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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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異常な怪物

「しかし、リューディリッツの力は、あまりにも異常だった。俺の見た限り、ウェアであっても勝てると言い切れないほどに」


「そこまで、かよ……マスターと戦えるやつとか、全く想像つかねえぞ」


「ガルの言葉も大袈裟ではない。ウェアが能力を全力で使えば、抑えることもできるだろうが……それでも、互角になるだろう。あいつの全力が不明である以上、推測だがな」


「……俺とて無敵ではないからな。同等以上の使い手がいること自体は、何ら不思議ではない」


 誠司の評価であれぱ、誤っている可能性は低い。悔しいが……俺も、今のままでは、一人であの男に勝てはしないだろう。月の守護者さえ完全ならば、食らいつくことはできるかもしれないが。


「けどさ。昔のそいつは、強いと言ってもそこまでには聞こえなかったんだけど。動揺させないと打つ手がなかったみたいだし。何年かあるにしても、そんなに強くなれるものかな?」


「それも含めてだが……色々なことが腑に落ちない、という印象だ。奴の強さは、あまりにも異質すぎた」


「異質?」


「圧倒的な身体能力……人を喰らったということ。それ以外に、言語化できない直感も混じってはいるんだが……あれは、人が鍛えた果てにあるものには見えない。まるで……」


()()()()()()()()()、か?」


 俺が言いかけた言葉を、誠司が引き継ぐ。そう、俺が感じたのは、まさにそれだった。


「誠司も同じことを思ったのか?」


「ああ。あの、技巧をかなぐり捨てた、圧倒的な身体能力だけを頼りにした戦闘。純粋な、暴力の塊。人の技には見えなかった。むしろ、かつてオレ達が戦ったUDBに近いと思ったんだ」


 もちろん、あいつが人であることは俺も誠司も見ている。だが、その上でなお、人とは思えない何かがある。その残虐性を人の所業と思いたくないのもあるかもしれないが……それとも違う何かが、本能が訴えかけてくる。


「あたしは直接見ていませんが……そういうPS、だということでしょうか?」


「いいや。海翔が言っていただろう? あいつのPSは、遠くにいた海翔を攻撃するようなものだった、と」


「あ……。でも、だとしたら、どういうことでしょう?」


 もちろん、当時の混沌とした状況下で、彼らも全てを正確に覚えているわけではないだろう。だが、海翔を殺しかけたのは、リュートの力である可能性は高いと思われる。

 獣のような肉体を得る力。遠隔を攻撃する力。両方を併せ持つ可能性もゼロではないが、聞いた限りその両者は隔絶している。そもそも、あの身体能力は、本当にPSによるものなのか?


「マリクという人の転移装置は、PSの上書きによるものだと聞いています。ならば、獣のようになるPSを植え付けた、という可能性はありませんか?」


「あり得ない話ではないな……。いずれにせよ、あの男はあまりにも危険だ。感情を排して言えば……見付けたら、逃げるべきだと思う」


「それは……けどよ、このままそいつの好きにさせるのなんざ!」


「落ち着いて、アトラ。誰かが止めないといけないのは確実。けれど、私たちにマスターと同等の戦闘力はない。立ち向かうのは、無謀と推測」


 フィーネの言葉に頷く。分かってしまう。あいつと戦えば、この中の大半が、ほぼ確実に無駄死にに終わるだろうと。

 もちろん、あれを放置すればどれだけの被害が出るか分からない。個人的にも絶対に許せないし、背を向けるのは屈辱でしかないが……だからこそ、被害を減らすことに専念すべきだと思った。


「オレもガルと同じ意見だ。金色のコヨーテを見かけたら、全力を尽くして逃げろ。……無論、そのままにするつもりもないが。あいつには必ず、報いを受けさせてやるとも」


「……分かりました。でも、わたし達にできることがあれば、その時には何でも協力させてください……!」


「ああ、もちろんだ。多くの命を弄んだ……友を、仲間を傷付けたそいつを、許すわけにはいかない。その時には頼らせてもらうぞ?」


 どれだけ強大で、恐ろしい相手でも……今はそれ以上に、怒りが勝つ。あの男だけは、絶対に許さない。俺の刃が届かないのならば、刃を届かせられる者を全力で補助するだけだ。


「そいつが言っていたのは、三日後だったな。そこで、何かが起きると言うことか」


「ああ。信用ならないのは承知の上だがな」


「無論、鵜呑みにはできん。だが……そいつの言動を考えれば、真正面から蹂躙を望んだとして不思議ではないだろう」


 信用ならない破綻者だからこそ、逆に信憑性がある、か。いずれにせよ、連中が近いうちに仕掛けてくるのは確実だろう。


「俺と誠司、ランドとロウ、マックス……この中の誰か二人以上で当たらねばなるまい。問題は、どこでぶつかることになるかだが……」


 今日の襲撃で、砦の状況は凄惨たる有様だ。軍の中には、戦意喪失した者、逃げ出した者も多数いると聞くが、あそこまでの暴力を見せられれば無理もない。俺ですら、恐怖はあるからな。

 現状の、砦の戦力のみで戦い抜けるかは怪しい。かと言って、ここに戦力を集めて裏をかかれればそれで終わりだ。そもそも敵には転移もある。こちらの動きに合わせて行動を変えるくらい、造作もないだろう。

 ……受けに回れば、勝ち筋は非常に薄いな。しかし、どう攻勢に出る? 他に、向こうが狙うであろう重要なファクターと言えば……。


「そう言えば、遺跡はどうなったんだ? それに、元首やアゼル博士は……」


「残念ながら、分からん。俺とランドも、聖女の信者に半ば追い出されるような形で街を出たからな。何度か試してみたが、ふたりへの連絡も通じない」


「それは……大丈夫、なんでしょうか?」


「……なに。リカルドは、そう簡単に敵の思い通りになる男ではない。博士も共に動いていたはずだ。ならば俺たちのやるべきは、彼らが現れた時に最善の一手を繰り出せるよう、力を尽くしておくことだ」


 あいつのことだから備えはしているはず、どうせ最も美味しいタイミングで顔を出す……などと、ウェアは語る。元首のことを、何だかんだで信頼しているんだな。

 しかしこうなると、今は俺たちだけで現状をどうにかせねばならない。


「聖女とリグバルドが仲間だとすりゃ、ほとんど遺跡を奪われちまったようなもんだな……」


「そうでないとすれば、リグバルドと聖女がぶつかってくれるのですが。この状況では、最悪を想定して動くべきでしょうね」


 現状の聖女は、俺たちを陥れてきたことへの感情を抜きにすれば、まだ「国のために動いている」と考えられなくもない。だが、俺たちがこの砦に追いやられたこととリュートの襲撃……それが噛み合ったのは偶然か? リュートが状況を利用したとも考えられるが。

 ……俺も少し、疲弊しているのかもしれない。ここから何がどう動くか、想像はできても確定には至らないし、どうすべきか考えがまとまらないな。分かるのは……決戦が近付いているということだ。


「今回の相手にとって最大戦力は、リューディリッツだと考えて良いだろう。いずれにせよ、数の利は向こうにある。どのようにして頭を取るかが勝負だな」


 数だけならばどうにかなる。しかし、あの男がいる限り、流れを取り戻すことは難しそうだ。逆に、あいつさえ討ち取れれば……勝機は見える。


「でも、そいつを倒したとして……海翔は、ずっとあのまま、なのかしら……?」


「……それは」


 美久が呟いたその一言に、少しだけ沈黙が訪れる。

 ……前回は、一年の巻き戻し。だが、それを元に戻すことは、ついぞできなかった。今回は、それよりもさらに大幅な逆行だ。ならば……。


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