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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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竜虎天翔! 3

「おっしゃあ! てめえら、畳み掛けるぜ!!」


「……ははっ。何をお前が仕切っているんだよ、バカトカゲ!」


「ほんとだよ! でも……やれる! みんなの力で!」


 みんな、最初の驚きを通り過ぎたのか、いつもの調子が戻ってきてるみたいだ。ルナも、暁兄も、イリアも……なんか嬉しそうなのが、オレも嬉しい。場違いかもしれねえけど、これがオレ達だろ。


「コウ! ちゃんと、後で色々聞かせてよね?」


「おう、分かってるっての。そのためにも……まずはあいつら、ぶっ倒すとしようぜ!」


「ふふ……了解! 瑠奈ちゃん、合わせて!」


 レンがいりゃ完璧だったけど……だったら、ここにいねえあいつの分も頑張るだけだ。オレらが力を合わせりゃ怖いもんなんかねえってこと、見せてやる。

 そして、終わったらちゃんと、レンとも話をして……みんなで行くんだ。これから先の、未来に!!

 

「おらあああぁっ!!」


 カイの炎が、一気に広がる。それが敵に陣形を組むことを許さない。オレらからしたら少しスローになった世界で、UDBたちとロディに、残り四人の一斉射撃をかました。防御の薄い黒殺獣なんかは、それでかなりの数が戦闘不能になった。


 一人ひとりは、ほんの少しの加速。けど、戦いってのは一瞬の差だってガルも言ってた。その一瞬をみんなが余分に動ける……それがどんだけ厄介か、思い知らせてやるよ。

 もちろん、みんなに力をずっと使い続けるのは無茶だ。この感じだと……体感で1分、それ以上はまずいかな。でも、そんだけありゃ充分だろ!


「こんなの、聞いてないよ……!?」


「馬鹿にしすぎなんだよ、てめえら兄弟はな!!」


 カイが凶悪に笑いながら――いやちょっとオレ()から見ても悪役すぎねえ? って顔だったのは置いといて――炎を纏いながら敵陣のど真ん中に突撃。そして、全身を燃え上がらせると、まるで舞うように飛び上がった。


「う、うわああぁ……!!」


 ほんとに炎操作はめちゃくちゃ出力が上がってるみてえだ。熱くなればなるほど力がみなぎるって兄貴の力からして、それ以外も一緒に強くなってるはずだ。

 すげえ派手な一撃は、巻き込んだUDBを何体かふっ飛ばした。……ロディは情けない悲鳴上げてるくせに、しっかりそれを避けてる。

 けど、カイは考えなしに動くやつじゃねえ。あれは、敵を思いっきり崩すための突撃だってのは、すぐ分かった。だったら……オレがやるべきことは!


「オレらの覚悟……」


 ルナとイリアが掃射で道を開けてくれる。暁兄が、カイを狙うやつを押し留めてくれる。それでも迎え撃とうとしてきたロディの足止めをするように、兄貴の炎があいつに降り注ぐ。

 ここまでお膳立てされて、決められなかったらウソだろって話だ。オレは自分の加速を強めた。やりすぎたらジョシュアの時みてえになっちまうが……この一瞬、勝負をかけることぐらいはできるんだよ!


「舐めんじゃねええぇっ!!」


 思い切り踏み込んでの、刺突――はフェイント。それを避けたロディに向かって、オレは思い切り銃剣をぶん回して、側面で殴り付けた。


「あっ……!!」


 対人戦なら、この重みをぶつけるだけで充分すぎる。ジョシュアの時は腕をへし折るくらいだったけど、あいつとロディは体格もぜんぜん違う。

 手応えは、あり。直撃したロディの小柄な身体をふっ飛ばした――ように、見えたかもしれねえ。けど、その感触に、オレは思わず顔をしかめた。


「よし、決まった!」


「いや……まだだぜ!」


 あいつ、派手に吹っ飛んだように見えて、自分で跳びやがった。衝撃を逃がすように、ギリギリで防御しやがったんだ。手応えが軽かった。

 それでも……さすがに、オレの時間加速に追い付かなかったらしい。当たったのは間違いねえし、ダメージはあるだろう。あいつは倒れこそしなかったけど、殴られた腕を庇って呻いている。


「い……痛い、痛い、痛い……!」


「まだまだ、こんなもんじゃねえぞ!!」


 見た目があれでも容赦なんかしねえ。てめえがやってきたことを返してやる。完全に動けなくするまで、何度だってぶん殴ってやるだけだ。痛みで隙だらけな今がチャンス――


「コウ、上だ!」


「っ!!」


 ――なんて、簡単にはいかなかった。いつの間に飛ばしてたのか、棘がオレに降り注いできてた。ギリギリのところで、時間凍結が間に合う……けど、咄嗟すぎて範囲の指定をミスった。いけねえ、広すぎた……体力が、かなり持っていかれる。

 たまらず、加速を解除する。何とか息を整えるオレに、ロディはゆっくりと顔を上げて……オレはその瞬間、寒気に思わず尻尾をぴんと立てた。


「痛いじゃないか……酷いじゃないか。君も、ぼくに酷いこと、するんだね」


 それは、怯えきったみてえな声で。痛そうに、辛そうに。仕草だけなら、ほんとにケガした時の子供みてえに。


「君たちが悪い……君たちが悪いんだ。本当は、こんなこと、したくないけど……君たちが、ぼくを、殺そうとするなら」


 でも……オレが真っ先に感じたのは、怖い、だった。たぶん、こいつが痛がってるのは演技とかじゃねえし、言ってることも本気なんだろう。だからこそ。


「殺される前に、殺すしか、ないよね?」


 めちゃくちゃなことを言いながら、あいつは……口元を歪めていた。ものすごく、楽しそうに。

 さすがに背筋が凍りそうだった。こいつは、ダメだ。リュートの野郎と同じくらい、分からねえ……!


「コウ、下がれ!」


「っ……ちぃ!」


 決められなかった。けど、深追いしたらこっちがヤバい。オレが飛び退いたところで、大量の棘が雨みたいに降ってきた。


「おいおい、マジかよ……!」


 ロディの展開した光の棘が、円を描くようにあいつの周りを飛び回る。その上で、オレらを狙うように別の棘が生成されてく。

 あれじゃ、近寄るのもむずい。止めちまおうとすれば、かなり消耗しちまうだろうし……あいつの様子からして、止めてもすぐに次が作られそうだ。

 いや、棘はこの瞬間にも、どんどん増えてく。この密度で展開できんのかよ……! さっきまで手を抜いてた? それとも、こいつもキレたらヤバいタイプってか……!?


「マリク様は何か言ってた気がするけど……まあ、いいか。危ないんだもの……しょうがない、よね?」


「……この野郎。だったら、とことんやってやらぁ! みんな!」


「おう! まだまだ第一ラウンド、だろ!」


「浩輝くん、無理はしないで! あたしも防ぐから!」


 気持ちで負けるわけにはいかねえ。防げねえわけじゃねえんだ。それに、オレ一人じゃねえ。ここを乗り切って、勝つんだ。もう一度、仕切り直し――




「そこまでにしときな、ロディ」


 ――オレ達の間に走った鞭の一閃で、どっちもぴたりと動きを止めた。



「は……?」


 反応できなかった。いつの間に? オレが慌ててそっちを見ると、そこにはひとり、人間の女が立ってた。

 見た目だけなら、大人の美人って感じだ。ちょっと目付きはきつめだけど顔はキレイで、黒髪のボブカットも似合ってる。赤をベースにした服は、抜群のスタイルを強調するみてえで、こんな状況じゃなけりゃちょっと見とれてたかもしれねえ。

 それから……髪に隠れた頬の辺りに見えてるのは、白い鱗? だとすると……こっちもハイブリッド、か?


「アイビーさん……なんで、ここに?」


「お目付け役ってやつだよ。全く、このアタシを小間使いとか、マリクにも困ったもんだね」


 アイビーって呼ばれた女は、鞭を構えながらロディの側に並ぶ。ここに来て新手、かよ。

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