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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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二人の真実

 話を聞き終えて……誰も、何も言えなかった。聞くのが2回目である俺ですら、あまりにも……。


「俺の方が、先に意識を取り戻して……その時には、病院に運ばれていた。父さんと、母さんは、見つかった時にはもう……駄目だった、らしいけど」


「……海翔……」


「そして……今と同じで、その時の俺は、一年の時間が巻き戻っていた。もちろん、最初はそんなこと分からなかったけど」


 致命傷を負った海翔の時間を、浩輝は逆流させた。だが、暴走に近い能力の発現は、細かいコントロールができるものではなかった。

 海翔からすれば、記憶の混濁。突然、時間が飛んだような違和感。そういった状態だったらしい。


「でも……父さんと母さんのことで、それを気にする余裕もなくなって、さ」


 両親の死。それを落ち着いて受け止められる者の方が稀有だろう。そして、祝うはずだった日に友人や兄弟を失ったみんなも。


「だけど、俺よりも大変だったのは、浩輝の方だった」


 建物を倒壊させるほどに力を暴走させた以上、浩輝への負担も凄まじかった。幸いにして命に別状はなかったそうだが、彼が目覚めたのは数日後だったらしい。そして……全てを知ったあいつは、塞ぎ込んだ。


「あいつは、自分が力を暴走させたことを覚えていた。俺がどうしてこうなったかも……いくら悪人でも、自分の力が、たくさんの人を死なせてしまったことも」


 その倉庫からは、多くの遺体が見付かったらしい。……首謀者と思われるコヨーテの焦げた死体もあったと、昨日、ふたりは語っていた。リュートは、自分が逃げおおせたことを知られないよう、誰かを身代わりにしたのだろう。恐らくは、()()()の手によって。


「だから……何日かは、まともに話もできなくて。薬がないと、眠ることもできない状態だった。……悪夢にうなされながら、あいつは言っていた。ボクのせいで、って、何度も……」


「……浩輝が、自分の力を嫌っているのは……」


「うん……そうだ。あいつは、あの場で起きた全ての被害を、自分のせいだと思っている」


「そんな……! そんなはずない! だって、浩輝くんは、ひどい目に遭って、巻き込まれて、必死で……!」


 そう、浩輝は間違いなく被害者だ。そのあまりにも理不尽で悲しい認識に、飛鳥が我慢できず声を荒げて……彼女は、何かに気付いたように、目を見開いた。


「浩輝くん、もしかして……お父さん達が死んだのも、自分の力のせいだって思っているの……?」


「あ……」


 事情を知るみんなが、俯いた。……浩輝の力は、その日の出来事と深く結びついている。そして、その結末は、最悪と呼べるものになってしまったから。

 飛鳥の予想は、正しい。俺は昨日、本人の口からその考えを聞いていた。


『みんなは違うって言ってくれるけどさ。オレは、そうは思えねえよ。だって……オレが暴れてなけりゃ、あんだけ酷いことにはなってなかった。それは、絶対に間違いねえんだ』


『……聞く限り、お前の両親は戦いで重い傷を負っていた。それは、お前のせいではないだろう』


『うん……ありがとう。……それでも、だよ。オレにちゃんと周りが見えてりゃ……父さんと母さんの傷だって、治せたかもしれねえ。それに、気付けなかったんだ。あんな近くに、いたのにさ』


 自分の能力の暴走が両親も巻き込んだ。そのせいで、二人は死んでしまった。全てではなくとも、一因にはなってしまった。……少なくとも浩輝は、そう考えた。

 それに時の歯車は、誰かの傷を治すことだってできる。事実、瀕死の兄を、彼は助け出した。それなのに、すぐ近くで死にゆく両親に気付けなかった……救えなかった。自分には、それができたはずなのに、と。

 そして……己の力で命を救ったはずの海翔のことも……彼は。


 周囲の反応で答えを悟ったのだろう。飛鳥は、今にも泣き出しそうな顔になっていた。


「どうして、浩輝くんが……そんなのって……ない、よ……!」


「人は……自分ならばどうにかできたという可能性を、無視することが困難な生き物です。常に最善で生きることなど、誰だってできないのですが、ね」


 ジンの言う通りだと俺も思う。……同時に、それが頭で分かっていても、簡単には割り切れないことも理解する。事実、浩輝はそれが可能な力を持っていたからこそ、なおさらに。


『なあ、浩輝? お前はある意味で俺と共犯なんだぞ? お前の力が暴走しなければ、あの二人は……』


 あの時のリュートの言葉を思い出す。浩輝のせいなどではない。それでも自分の責任だと抱えた浩輝を、あの男は……最悪の言葉で、煽った。どこまでも、悪辣だ。虫酸が走る。


「それから……色々とあったけど、何日か経って、身体は調子を取り戻して……俺たちは、おじさん達に引き取られることになった。だけど、そこでどうしても問題があったんだ」


「問題……?」


「俺たちが、異種族の兄弟ってこと……だよ」


 ほんの少しだけ、遠慮するような様子だった。暁斗を気遣ったからだろう。


「当麻おじさ……父さんの家。優樹おじさんの家。どっちも、同じ種族の家族だ。どっちに行ったって、俺か浩輝、どちらかが浮くのは分かっていた」


「それは……」


「もちろん俺たちは、それ自体は気にしない。だけど、そうなったら、周りは理由を聞いてくるだろう? ……それに、浩輝が耐えられると思えなかった」


 嘘の理由を考えたとしても……聞かれるたびに、浩輝は考えてしまうだろう。両親を失ったことを、その理由を。

 ……家族の中で唯一の異種族。ヒトは、どうしてもそこに目を向けてしまう。海翔は、実態としてそれを知っていた。それで苦しんできた暁斗を、間近に見ていたから。


「だから俺は……あいつの兄であることを、隠すことにした。そして、本当の歳も隠して、同級生ってことにしたんだ。俺の身体は一年巻き戻ってるから嘘ではないし、それに……そうした方が、浩輝のそばにいられると考えたから」


 それが……彼らが兄弟であることを隠し、ふたりが別々の家に引き取られた理由。関係を変えてでも、浩輝を守り、近くにいることを選んだ……それが、海翔の選択。


「けど、それじゃあ……兄貴を兄貴って呼べないなんて、それだってあいつは苦しかったんじゃねえのか? それに海翔、お前だって……!」


「……そうだな。だから、本当に色々と考えて、おじさん達とも話し合ったよ。……何が一番正しかったかなんて今でも分からない。けど……この選択は、俺が考えて、決めたことだから。きっと俺は、何度やり直したって、同じことを選ぶんだと思う」


「……っ。いや……すまねえ。そう、だよな。お前たちの方が、よっぽど考えて……それを選んだんだよな」


「ううん、心配してくれてるのは分かっているよ。ありがとう、アトラ」


 巻き戻っても変わらない選択……か。本当に彼は昔から、強い男だったんだな。……だが。きっと彼はいま、ひとつ()()()()()()()。それに気付いてはいるが、ここで指摘をするほど野暮にはなれない。

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