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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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死闘の始まり

「ほう……」


 俺の横にいる男は、感嘆したような声を上げる。


「あれは実弾のようだな? どんな手品を使ったんだか」


 ……良い機転だ。瑠奈のPSを、あのように使うとはな。

 彼女の能力は、武器に様々な事象を宿すこと。ならば、例えば本来は貫通力を持たない大会用の銃弾に()()()を宿せばどうなるか。結果は見ての通りだ。


 彼女達が手にしている武器は、今や真剣や実弾と何ら変わりない。彼女達の実力があれば、ミノタウロス一体程度は……!


「面白いな、銀月。あの子供達は、なかなかの実力を持っているようじゃないか?」


「…………」


 俺は男を完全に無視する。とにかく、この檻を脱出する方法を考えなければ。しかし、素手で打ち破れるか? くそ、PSさえ思い出せれば……!


「しかし、だ。6対1ではいささかアンフェアではないか?」


「……何?」


 男は嫌味な笑みを見せた。こいつの性格を考えれば……今の発言の意味は。


「ふふ。では、調子に乗った子供達には、もう一度絶望してもらうとしようか?」


「まさか……止めろ!」


 俺の制止を意にも介さず、男は胸元から何かを取り出し、操作した。


「さあ、第二幕の始まりだ!」










「カイ、大丈夫?」


「ああ、心配すんな。この程度、大したことねえよ」


「……本当に、間に合って良かった」


 まずは牛鬼が怯んだ間にカイ達に下がってもらって、体勢を立て直す。

 カイも瑞輝さんも、すごく疲れてはいるみたいだけど、しっかり立ってる。尻尾で打たれたカイは心配だけど、本人が大丈夫って言うなら、今はそれを信じるしかない。


「まだ良かったと言うのは早いぞ。それは、生きて帰ってからだ」


「ああ。残念だけど、さっきの不意打ちじゃ奴は倒せなかった」


 暁斗の言う通り、牛鬼は混乱こそしているようだけど、致命傷にはなってない。だけど、間違いなく私達の攻撃は相手に通じてる。


「それでも、こっからは6対1だ。形勢逆転ってやつだな?」


「海翔、まだ戦えるのか?」


「当然ですよ。瑞輝さんこそ大丈夫ですか?」


「……はは。ここで俺が弱音を吐く訳にもいかないだろ?」


 作戦成功でプレッシャーが緩んだのか、カイと瑞輝さんのやる気は十分なようだ。もちろん、私たちだって。

 いける、これなら。相手がどれだけ強力な魔獣でも、私たち全員の力を合わせれば……!




 ――そう思った矢先。

 また、私たちを耳鳴りが襲った。


「!?」


 この感覚は。ガルの時とか、あの牛鬼が現れた時と同じ? ってことは、まさか……!


「向こうも増援ってか……? はは、やってらんねえな……」


 暁斗が乾いた笑いをもらす。牛鬼の後ろに――新たな歪みが、二つ生まれていた。今度は、転移が終わるまでにそれほどの時間はかからなかった。


 一体は、醜悪な巨人。ミノタウロスと同等の体躯に、緑色の皮膚。外見はあえて言うなら人間に近いんだろうけど、そのぎょろりとした目には、知性なんか全く感じなかった。

 もう一体は、全身を黒い毛で覆われた獣。大型犬をさらに二回り大きくしたような見た目に、鋭い牙と爪。しなやかで力強いその身体は、獲物を狩るために洗練されたものだ。


「〈愚巨人トロル〉に〈影牙獣シャドウファング〉……」


 UDBの危険度を表すランクは、どちらもミノタウロスと同じC。つまり、同レベルに強力で危険なUDBだった。


「神様ってのがいるなら、ずいぶんと意地悪なんだな……」


 警戒態勢だった牛鬼は、新たな二体を仲間と認識したみたいだ。全く別の種類のUDBが……やっぱり何かおかしい。けど、変だって言ったところで、現実が変わってくれるわけじゃない。

 私達だけで、あの三体を相手にしなきゃいけないなんて……無謀にしか思えない。


 ……だけど。


「やるしかねえだろ」


「……そうだな。諦めている場合じゃない」


 最初に前に出たのは、カイと瑞輝さん。

 戦って、一番怖い思いをしたはずの二人。だけど、どこか吹っ切れたみたいな声で。


「おら、気合い入れろよお前ら! 心配すんな、俺はあいつと戦えた! お前らは俺と同じくらい強い! だったら、力を合わせりゃ戦えるってことだ!」


「…………!」


「それとも、諦めてこんまま死ぬか? 俺は御免だな! 俺の命は、あんな奴らの餌になるほど安くはねえからよ!」


 カイの発破は、折れかけた心によく響いた。

 ……そう、そうだよ。諦めたら同じだ。どれだけ相手が強くても、まだ私達は立ってるんだ。


「ああ、そうだな。俺は、死にたくねえ……瑠奈も、お前らも、死なせたくねえ!」


「そうだ。こんな所で、死んでたまるかっつーの!」


「当たり前だ。おれにはまだ、やることが沢山あるんだ……!」


 カイと瑞輝さんだって、頑張ったんだ。震えるほど怖くても……やらなきゃ死んじゃうって言うなら!


「戦う前から、諦めてたまるもんですか!」


 まだ、誰も闘志は無くしていなかった。必ず全員で生きて帰ってみせる。そのために……!


「数はまだこっちが上だ、手分けするぞ。俺とコウで牛鬼、レンとルナで愚巨人、暁斗と瑞輝さんで影牙獣だ……問題あるか?」


「チーム分けの基準は?」


「能力と相性を考えた結果だ。俺の頭、信じられねえか?」


 異議を挟む者は、もちろんいない。そもそも話し合う時間はない。奴らは、もう目と鼻の先にいた。私は、弓をしっかりと握る。


「……生きて帰ろう、みんな!」


『ああ!』



 ――再び、命懸けの戦いが始まった。


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