竜虎天翔!
「ち、いっ……!」
「暁斗!」
ロディと戦いを続けていた俺だったが、少しずつ流れは悪くなってきていた。PSの棘は、何とか避け続けている。だけど、こちらも相手に攻撃を加えられていない。
ロディは、自分の体術に加えて、巧みにUDBたちに援護をさせて、俺たちの攻撃をいなしてくる。速さでは大きく上回ってるはずなのに、全然アドバンテージが取れない。
そうしているうちに、幻影神速の消耗が無視できないところに来ていた。この速度を保てるのは、あと何分かが限界だと思う。
瑠奈とイリア、3人がかりでも押されるなんて……こいつ、こんな見た目しといて、下手すりゃあのクリードくらいに強い。せめて、あいつ一人に集中できれば……!
「ほ、本当に、しつこいなあ……!」
「攻めてきてるのは、お前、だろうが! 嫌なら、とっとと帰れよ!」
「そんなことしたら、兄さんに怒られちゃうじゃないか……!」
「知らないよ、そんなこと! そんな勝手な理由で、こんなことをして!」
今まで戦ってきた相手の中でも、ここまで言葉が通じなかったことはない。本気で言っているんだとしたら……狂っているとしか表現できない。何でこいつは、ここまでしておいて、自分が被害者みたいな顔をできるんだ?
いや、落ち着け。今は戦いに集中しないと……!
「無理しないで、お兄ちゃん!」
「暁斗、一度下がって! あたしの力の中に!」
「く……すまない!」
瑠奈の支援を受けてイリアのところまで跳び退くと、彼女が俺の前に結界を張ってくれる。そこに飛んできたロディの棘は、光の壁が受け止めた……けど、イリアが少し苦い顔をしたのは俺も気付いた。
彼女の〈神託の城壁〉は、大抵の攻撃を防ぐことができる。だけど、無敵ってわけじゃないらしい。前に説明してもらったことがある。
(あたしの力は、攻撃に対する防御の概念を形にしたもの……だから、そこに攻撃が来る、ってあたしが認識できないようなものには、効果が落ちてしまうの。それから、PSの特殊な攻撃とかもね。意識を集中させないと、うまく防げないことがあるんだ)
攻撃だと分かっていれば、空間に作用するクリードの離法千里みたいな能力でも阻める。あれは、斬るって物理的な攻撃だからな。だけれど、例えば無色透明なガスを撒かれてたりしたら、それを防ぐのは難しいらしい。
あの棘は明確に攻撃として形を持っている。だけど、普通の物質でもない。彼女の反応からして、防ぎづらい部類なんだろう。
それに、結界の強度を上回るような攻撃も防ぎきれない。防げば防ぐほどイリアが消耗する……いつまでも閉じこもっているわけにもいかない。
せめて少しでも息を整えながら、状況を確認する。軍人たちも、UDBとの戦いで一進一退って感じだ。……空間転移のせいで敵が減った気配はない、どころか、増えているかもしれない。一方、こちらは明らかに怪我人が増えてきている。
時間を稼ぐにも、守り続けるには限界がある。少なくともロディだけは、どうにかして俺たちで止めないと。だけど、このままじゃ……。
「困ったなあ……その壁、すごく邪魔だ」
本当に、子供がするような仕草でそう呟いたロディは、何かを取り出して投げた。――直後、大きな爆発が起こる。
「くぅ……!」
「イリア!」
「……大丈夫! この程度……!」
俺たちには爆風も届かないけど、受け止めるイリアには衝撃のフィードバックがある。そして、ロディはそれをいくつか放り投げてきた。イリアは足を止めて、結界の出力を上げることで何とかそれを防ぐ。
爆炎で目くらましされている間に、ロディは俺たちの背後に回り込もうとしてきた。そうはさせるかよ……! 俺は深く息を吸い込み、再び能力を発動させて突撃する。
「せ、せっかく高いの使ったのに……思ったより、しぶとい……」
「この野郎……! イリアと瑠奈に怪我でもさせてみろ、死んでも許さねえからな!」
「っ……しつこくて怖い人は、本当に大嫌いだ……!」
だけど、向こうにはまだ余力があったらしい。
ロディが手を上げると、光の棘が一気に10発近く、宙に浮かんで展開する。……まずい、これを全部避けるのは……!
ロディの口元が、確かに上がったのを俺は見た。この、野郎は。
「串刺しに――」
「――その前にお前が丸焼きになりな!!」
――突然、炎の嵐が吹き荒れた。
それは俺を一切狙うことなく、ロディへと襲いかかる。
「わ、わぁっ!?」
ロディにとってもそれは不意打ちだったらしく、あいつは棘を飛ばすこともできず、叫んで後退した。そんなあいつを狙って、続けて銃弾がばら撒かれる。
「ひぃ……!?」
情けない悲鳴を上げつつも、的確に回避と防御しながら、ロディは大きく後ろに下がる。助かった、らしい。だけど……今の炎。それに、銃撃。何よりも……あの、声は……。
「……ふう。ナイス連携だぜ、兄貴!」
「間一髪、ってやつだったがな。平気かよ、暁斗!」
「……あ……!!」
そこには……俺の親友が。俺の弟分が。いつも通りの姿で、揃って不敵な笑みを浮かべていた。
オレ達を見て、暁兄もルナも、イリアも目を丸くした。
ま、オレが立ってんのも……横に立っているカイのことも、そりゃビックリすんよな。
身体はさすがにちょっと重い……けど、何日か寝たきりだったらしいこと考えりゃ、動けすぎてるくらいだ。どうも、オレが寝てる間も、コニィとかガル、マスターが色々してくれてたらしい。ほんと、感謝しなきゃな。
そして、オレの隣に立ってるカイの身体は……完全に元に戻ってた。オレがこの砦で時間を吸う前、だけじゃなくて……その前に吸ってた一年間も含めて。
だから、オレの中で話した時と同じで、身体が明らかにでかくなってる。今なら分かるんだけど、こいつは一年若返ってたわけじゃなくて、一年かっとばしてた状態だったんだ。成長期の一年が返ってきたぶん、そのまんまでかくなったって感じみてえだな。
「浩輝君と、海翔君……! 二人とも、大丈夫なの!?」
「わりぃ、心配かけて! けど、もうピンピンしてる!」
「見ての通り、二人揃って完全復活だぜ! ヒーローは遅れて来るもん、だろ?」
「……バカ野郎! 心配させたくせにかっこつけてんじゃねえよ!」
「そうだよ……! でも、二人とも、良かった……!」
泣き笑いみたいな暁兄とルナの言葉。安心したようなイリアの表情。オレとカイ兄は、顔を見合わせて笑う。ああ、後で色々と返さなきゃな、みんなには。
あの後……心の世界から戻ってきた時点で、カイは戻っていた。飛鳥たちに聞くと、オレの身体から急に光が巻き起こってカイを包み、終わった時にはこうなってたらしい。
そして、後のことを引き続き3人に任せて、オレらは早々にこうして復帰したってとこだ。オレらを守るために戦ってた友達、その助けになりたかったから。
ともかく、話すのは後だな。敵のリーダーっぽいやつも、UDBに自分を守らせながら、構え直してる。