竜虎天翔! 3
「おっしゃあ! てめえら、畳み掛けるぜ!!」
「……ははっ。何をお前が仕切っているんだよ、バカトカゲ!」
「ほんとだよ! でも……やれる! みんなの力で!」
みんな、最初の驚きを通り過ぎたのか、いつもの調子が戻ってきてるみたいだ。ルナも、暁兄も、イリアも……なんか嬉しそうなのが、オレも嬉しい。場違いかもしれねえけど、これがオレ達だろ。
「コウ! ちゃんと、後で色々聞かせてよね?」
「おう、分かってるっての。そのためにも……まずはあいつら、ぶっ倒すとしようぜ!」
「ふふ……了解! 瑠奈ちゃん、合わせて!」
レンがいりゃ完璧だったけど……だったら、ここにいねえあいつの分も頑張るだけだ。オレらが力を合わせりゃ怖いもんなんかねえってこと、見せてやる。
そして、終わったらちゃんと、レンとも話をして……みんなで行くんだ。これから先の、未来に!!
「おらあああぁっ!!」
カイの炎が、一気に広がる。それが敵に陣形を組むことを許さない。オレらからしたら少しスローになった世界で、UDBたちとロディに、残り四人の一斉射撃をかました。防御の薄い黒殺獣なんかは、それでかなりの数が戦闘不能になった。
一人ひとりは、ほんの少しの加速。けど、戦いってのは一瞬の差だってガルも言ってた。その一瞬をみんなが余分に動ける……それがどんだけ厄介か、思い知らせてやるよ。
もちろん、みんなに力をずっと使い続けるのは無茶だ。この感じだと……体感で1分、それ以上はまずいかな。でも、そんだけありゃ充分だろ!
「こんなの、聞いてないよ……!?」
「馬鹿にしすぎなんだよ、てめえら兄弟はな!!」
カイが凶悪に笑いながら――いやちょっとオレから見ても悪役すぎねえ? って顔だったのは置いといて――炎を纏いながら敵陣のど真ん中に突撃。そして、全身を燃え上がらせると、まるで舞うように飛び上がった。
「う、うわああぁ……!!」
ほんとに炎操作はめちゃくちゃ出力が上がってるみてえだ。熱くなればなるほど力がみなぎるって兄貴の力からして、それ以外も一緒に強くなってるはずだ。
すげえ派手な一撃は、巻き込んだUDBを何体かふっ飛ばした。……ロディは情けない悲鳴上げてるくせに、しっかりそれを避けてる。
けど、カイは考えなしに動くやつじゃねえ。あれは、敵を思いっきり崩すための突撃だってのは、すぐ分かった。だったら……オレがやるべきことは!
「オレらの覚悟……」
ルナとイリアが掃射で道を開けてくれる。暁兄が、カイを狙うやつを押し留めてくれる。それでも迎え撃とうとしてきたロディの足止めをするように、兄貴の炎があいつに降り注ぐ。
ここまでお膳立てされて、決められなかったらウソだろって話だ。オレは自分の加速を強めた。やりすぎたらジョシュアの時みてえになっちまうが……この一瞬、勝負をかけることぐらいはできるんだよ!
「舐めんじゃねええぇっ!!」
思い切り踏み込んでの、刺突――はフェイント。それを避けたロディに向かって、オレは思い切り銃剣をぶん回して、側面で殴り付けた。
「あっ……!!」
対人戦なら、この重みをぶつけるだけで充分すぎる。ジョシュアの時は腕をへし折るくらいだったけど、あいつとロディは体格もぜんぜん違う。
手応えは、あり。直撃したロディの小柄な身体をふっ飛ばした――ように、見えたかもしれねえ。けど、その感触に、オレは思わず顔をしかめた。
「よし、決まった!」
「いや……まだだぜ!」
あいつ、派手に吹っ飛んだように見えて、自分で跳びやがった。衝撃を逃がすように、ギリギリで防御しやがったんだ。手応えが軽かった。
それでも……さすがに、オレの時間加速に追い付かなかったらしい。当たったのは間違いねえし、ダメージはあるだろう。あいつは倒れこそしなかったけど、殴られた腕を庇って呻いている。
「い……痛い、痛い、痛い……!」
「まだまだ、こんなもんじゃねえぞ!!」
見た目があれでも容赦なんかしねえ。てめえがやってきたことを返してやる。完全に動けなくするまで、何度だってぶん殴ってやるだけだ。痛みで隙だらけな今がチャンス――
「コウ、上だ!」
「っ!!」
――なんて、簡単にはいかなかった。いつの間に飛ばしてたのか、棘がオレに降り注いできてた。ギリギリのところで、時間凍結が間に合う……けど、咄嗟すぎて範囲の指定をミスった。いけねえ、広すぎた……体力が、かなり持っていかれる。
たまらず、加速を解除する。何とか息を整えるオレに、ロディはゆっくりと顔を上げて……オレはその瞬間、寒気に思わず尻尾をぴんと立てた。
「痛いじゃないか……酷いじゃないか。君も、ぼくに酷いこと、するんだね」
それは、怯えきったみてえな声で。痛そうに、辛そうに。仕草だけなら、ほんとにケガした時の子供みてえに。
「君たちが悪い……君たちが悪いんだ。本当は、こんなこと、したくないけど……君たちが、ぼくを、殺そうとするなら」
でも……オレが真っ先に感じたのは、怖い、だった。たぶん、こいつが痛がってるのは演技とかじゃねえし、言ってることも本気なんだろう。だからこそ。
「殺される前に、殺すしか、ないよね?」
めちゃくちゃなことを言いながら、あいつは……口元を歪めていた。ものすごく、楽しそうに。
さすがに背筋が凍りそうだった。こいつは、ダメだ。リュートの野郎と同じくらい、分からねえ……!
「コウ、下がれ!」
「っ……ちぃ!」
決められなかった。けど、深追いしたらこっちがヤバい。オレが飛び退いたところで、大量の棘が雨みたいに降ってきた。
「おいおい、マジかよ……!」
ロディの展開した光の棘が、円を描くようにあいつの周りを飛び回る。その上で、オレらを狙うように別の棘が生成されてく。
あれじゃ、近寄るのもむずい。止めちまおうとすれば、かなり消耗しちまうだろうし……あいつの様子からして、止めてもすぐに次が作られそうだ。
いや、棘はこの瞬間にも、どんどん増えてく。この密度で展開できんのかよ……! さっきまで手を抜いてた? それとも、こいつもキレたらヤバいタイプってか……!?
「マリク様は何か言ってた気がするけど……まあ、いいか。危ないんだもの……しょうがない、よね?」
「……この野郎。だったら、とことんやってやらぁ! みんな!」
「おう! まだまだ第一ラウンド、だろ!」
「浩輝くん、無理はしないで! あたしも防ぐから!」
気持ちで負けるわけにはいかねえ。防げねえわけじゃねえんだ。それに、オレ一人じゃねえ。ここを乗り切って、勝つんだ。もう一度、仕切り直し――
「そこまでにしときな、ロディ」
――オレ達の間に走った鞭の一閃で、どっちもぴたりと動きを止めた。
「は……?」
反応できなかった。いつの間に? オレが慌ててそっちを見ると、そこにはひとり、人間の女が立ってた。
見た目だけなら、大人の美人って感じだ。ちょっと目付きはきつめだけど顔はキレイで、黒髪のボブカットも似合ってる。赤をベースにした服は、抜群のスタイルを強調するみてえで、こんな状況じゃなけりゃちょっと見とれてたかもしれねえ。
それから……髪に隠れた頬の辺りに見えてるのは、白い鱗? だとすると……こっちもハイブリッド、か?
「アイビーさん……なんで、ここに?」
「お目付け役ってやつだよ。全く、このアタシを小間使いとか、マリクにも困ったもんだね」
アイビーって呼ばれた女は、鞭を構えながらロディの側に並ぶ。ここに来て新手、かよ。