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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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迫る決戦、彼らの選択

 赤牙は手分けして、砦の立て直しに協力していた。


 残された時間は、リュートの言葉によれば二日……。可能であれば、敵が動くよりも先に反撃をしたいが、その余裕は俺たちにはない。そもそも、どこを拠点としているかも分からない。

 可能性があるとすれば遺跡だろうが、街から追い出されたギルドの潜入を簡単に許してくれるとは思えない。かといって、軍と共に大挙して街に乗り込むわけにもいかない。


 いずれにせよ、主戦力を欠いた砦が奇襲でもされれば無数の犠牲が出るだろう。時間をかけてでも、足元を固める必要しかない。どう動くにしても拠点は必要になるし、街に戻れない以上はここが最適だ。

 リカルド元首がいればもう少し円滑に事が進んだのだろうが……彼とアゼル博士とは、未だ連絡が取れない。敵に捕らわれたりしていなければよいのだが。


 そんな中、俺は、ヘリオスが無事に目を覚ましたという情報をアトラから聞くことになった。


「そうか……ひとまず、憂いはひとつ減ったな」


 暗い話題ばかりが続いていた中で、久々に気持ちが軽くなる話だった。もっとも、孤児院の仲間が命を落とした事など、彼には辛い話ばかりだったろうがな……。


「つっても、何日かは安静って感じだ。あいつが落ち着いて休めるよう、俺らが頑張らないとな」


「しかし……少し心配だ。ハーメリアの事もあった以上、無理をしなければ良いんだが」


「それ、ガルが言うのかよ?」


「む……。いや、人のことを言えないのは分かっているがな……」


「はは、わりい。けど、その辺はあまり心配しなくていいぜ」


 赤豹は、どんな話をしたのかを、かいつまんで説明してくれた。彼が何かを悩み続けていたことも、その上でみんなの言葉を受けて託してくれたことも。

 アトラも、改めて覚悟を固めたように見える。友を亡くし、故郷が荒らされ、彼は特に辛い思いをしているはずだ。それでもこいつは、しっかり前を向いている。本当に……尊敬する。


「しかし、その様子ならばハーメリアもひとつ吹っ切れたか」


「おう。ロウとか親と話すっつってたけど、どうなるかはあいつ次第、って感じだな」


 もちろん、昨日の今日で全てを改めたわけではないだろうが……アトラの言うとおり、ここから先は彼女次第だな。


「で……こっちのみんなはどうだ?」


 その問いには、俺は首を横に振る。だろうな、と呟いて、アトラも肩を落とした。


「どこもかしこも問題だらけか。……お前も無理しすぎんなよ、ガル」


「ああ……お互いにな」


 みんなが苦しんでいることは分かるが、今は単純な言葉ではどうにもならないだろう。浩輝と海翔を、どうにかしてやることができない以上は。

 だから、せめて全てを懸けて護ろう。彼らに、この先があるように……仲間として、俺ができることを。











 コウが治療を受けてる医務室の前。私と暁斗は、その近くの椅子で座り込んでる。



 ……一日経っても、コウは起きなかった。静かに目を閉じて、まるで普通に眠ってるみたいだけど……どうしても、とても苦しそうに見えちゃう。

 カイは、眠り続けるコウの側にずっといる。夜は無理に寝かせたらしいけど、それでもコウと同じ部屋にいさせてくれって、ここで寝てたらしい。


 さっきまでレンと三人で様子を見に来て、中で話してたんだけど……途中で、何も言葉が出てこなくなって、こうして外に出てきた。

 レンは、思い詰めた表情のまま一人で歩いていった。彼のことも、放っておいたらいけないと思う、けど……今の私は、慰めのひとつも浮かんでこない。何を言ったらいいか、まるで分からない。


「暁斗」


「……なんだ?」


「何もできないままだね……私」


 こんな弱音を吐いたって、どうしようもないのは分かってる。でも、耐えられなかった。最近の私は、いつもこうだ。


「コウも、カイも、助けられない。ガルの時だって、見てるだけだった。すぐ近くにいるはずなのに……誰の力にも、なってあげられない」


「……止めろよ。こんなの、誰だってどうしようもなかったんだ。そう思うしか、ないだろ」


「……うん、それは分かってるんだ。できることを、一つずつやるしかないって。でも、さすがに……ちょっと、きついよ」


 覚悟してたはずでも、あんなに沢山の人が、目の前で死んでしまった。助けられなかったってことが、すごく苦しい。

 カイが、目の前で死にそうになった時も……私は、何もできなかった。誰だって、あっという間に死んじゃうんだってこと……それが怖いって、改めて思った。私だって、いつそうなるか分からない。怖い。本当に、怖いよ。


 全部を私でやれるなんて思ってたわけじゃない。でも、本当に、自分にやれることなんてたかが知れてて……大切な友達の力にすらなれない、そんな力の無さが、ものすごく悔しかった。


「瑠奈。お前は次の戦い、出るつもりなのか?」


 そう言われて、私は顔を上げた。

 それは、朝にも全員がマスターから聞かれたことだ。このまま戦うか、ゆっくり考えて決めてくれ、って。


「俺も今さら、お前が戦うのが嫌とか言うつもりはない。だけど……今のお前は、休んだ方がいいんじゃないかって思う」


「………………」


 今の私に、戦えるのか。それは、私だって考えてた。

 このままにはしたくない、って気持ち。悔しさ。私に何ができるのか、って気持ち。怖さ。それがぶつかって、決められないままでいた。


「お兄ちゃんは……どうするの?」


「俺は、戦うよ。……戦える」


 暁斗は、すぐにそう答えてきた。もう、とっくに決めてたんだろう。


「強い、ね……お兄ちゃんは。私も、覚悟できてたつもりだったけど。ぜんぜん、足りなかったみたい」


「……違うよ。俺だって……そんな、立派な覚悟があるわけじゃないんだ。ただ……」


 そこで暁斗は、どうしてか目をそらした。それから、少しだけ迷うような素振りを見せて……ゆっくり、口を開く。


()()()()んだ」


「え……」


「身勝手な理屈で俺たちを嵌めてきた聖女たちも。カイと浩輝をこんなことにしたリュートの野郎も。あいつらが好き勝手やるってのに、見てるだけなんて……我慢ならねえ。それだけ、なんだよ」


 お兄ちゃんは、私でも滅多に見ないような、怖い顔をしてた。私の視線でそれを自覚したのか、深くため息をついた。


「……ちょっと引くよな。怖いのより、そっちが勝っちまった。あんな奴らの思い通りになんてなってたまるか、ってさ」


「暁斗……」


「聖女が正しいなんて、俺は認めねえ。フィオとかノックスの気持ちも知らねえで、ただUDBってだけで追い払ってきた周りの奴らも。あいつの言葉なら全部正しいみたいなのが、何も考えずに誰かを傷付けられる奴らが、気持ち悪くてたまらねえ」


 溜め込んでたらしい気持ちを、暁斗は吐き出していく。もちろん、私だって昨日のことは許せない。だけど、暁斗はそれよりもずっと、ずっと、強い感情を燃やしてたらしい。


「リュートは言うまでもねえだろ。カイは、俺の親友なんだ。浩輝は、弟みたいなやつなんだ。……あいつらがどうして、あんな思いしなきゃならねえんだ。許さねえ。絶対に、何があっても」


 その気持ちは、理解できる。でも、それと同時に……すごく、不安になった。怒って、憎んで……そういう気持ちで、戦うのは。


「……そんな、心配そうな目をするなよ。大丈夫だ。やることを見失ったりはしない。あいつらを理由に、そんなみっともないことできるかよ」


 暁斗は少し困ったように笑って、私の頭を撫でてきた。私を安心させようとした時には、昔からいつだってこうしてくれる。

 ……最近になって、気付いた。暁斗は、こうやって私を慰めながら、お兄ちゃん自身の不安とかを隠そうとしてるんだって。今はたぶん、暗い気持ちも。


 だけど……そうだ。少しだけ、考えがすっきりした。お兄ちゃんを見て、放っておけないって思ったのも、ちょっとあるけど。


「私も、戦う」


「……やれるのか?」


「やるよ。……お兄ちゃんみたいに、奮い立ちはできないかもしれないけど。私にだって、戦える理由はある」


 コウは、色々と検討した結果、砦に残すことになった。

 元々は、戦わない人たちと一緒に街に運ぶはずだった。だけど、今のこの国は……聖女の信者たちが勝手をしているらしい。

 聖女が表に出てきたことで、一気に活動が過激になったみたいだ。特に首都の辺りでは、自分たちで取り締まりまで始めたって、軍の人からの情報だ。

 ギルドのメンバーが戻ってきていないか、も調べているらしくて……コウ達だけ戻して襲われたりしたら、どうしようもない。そのぐらいしそうなくらい、今のあの人たちは暴走してる。


 そうなると、ここに残す方がまだましだ。またここで戦いが起きる可能性もあるけど……逆に、戦力がここに集まるなら、他より安全とも言えるから。


 カイも、そんな彼の側を離れようとはしないだろう。だったら……私は、二人を守りたい。

 コウはいつだって、何度だって私の力になってくれた。私のことを誰より理解してくれる、一番の親友だ。彼はきっと、今回のことでまた、もっともっと傷付いた。だったら、今度は私が力になる。いっぱい、今までの恩返しをしたい。

 カイはどんな時だって、みんなのことを支えてくれた。昔、カイは私にとって、もう一人のお兄ちゃんみたいな人だった。考えてみたらあの時からずっと、カイには支えられっぱなしだ。だから、今度は私が支える。もしあのままだったとしても……私はカイの友達なんだから。


「どれだけ怖くても、あの時みんなが飛び込んできてくれたみたいに……私も、二人のためなら戦えるよ。力になりたいって気持ちは、負けてないから」


「……そっか。じゃあ、俺も止めない。一緒に戦おうぜ、瑠奈」


 何もできない。何もできてない。……だったら、できることを探すんだ。立ち止まる前に、やることがある。力になれなくて悔しかったなら、今度こそ力になる。二人のことをどうにかするためにも……勝たなきゃいけない。




 決めてしまって、ちょっとだけ周りを気にする余裕ができた。

 ……レンは、大丈夫だろうか。







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