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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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結ばれゆく因果

「良いじゃねえか、上等だよ。一発殴り飛ばしてやる、てめえら! そこで待ってやがれ!」


『ふふ……殴り飛ばして、ですか。あの時のようにですか、兄さん?』


「……今になってそれで怯むと思ってんじゃねえぞ! あの時のことを詫びたのと、今のお前らを止めなきゃいけねえのは別問題だ、アミィ!」


『来れるもんなら来いよ、この野郎。今度こそ俺は、お前からアミィを守ってやる!』


 こうなった以上、映像の二人と問答を続けている場合ではない。彼女たちがどうしてこのような行動に及んだか、その真意はまだはっきりとしていないが……リグバルドに与することを放置するわけにも、行いを許すわけにもいかない。

 もはや、戦いは避けられないだろう。だが、俺たちはギルドだ。シスターのため、ヘリオスのため、そしてアトラのためにも……やれることは、最後まで尽くしてみせよう。


『ですが、ここまで何もなしに来れるとは、思っていませんよね?』


「…………!」


 アミィの言葉に合わせて……強烈な耳鳴りが始まった。

 何もないとは思っていなかったが、ここで戦力を投入してくるか。だが、この歪みの大きさは……。


「大型……それも複数、来るぞ!」


 転移が完了する前に駆け抜けるのは不可能だった。ここまで大型でありながら……転移の速度が、明らかに上がっている。

 そして、姿を見せたのは……見上げるほどの大きさの、虫の怪物。


「こいつは……!?」


「あの時の……メルヴィディウスか!」


 ウェアと空がアガルトで戦ったという虫型のUDB。聞くところによると、二人ですら全力を余儀なくされた相手。それが……同時に、2体。


「これはさすがに、一筋縄ではいきそうにありませんね」


「まともに相手をしている場合ではない! 突破を……!」


『そうした場合、彼らは砦に仕向けることになりますよ?』


「…………!」


 その脅迫に、俺たちは足を止めざるを得なかった。……これだけの力を持つUDB。ランドや誠司であれば相手取れるだろうが……それ以外の元に落とされれば、死者が出る可能性は非常に高い。

 この女、戦略や長期的な駆け引きはともかく……その瞬間、他者を操る能力は確かなものか……!

 考える時間もない。メルヴィディウス達は、俺たちを目標に定めて動き始めた。そこまで素早さはないが、攻撃は全て致命的だろう。


「ちっ……どうするよ、マスター!」


「ここで消耗をしたくはないが、そうも言っていられんか……!」


「――いいや。君は万全の状態じゃないと困るよ、ウェアルド」


 言うが早いか、ロウのガトリングが発射され、1体のメルヴィディウスを爆炎に包んだ。そして、もう1体の元にはマックスが駆け、戦斧の一撃が怪物の体勢を揺るがす。


「俺とマッくんで道をこじ開ける! 赤牙のみんなは、そのまま突破してくれ!」


「これで打ち止めである保証もない。全員が釘付けにされては思うつぼだ」


「……それは。だがこの数は、さすがにお前たちでも……!」


 二人の破壊力あるPSならば、確かに相性は悪くない。それでも、今の一撃でもUDBたちは少しダメージを負った程度だ。それが2体、いかにギルドマスターと言えども苦境になるだろう。


「苦戦は承知ってね。でも、彼女にこれ以上、時間を与えるわけにはいかないだろう?」


「あの娘には、さらなる切り札があるだろう。しかしウェアルド殿、あなたならばそれを誰よりも確実に突破できる」


「決めてたんだよ。こういう状況が来たら、最強の剣を送り出すことに全力を尽くすって」


 ウェアへの信頼を語りながら、二人は構える。ロウは、今までに見たことがない狂暴な笑みを浮かべて、灼熱の炎を巻き上げた。


「行けや、赤牙。おめぇらに託すぜ、この戦いの勝利をよ!!」


「我らの分も届けてくれ。この国を荒らす者たちへ、渾身の反撃を!」


「……ああ! そこまで言われれば応えてやるとも! 赤牙一同、二人の拓いた道を進め!」


「……了解だ、ウェア!」


 虫の猛攻を潜り抜け、奥へと走る。途中、振りかぶった怪物の鎌を、マックスの斧が弾いた。放たれた泡を、炎が吹き飛ばした。俺たちは、最低限の迎撃だけを行いながら、扉へと駆け込んだ。

 その先は、長い通路のようだ。すぐに、戦闘の音も遠くなっていく。


「大丈夫だよな……あの二人なら」


「振り返る暇はありませんよ、アトラ。今の我々が考えねばならないのは、二人という戦力を欠いた状態で、役目をいかに果たすかのみです。二人を案じるならば、なおさらにね」


「……分かってるよ。あの狂犬か、それ以外かは分からねえが……アミィのあの自信は、絶対に何かある」


「ならば、その自信を引き剥がして、終わらせよう。止めてみせるぞ、俺たちでな」


「……おう。力を貸してくれ、みんな!」


「無論だ。行くぞ、お前たち!」


 二人だけではなく、託されたものはあまりにも多い。だからこそ俺たちは、必ず届かせなければならない。この戦いを、終わらせるために。――決戦だ。
















 この砦で、戦いが始まったらしい。俺は……浩輝のそばで、その話を聞くしかなかった。



 少し前に、俺たちは部屋を移された。負傷者とか戦えない人を、できるだけ同じ場所にまとめて守るためだ。

 俺はせめて、動けない人に水を運んだり、俺でもできるような小さな手伝いだけはやっている。


 怖い。こうなる前の俺は、戦えていたみたいだけど。戦いだなんて、怖くてたまらない。PSは使えるけれど、本物の戦いに使えるようなものじゃない。もし襲われでもしたら……終わりだって、分かっている。

 それでも……浩輝が、ここにいるんだ。だったら、俺は……そばにいてやらないと。何ができるわけでもなくたって、俺だけは……絶対にこいつをひとりにはしない。



 同じ部屋にはいま、美久さんと飛鳥さん、それからフィーネさんもいる。空間転移って手段があるかもしれないらしくて、中を守っているんだ。

 三人は戦いが始まる前、俺に声をかけてくれた。


「心配しないで、海翔くん。浩輝くんも、海翔くんも、私たちが必ず守るから……!」


「ええ、そうよ。だからあんたは、浩輝のこと見といてやりなさい」


「仮に直接乗り込んできても、この三人ならば撃ち落とせる。あなた達が傷付くことはないと断言しておく」


「……うん。みんな……ありがとう。気を付けてくれ」


 その言葉は、理屈じゃなくて信じることができた。俺の中にかすかに残った、みんなへの信頼のおかげ、だと思う。


 ……俺は、みんなのことを、本当はほとんど思い出せない。名前とか、どんな人だとかは、何となく分かるけれど……。何とか断片を頼りに、呼び方とかは元の俺に近付けようとしている。誤魔化しきれてはいない気がするけど。

 だけど……何だろう。俺の中のどこかが、すごく苦しいって言っている。大切なものを、無くしてしまったみたいで……俺にとってみんなが、そういう存在だったってこと、なんだと思う。

 特に、美久さんのことと……蓮のこと。ふたりを思うと、心にぽっかり穴が空いているんだってことを、感じてしまう。みんなもたまに、辛い顔をしている。俺も、浩輝も……大事に、思われていたんだって分かる。



 部屋を見る。三人の他には、あの人……アゼルさんも、さっきやって来た。そして、浩輝の様子を見てくれている。

 時々、難しい顔をしている様子に、俺は途中で我慢できなくなって声をかけた。


「どうなんですか、浩輝は……?」


「身体はやっぱり、何の問題もないかな。もう、本当ならばとっくに目を覚ましていてもおかしくない状態だ」


「でも……浩輝は、眠り続けています。呼びかけても、触れても、反応が全く無くて……」


「心配はしなくても、いずれ目覚めはすると思う。けれど……眠りがこうも長いのは、心の傷が深すぎるせいかもしれない」


「心の、傷……」


「ボクは軽くしか事情は聞いていないけどね。目を覚ますことを、無意識に拒否してしまうような……そんな状態って思えばいいかな」


 心当たりは……もちろんある。俺が、死にかけてしまったこと。また、あの時と同じように、こいつの目の前で。それで浩輝は力を暴走させて、俺は。

 俺も、巻き戻る直前の記憶だけははっきりしている。あの状況で、浩輝がどこまで現状を把握できたかは分からない。だけど、もし……俺がまたこうなったことに気付いていたとしたら、余計に。


「どうにか、できないんですか」


「こればかりは、時間が解決するしかないよ、()()()ね。起きてから、ゆっくりと話をしてあげる……待つ側は、どれだけもどかしくても、待つしかないんだ」


「でも……苦しんでいるのを、ただ見ているだけなんて。俺は……」


 分かっている。アゼルさんの言う通りで、俺は無理を言っている。できないけれど認めなくなくて、泣き言を吐いているだけだ。

 でも……でも。あの時だって、一日で目覚めたのに。こんなにも起きないのが、こいつの心が苦しんでいるからだとしたら……あの時よりもっと、苦しいんだとしたら。



 気が付くと、博士は真剣な目を俺に向けてきていた。



「本当に、どうしても、声を届けたいのかい?」


「……それができるなら、どんなことだってやりたいです」


「それが、君に危険がある手段だったとしても?」


 その質問に、俺は面食らった。思いもよらない質問だったってこともあるけれど、それ以上に。


「あるんですか? そういう手段が……」


 聞き返すと、アゼルさんは肩をすくめた。それが無いんだったら、きっとこんな質問はされないはずだ。


「ある……とも言い切れないところだね。それも含めて、賭けになると言えばいい。ボクが試した限りで、上手くいったことはないからさ」


 言いながら、アゼルさんは……自分の鞄から、何かを取り出した。……黄金色の、石?


「それは……」


「バストール地下遺跡で拾ったものだよ。マリクという男が残したらしいもの……瑠奈くんが、ガルフレア君の心の中に入った時に使われたというやつさ」


「!」


 心の中に、入った……?

 確かに、ぼんやりと、そんな話を聞いたことが、あるような……。いや、でも。覚えてなくても、意味は分かる。心の中に入るってことは。


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