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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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混迷の大会

「な……何だ!?」


 人が多すぎて、ここからは出入り口の詳しい状況は見えない。しかし、人々の叫び声の合間に聞こえたそれは、獣の咆哮だった。まさか、入口にもUDBが?


「いったい何が起こってんだよ、カイ!?」


「知らねえよ! 俺に聞くな!!」


「ど、どうすればいいんだ!? ルナや兄貴たちは!?」


「ちくしょう、何だって言うんだよ!」


 みんなの混乱した声が飛び交う。当然だ、いくら強くとも彼らは高校生。こんな事態に対応できるはずがない。

 幸いなのは、舞台の上も入口も、UDBが何故かまだ動きを見せないことだ。だが、それもいつまで続くか分からない。よりによって、慎吾やみんながいないこの時に……!

 だが、いない者のことを言っても仕方ない。俺が何とかしないと……しかし、どうすれば?


 ……く、俺も混乱しているか。いつものように俺一人であれば、この程度を切り抜けるのはたやすいが……。


 ……()()()()()()()


「……くぅ……!?」


 自分の思考に疑問を持った直後、頭痛がさらに激しくなった。頭が、割れそうだ……!


「ガル!!」


 恐怖と焦りからだろう、暁斗が叫ぶ。だが、入り口の騒動を考えると、彼らを先に逃がすわけにもいかない。……この程度の頭痛が何だ。俺が、彼らを!


「みんな……俺のそばから離れるな! 俺が絶対、お前達を護るから!」


『!』


「俺を、信じてくれ」


 みんなの表情が、多少なりとも落ち着いていく。


「……分かった。信じるぜ」


 海翔が宣言する。意外にも、一番冷静なのは彼なようだ。


「お、俺もだ……!」


「信頼してるぞ、先生……!」


「お前なら、大丈夫だよな……!」


 他のみんなも、声は震えているものの、ひとまず最低限の落ち着きを取り戻す。俺の頭痛は鎮まってくれそうにないが、泣き言など言っていられない。


「慎吾達は会場の外だから大丈夫だろう。とにかく、瑠奈と合流するぞ……!」


「あ、ああ!」


 四方八方から聞こえてくる悲鳴、咆哮。あらゆる入口が、UDBによって封鎖されているのだろう。他の生徒も会場中にいるはずだが、まだ被害が出た様子はない。取り返しがつかなくなる前に、俺にできることを……!


「うわああああぁッ!!」


「!?」


 だが、事態はどうやら悪い方向に向かいつつあるようだ。この悲鳴は、舞台からか!


「大会のスタッフが!」


 不運にも、舞台の整備を行っていた犬人の青年。放心状態に陥り逃げ遅れたその人物が、ついに動き始めた牛鬼に襲われたのだ。


「ガル、UDBが!!」


「分かっている、だが……!」


 ミノタウロスの剛腕が、青年に振り下ろされる。彼が必死に避けたため、その一撃は何とか逸れた。しかしどう見ても、当たるのは時間の問題だった。このままではまずい、彼を助けなければ。しかし、間に合うか……!?


「あっ!!」


 次の一撃を横っ飛びに避けた青年は、勢い余って転んでしまった。


「くそ……!!」


 俺はリングに飛び降りようと駆け出したが、あまりにも時間が無さ過ぎる。無慈悲にも、ミノタウロスの拳はその人へと迫り――




 爆音が、響いた。


 そして、悲鳴が上がった。


 青年ではなく、ミノタウロスの悲鳴が。



「な……」


 俺達は、言葉を失った。俺は、舞台へ飛び込もうとした直前の体勢で、動きを止めてしまう。

 青年に牛鬼の拳が直撃するかと思われた瞬間。ミノタウロスの拳で、爆発が起こったのだ。


 だが、それは決して青年のPSではなかった。その証拠に、青年は未だに状況がつかめていないようで、涙を流したまま唖然としている。


 ……俺は、見た。爆炎が巻き起こる瞬間、ミノタウロスの拳めがけて、一本の矢が飛んでいくのを。


 そして、俺の眼ははっきりと捉えた。矢を放った人物を――


「瑠奈……!!」


 弓を構えていたのは、紛れもなく……俺の護るべき少女だった。


 予想だにしていなかった状況。一刻も早く助けに行かなければ……だが、他のみんなも放ってはおけない。ふたつの焦燥が衝突して、一瞬だけ思考が凍った。それでも、俺の中にある経験は、窮地に慣れているようだ。すぐに我を取り戻すことができた。


「みんな! 俺が行くから、お前達はここで――」


 ――俺はここで、判断を間違えてしまった。待っていろと告げるために、足を止めて、振り返ってしまったのだ。そして、その刹那。


「瑠奈あぁッ!!」


「今……行くぞ!!」


 俺の横を、二つの影が走り抜けていき、迷うことなく舞台へと飛び降りていく。……暁斗、蓮!?

 蓮の力を使ったのだろう、二人は一気に地面へと降り立ち、駆け出した。そして、彼らだけではなかった。


「馬鹿野郎どもが!!」


「ちっくしょう!!」


 舌打ちと共に海翔も駆け出し、翼を広げる。浩輝も飛び出した海翔の腕に掴まり、一緒に降りていった。

 まさか、迷いなく飛び出すなどと。だが、いくら彼らが才能あるとしても、目の前にいるのは戦い慣れた軍人だろうと苦戦する、中級の魔獣なのだ。訓練用の武器では、とても対峙できるものではない。


「くそ、待つんだ、お前達!!」


 俺も、すぐさま追いかける。

 それは、ほんの一瞬、一歩の差。すぐに追いつけるはずのものだった。




 しかし――次の瞬間、俺は光に囲まれた。


「ぐっ!?」


 それは、ただの光ではなかった。俺の体は、その光に衝突した瞬間、物理的に弾き飛ばされたのだ。

 痛みと衝撃に怯んでいるうちに、みんなだけがリングに降り立つ。その事実に、俺は総毛立った。


「何だ、これは!?」


 気が付くと、俺の周り全てが光の壁に覆われている。それに向かい、全力で拳を突き出してみるが、壁はびくともしなかった。閉じ込められた……!?


「捕獲完了、だな」


 俺の後ろから聞こえてきた男の声。振り返ると、そこには見下したような視線を俺に向ける、人間の男がいた。


「〈光牢結界(フォトンプリズン)〉、か。つくづく恐ろしい発明だ。彼だけは敵に回せないな」


 光牢結界……それがこの檻の名か? この男はいったい……いや、そんなことはどうでもいい! 急がなければ、みんなが!


「これは貴様の仕業か!? ここから出せ!」


「出せないな。貴様のような化け物がいては邪魔になるんだよ、銀月」


「……!?」


 ……銀月?


「記憶と能力を失ったにしろ、貴様の戦闘力は驚異的だ。自由にさせては、目的の障害となる。それがマリク殿の助言なのでな」


「な……」


 こいつは何を言っているんだ? それに、銀月という言葉が、妙に頭から離れない。


「しかし無謀だな、あの子供達も。だが、丁度良い。彼らには見せしめになってもらうか」


「見せしめだと……!?」


「ああ。彼らが死ねば、平和の幻想を打ち砕くのに役立ってくれるだろう」


「ふざけるな!!」


「ふん、いちいち吠えるな。それに、狙ってやっているわけではない。UDBのコントロールは割と難しくてな。入口を塞がせたDランク程度ならば完全に言うことを聞くが……牛鬼はCランク。目の前の獲物には、命令を無視して反応するようだな」


 目の前の、獲物。だから、先ほども青年に反応して襲い掛かった。それならば、次は……!!


「止めろ! 今すぐに止めるんだ!!」


「言っただろう?俺が命令を下しているわけじゃない。それに、お前の願いを聞くつもりもない。無闇に死者を出すつもりは無かったが、だからといって出さないように苦心する義理も無いな」


「貴様……!!」


「黙っていろ、銀月。そして思い知れ。貴様に平穏などありえないことをな」


 見ると、会場の要所に、次々とUDBが転移を始めていた。そして、舞台の上では――





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