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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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竜虎天翔! 2

「あの見た目、ヘリオスさん達を襲ったっていう、あのクソ狂犬の弟分みてえだな」


「あいつの……」


「な、何なの、君たち……?」


「……はっ。見ての通り……」


「あの野郎と、てめえの敵だよ!」


 オレたちはしっかりと目の前の敵を見る。あのクソ野郎の弟分……か。だったら、ちょうどいいってもんだ。

 ぶっちゃけ、あいつが憎くて許せねえ気持ちは、暴走した時とあまり変わってねえと思う。でも、あん時のオレはそれ以上に……現実逃避してた。あいつが生きてるなんてウソだ、って、何もかも無かったことにしようとした。

 だから、暴走した。……時の歯車の核になってた気持ちは、『逃げ』だから。悪い方に重なり合って、オレ自身にも止めらんなくなった。オレは色んなもんから逃げ続けてたって、今なら受け止められる。


 だから、今は大丈夫だ。あいつがどんだけ憎くても、オレはもう、逃げねえって決めた。兄貴と一緒に、逃げずにこれからを進むって決めたから。心が濁っていくみたいなイヤな感覚は、もうしない。


「ああ、そうだ……思い出した。君たち、兄さんが言っていた二人だね……?」


「あの野郎が何て言ってたかなんて知ったこっちゃねえが……ともかく、てめえの兄貴に世話になったのは間違いねえな」


「まとめてお礼参りさせてもらおうじゃねえか。言っとくけど、今のオレらは一味違うぜ?」


「そ、それは困るよ……。兄さんの機嫌が悪くなったら、ぼくが怒られるんだから……!」


 ふざけたやつだ、ってのはすぐに分かった。この状況で最初に心配するのがそれかっての。

 けど、暁兄たちが苦戦してたし、ヘリオスさんもあんな目に遭わせたやつだ。間違いなく、危ねえ相手でもある。


「君は、時間を操れるんだってね……? でも……形のないものは、止められないらしいね……」


「よく知ってんじゃねえか。……それで?」


「悪いけど。ぼくの力、君じゃ防げないと思うよ……?」


 ロディって言ってたか、そいつが手を上げると、光の棘がいくつも生み出された。


「浩輝、カイ! まずい、それは避けろ!!」


 暁兄が慌てて叫ぶ。……ヘリオスさんを治す時に話はちょっと聞いた。刺さると人が死ぬくらいに痛い光の棘。装備じゃ止められねえ、人にしか刺さらねえ凶器。すげえタチの悪い力だ。

 こいつが言ってるのは当たってる。時の歯車が時間を止められるのは、ちゃんとしたモノだけだ。銃弾は止められても、例えばガルの波動は止められねえ。


 ――だけどな。言ったはずだぜ、今のオレらは一味違うって。


「見せてやれよ、コウ!」


「おう!」


 棘が飛んでくる。喰らえば死ぬかもしれねえ攻撃。だけど、全く怖くなかった。不思議だけど、今のオレに何ができるか、試してなくても感覚で分かる。


 見せてやるぜ。これは、オレ達があの野郎にリベンジする最初の一歩……。

 そして、()()の最初の一歩だ。……オレらの時計は、やっと進む。思いっきり、デビューの名乗りといこうぜ!



「――〈時統べる機構(システムクロノス)〉!!」



 全力で宣言したのは……新しい力の名前。

 そして。オレ達に向けられた光の棘は――全部、空中で止まった。


「…………な」


「え……え!?」


 力を止められたロディだけじゃなく、ルナ達も驚いてる。場違いだけど、ちょっと爽快だ。

 カイ兄だけが、にやりと笑っている。そして、その鱗がどんどん紅くなっていって……()()()()()


「俺たちも派手に行こうぜ。――〈紅陽の灼爪(プロミネンスアームズ)〉!!」


 カイもまた、新しい名前を叫ぶ。途端、その両腕を包んだのは、紅の炎爪とは桁違いの爆炎。兄貴がそのまま拳を突き出すと、灼熱の炎が吹き出て、10メートル近くを貫いた。


「うわ、あ、熱……!?」


『グ、アッ……!?』


 ロディは避けやがったが、UDBは何匹か巻き込んで、派手に火傷を負わせている。ぱっと見だけで、火力が段違いって感じだな。

 翼はすっかり燃え上がって、炎がそんまま翼の形になってるって感じだ。羽ばたきに合わせて火の粉が散った。


「二人とも……その、力は……!」


「おう。いかしてんだろ、この翼?」


「へへっ。文字通り、生まれ変わったオレ達だぜ!」


 あの時……オレは分かったんだ。オレに、何が足りなかったか。オレが、自分の力のことをぜんぜん知らなかったんだってこと。そしてオレは、この力にできないことを認めて……初めて、ちゃんと受け入れた。

 時の歯車は、逃げたいって気持ちが形になったもの。だけど、それだってオレの心のカケラだった。それをようやく受け止めて、それでも前に進むんだって思った瞬間。時の歯車は、生まれ変わった。


 ……PSの、昇華。

 ほんと、こうなった今でも不思議な気分だ。でも、感じる。オレたちは今、ひとつになったんだって。こんなにも、力のことがよく分かる。自分の力を、心から信じられる。


 そして、兄貴の方も同時に。きっとカイは、本当ならとっくに昇華できてた状態だったんだ。ガルがあの時、紅の炎爪はいちばん完成してるって言ってたしな。

 たぶん……抜けてた時間が、最後のピースだったんだと思う。それが帰ってきて、お互いに引っかかってたもんも取れて……オレ達は、自分のほんとの力に、目覚めた。


 ロディは情けない顔のまま、また棘を飛ばしてきた。でも、オレはまたそいつを止めてみせる。


「ど……どうして! マリク様も、止められないって言ってたのに……!」


「お前の言う通り、その棘は止めれねえよ。けど……周りの空間ごと止めりゃ、同じだろ?」


「……な……なに、それ……!」


 時の歯車だった時にはできなかったことのひとつ……物じゃなくて、空間への時間作用。それが、新しくなったオレの力の、一番の変化だ。指定した範囲の時間をまとめて凍結させれば、その中に何があったってお構いなしの反則技、ってな!


 ……なんて。ちょっとかっこつけてみてるけど……あんまり使いたくねえな、これ。あの棘の周りに絞っても、だいぶ体力を持っていかれた。人ごと止めるなんてしたら、保って数秒でぶっ倒れちまいそうだ。今はハッタリにはちょうどいいけどよ。

 燃費そのものは上がってるけど、付き合い方はこれから考えなきゃな。でも、連発はできなくたっていい。オレは、ひとりで戦ってるわけじゃねえしな!


「おら、よそ見してんじゃねえぞ!」


「ひぇ……!」


 炎を纏いながら、海翔が突撃する。炎の翼が、突撃に合わせて周りに熱を撒き散らした。そして、そのまま続けてロディに殴りかかっていく。パンチやキックがそのたび炎を吹き出すんだから、たまったもんじゃねえだろう。

 ロディが体勢を崩したチャンスにオレも銃撃をぶつける。当たりはしなくても、あいつは慌てふためいている。

 ガンガン攻めていくカイのスタイルに、あんだけ強烈な炎が加わったのは、めちゃくちゃでけえな。きっと、それだけでもねえんだろう。


「じ、陣形を組み直して……」


「私たちも、忘れないでよね!」


「わわっ!?」


 飛んでくる矢と銃弾。ルナ達も、UDBを相手取りながら、ロディに攻撃を浴びせる。ロディはUDBの後ろに隠れようとしてるが、5人の総攻撃はそうそう凌げねえ。


「さすがに、さっきまでの余裕はなさそうじゃねえか!」


「こんな……簡単な仕事だって、兄さんは言ってたのに……!」


「あたし達を馬鹿にして、好き勝手してくれたね。報いは、受けてもらうよ!」


 間違いなく、絶好の機会。だったら……このまま、一気に!


「みんな、行くぜ! みんなの時間を加速させる!」


『!』


 みんな驚いたような顔をしたけど、その意味はすぐに伝わったようだ。そして、今のオレにそれができるってことも。


 オレは今まで、他人に巻き戻し以外の力を使えなかった。これは昇華がどうこうと言うより、オレの気持ちの問題だった。誰かに力を使うことのトラウマ……巻き戻すしかなかったのは、オレが後ろばっか向いてたから。いつかあの時まで戻りてえって思ってたから。

 だけど、オレはもう……怖がらねえ。全部が全部吹っ切れたわけじゃねえけど、それでも。オレは……時計の針を、前に進めるって決めたんだ!


 光がオレの身体から広がって、弾けて、みんなを包んだ。

 もちろん、全員倍速なんてのは無理だ。もしやったら、その瞬間にぶっ倒れるのが目に見えてる。けど、みんな2割だけ加速するくらいなら……全然、やれる!



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