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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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ジークルードの決戦

 突入部隊を離脱させてから、俺たちはそのまま手分けしてジークルードの守りを固めた。


「暁斗、突っ込みすぎないようにね! まずい時は、あたしの後ろまで下がって!」


「ああ! イリアと瑠奈も、背中は任せたぜ!」


「うん! 援護するよ、お兄ちゃん!」


 瑠奈は後ろからみんなの支援。イリアは少し前に出て牽制と防御。俺は軍の前衛と一緒に切り込み。軍と連携しつつだけど、いつもの布陣だ。


 現れたUDBたちと交戦が始まるまで、さほど時間はなかった。だけど、俺たちだってずっと、急襲の備えとそのための戦略は決めていた。

 外からの襲撃に備えるための砦だけど、転移で四方を囲まれて、しかもUDBが戦術立てして襲ってくるなんてのはイレギュラーだ。敵には大型のUDBもいるし、先生やランドさんだって、二人だけで全てを守れるわけじゃない。

 何よりあいつらには空間転移があるから、正面だけ固めるわけにはいかない。軍と砦の防衛機能で周囲の守りを固めつつ、ギルドも戦力を分けて、遊撃のような形で動いている。

 後は、最悪の場合だけど、内部に直接転移された時の備え。医務室、負傷者や非戦闘員が集められた箇所の防衛。こっちには、美久とか飛鳥がついてくれている。


 ただ……もしも本当に砦の中まで無制限に空間転移ができるなら、ジークルードはきっと、すぐに落とされていた。

 空間転移で一気に攻め落とすような真似をしてこないってことは、転移の物量に上限があるのか、どこにでも飛べるわけじゃないのか……推測だけど、何かしらの制限があるって考えられる。

 もちろん油断は禁物だ。今までが今までだし、できるけどまだやってないだけ、って可能性もある。でも、どちらにしても……まずはここを、守り切る必要があるのは同じだ。

 俺たちだって、戦力として信用されているから、こうやって任されているんだ。……やってやる。俺たちは、勝たなきゃいけない。


『無駄ナ抵抗ヲ! 聖女サマノ意思ニ従ワヌ愚カ者タチガ!』


「何が聖女さまだ、見え見えの芝居しやがって!」


「芝居ではないとも。こうすることがヴィントール様の判断ならば、我らに何の迷いもない!」


 相変わらず、数が多い。それに、こいつらだけで攻めてきたわけじゃないだろう。こいつらは先鋒、いつ本命が来るかは分からない。

 今回は、とにかく焦らず、守りを優先すべきだ。マスター達が聖女を止めれば流れも変わるし……マスターの()もある。力を温存しつつ、何とか守り切れば……!



 ――背筋に、ぞくりとしたものが走る。

 乱戦の中、俺の視界に映ったのは……光の棘。


「っ!!」


 当たったらまずいことを直感で把握して、俺は大きく跳んだ。ギリギリだけど、何とか回避に成功する。

 幻影神速は反応速度も強化してくれるから、そうじゃなかったらやばかった。そして、それを撃ってきた相手は……。


「あ、あれ、当たらなかった。思ったより勘がいいんだ……?」


 いかにも気弱そうな雰囲気だけ出した、犬の耳を持つハイブリッド。こいつの名前を、俺たちはもう知っている。


「暁斗!」


「平気だ! ……お前が、ロディか!」


「そ、そんなに睨まないでよ、怖いなあ……。初対面でしょ?」


 軍の人を殺して、ハーメリアを襲って、ヘリオスさんを倒れさせた……あの狂犬の、義兄弟。殺すためのPSまで使っといて、まるで機嫌を伺うような言葉が、今の俺にはすごくむかついた。


「戦いの中に出てきて言うことじゃないでしょう、それは!」


「し、しょうがないじゃないか。こうしないと、兄さんに怒られちゃうし……」


「だったら、お前を潰して兄貴を炙り出してやる……! お前らは、格別に許せねえんだよ!」


「ひ……!?」


 腹の中、全部が燃えちまってるみたいに熱い。こいつの兄貴はもちろん、こんだけのことをしといて他人事のこいつも、絶対に許さねえ。


「き、君、いきなり怖くて嫌いだ……! 」


「そうかよ、奇遇だな。俺もお前が大嫌いみてえだ!」


 そのまま突撃して、切り込む。が、ロディはダガーを取り出すと、俺の銃剣を難なく受け止めた。やっぱり、簡単には行かねえか!


「お兄ちゃん!」


「こいつは、俺が引き付ける! 周りのみんなも、近付きすぎないでくれ!」


「……分かった! でも、無茶はしないで!」


 焦ってるわけじゃないが……こいつの能力は危険すぎる。他に受け止められるのはイリアぐらいだ。そうなれば、前衛で回避できる俺が引き受けるのが最善だろう。

 何度かブレードと銃弾を放つ。ロディは見た目に反して、それを的確にいなしながら、また棘を放ってきた。直線的だから回避は難しくないけど、一発でも喰らったら終わりだ。


「君が、悪いんだよ? 襲ってくるなら……殺しても、仕方ないよね……?」


「ふざけんなよ。そう簡単に、殺せると思うなクソ野郎!!」


 負けてたまるか。こんな奴らには、絶対に。あいつらを終わりにしないためにも、俺は……!











 ――同時刻。テルム地下遺跡。



『クソ。テメエラ、ドコカラ……!!』


「遅い!」


「グッハハハハ! たっぷり受け取りなぁ!!」


 指定された地点は、元首たちの語る通りに、ロウの力ですぐさま掘り起こすことができた。突入を果たした俺たちは、聖女がいるであろう最深部を目指して進んでいく。

 とはいえ、遺跡の中にはUDBが巡回していた。このメンバーならば物の数ではないが、何度か交戦した以上、相手にも俺たちが入ってきたことには気付かれただろう。


「さすがにすんなり聖女と対面、とは行かんか。首都まで繋がっているほどの遺跡だ、広さも相当ありそうだな」


「ですが、後は駆け抜けるだけです。元首、そちらも見付からないようにお気を付けください」


『吾輩、身を隠すのと逃げるのは大得意さ。荒事を任せて申し訳ないが、こちらのことは心配無用だよ!』


 元首は、遺跡の入り口で無事な姿を俺たちの前に見せると、通信端末を渡し、そのまま姿を隠した。遺跡に同行させるのは難しいにしろ、彼が狙われている状況下、護衛をつけることも提案したのだが……彼はそれよりもこの戦いに全戦力をぶつけることを指示した。


『もちろん、やるべきことはやるとも。最悪、吾輩が討たれたとて、君たちが勝利すればどうにかなるように仕込みは万全さ、はっはっは!』


「笑い事ではないぞ、元首殿……」


「まったく……こんな状況でも、お前は本当に変わらんな」


『こんな状況だからこそだよ、ウェアルド君。どれだけ傷を負ったとて。どれだけ怒りを燃やしたとて。吾輩はいつだって変わらず、笑って苦難と相対してやると決めているのだ』


「……ちょっと、分かる気がするぜ。振る舞うことが大事っての、あるもんだよな」


 それがこの人の信念だと、俺にも分かる。そんな振る舞いが今は頼もしかった。そして……彼がこうして通信を繋いだ状態にしているのには、理由がある。彼の言う、やるべきこと……それは、聖女の正体に関するものだ。

 ……元首から告げられた彼女の正体は、アトラがここに来る道中で語った可能性と、一致してしまった。元から覚悟していたとしても、辛いに決まっている。……あのときの彼女が、聖女などと。

 だが、こいつは、その可能性を理解しながらここまで来た。今だって、前を向いている。ならば、俺にできることは……家族として、友として、こいつの覚悟を支えることだ。


 それからしばらくは、ただひたすらに進んで……やがて、広さのある部屋に出た。バストールの遺跡で、アンセルが正体を表した部屋と同じような場所。

 何かを仕掛けてくるならば、丁度いいポイントだ。俺がそう考えたのとどちらが早かったか……案の定、部屋の中央に、聖女と側近の姿が急に浮かび上がった。

 ……映像か。かつてサングリーズで、ウェア達はマリクの本物と見分けがつかないほどの投影に惑わされたという。それと同じものだろう。


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