を招かぬよう教えてやろう。強者が最高のディナーと言ったのは、比喩ではない。()()俺には、相手が熟練の戦士であればあるほど美味く感じるのだ。くくっ、我ながら面白いものだがな」


「……てめぇ、本当にヒトか?」


「ああ、ヒトだとも。間違いなく俺はヒトの親から生まれているぞ?」


 愉快そうに笑いながら、リュートは舌なめずりをした。ロウですら背筋が寒くなるような、捕食者の顔だった。


「ロウ殿、下がれ!」


「おっと。いかんな、逸りすぎたか」


 再びロウを襲おうとしたリュートの背後から、マックスが割って入る。ロウも距離を開きながらガトリングの連撃を浴びせた。

 挟み撃ちのような形での攻撃は、いかに彼でも完全には避け切れなかったようだ。マックスの斧が背中を斬り裂く。ロウの弾丸は直撃こそしなかったが、巻き上がる炎が足を焼く。

 飛び散った血は赤い。この怪物もまた、血の通った生物なのだと、初めて実感できた。傷を与えられるならば、倒すことも不可能ではない。二人は一瞬、そう思った。――だが。


「くくっ……ははは! 痛みなど感じたのは久々だ。やってくれる」


「…………!」


「だが……生憎、俺に被虐趣味はなくてな?」


 口元は笑っているが、獣の目付きは鋭さを増した。そして、その次に起きたことに、ロウ達は本当に絶句してしまった。

 ――腕の火傷も、背中の裂傷も。負わせた傷が、瞬く間に消えてなくなったのだから。


「なん、だと……!?」


「俺に血を流させてくれたのだ。貴様たちの血肉、全て喰らわねば釣り合わんなぁ!」


「ッ、くおぉっ……!!」


 マックスに接近しての、蹴り上げ。言葉にしてしまえばそれだけの行動だが、その一撃は斧で受け止めたマックスを、10メートル近く吹き飛ばすほどの破壊力を持っていた。身体強化がなければ、受けてなお致命傷だったかもしれない。


「ちっ……らぁッ!!」


 マックスを守るように、ロウの銃口から出力を上げた巨大な火柱が上がる。リュートは追撃を止めて、いったん距離を離した。息の上がった二人に対して、狂犬は平然とした笑みを浮かべる。

 実力で言えば、二人はこの怪物に攻撃を届けられるほどの達人だ。その上でなお、リュートが余裕を保っていた理由。その一端を垣間見た二人の背には、疲労とは異なる原因の汗が伝っていた。

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