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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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時が凍てついた日

 橘一家は、本当に仲の良い家族だと周囲からも評判だった。


 ひとつ違いの弟の面倒をよく見る、真面目で賢く、優しい海翔。そんな兄のことが大好きでいつも甘えていた、元気で明るい浩輝。二人は、いつも一緒に過ごしていた。

 父の橘 悠馬は、明るい性格の白い虎人だった。大人になってからも童心を忘れていない、子供たちと一緒に遊ぶのが大好きな男だった。

 母の橘 茜は、おしとやかな青い竜人だった。遊び回る夫と子供を優しく見守る、のんびりとした女性だった。一方でいざというときの押しは強く、悠馬や弟の当麻は未だに頭が上がらないそうだ。



「じゃあ、行ってくるね!」


「はい、行ってらっしゃい」


「みんな集まる時間までには帰ってくるんだぞー!」


「はは、俺もいるから大丈夫だよ」


 そしてこの日、兄弟はふたりで街へと買い物に出掛けた。今日は茜の誕生日だ。夜にはパーティーを開くことになっている。

 浩輝は気合を入れてそこで演奏する楽器の練習をしていたせいで、やや寝不足になってしまったらしい。


 例年だと、誰かの誕生日は家族みんなで祝う程度だったが、今回は事情があって、盛大にパーティーを開くことにしたのだ。


「浩輝、目はちゃんと覚めてるか?」


「大丈夫だよ。ボクだって楽しみだから、眠いのどっか行っちゃった。……ちゃんとやって、ルナのことも元気にしてあげたいし」


「そうだな……瑠奈ちゃん、最近はどうだ?」


「ボクとは普通に話してくれてるけど……やっぱり、家から出なくなってるみたい」


「そっか……それじゃ、確かに気合い入れないとな。瑠奈ちゃんも暁斗も、元気じゃないと俺も嫌だからな」


 瑠奈が能力の暴走を起こしてから、ひと月ほどが経過している。瑠奈は事件の後、一度だけは登校したが、それを最後に引き籠もっている。暁斗もそんな妹を優先して、最近は学校にほとんど来ていない。現在、転校の手続きを進めているそうだ。


 浩輝も海翔も、何とか綾瀬兄妹の力になろうと試行錯誤していた。そんな事態になるまで気付けなかった罪悪感もあるが、友達として二人には笑っていてほしい。そんな思いで、今日は家族揃って食事に招待したのだ。

 一連の事件は、橘兄弟にも大きな心の傷になっている。だが、だからこそ自分たちはいつもどおりに過ごして二人を支えよう、と決めたのだ。転校についても、自分たちもできるならば一緒に行きたい、という意思を両親に伝えてもいる。


「……うん、大丈夫。ボクがちゃんとルナを元気にする。だから海兄は、暁兄のこと元気にしてあげてよ」


「分かってるよ。あいつも明るく見えて、けっこう悩みやすいからな……変に責任抱え込むなって、言ってやらないとな」


 家族ぐるみの付き合いもあり、彼らはずっと親友だった。海翔からすれば、まだ瑠奈は妹のようなものだったが。二人のために、今日はとびきり楽しい催しにしようと、どちらも張り切っている。

 商店街に出た二人は、まず母へのプレゼントを探すつもりだ。いくつか目星をつけた上で、二人で見て決めようということにしている。

 それから、余った金で菓子類や飲み物を用意する計画である。料理については、今日は父が作ることになっていた。母と比べると豪快な料理ばかりを作る人だが、パーティーにはちょうどいいだろう。


「楓おばさんも、色々とご飯作ってくるって言ってたよ」


「え、ほんと? おばさんの料理、すっごくおいしいから楽しみだなぁ!」


「ははっ、だからって、父さんのより美味しいとか言うなよ? 泣いちゃうぞ、父さん」


「分かってるって。ボクだってそこまでバカじゃないよ!」


「そう言いつつ、お前は思ったことすぐ言っちゃうからなぁ……いっそ楽器でずっと口塞いでもらうか」


「もう、海兄! 食べれないじゃんそれじゃ!」


 そんな馬鹿話を交えつつ、二人は買うプレゼントについての意見を出し合い、店を見て回る。

 父には自分が金を出すと言われたが、今日は二人の小遣いで買ってあげるのだと決めていた。そこまで高いものは用意できないが、喜んでもらうためにもしっかり選びたい。母はその気持ちだけで喜んでくれるだろうが、それはそれだ。



 そんな時だった。二人が、人だかりに気付いたのは。



「なに……なんか、騒がしくない?」


「見ろ、浩輝! 向こう、車が燃えてる……!」


「え……!」


 海翔に言われて見ると、確かに道路のど真ん中に停められた車が、派手に炎上していた。突然の騒ぎに、商店街には混乱が巻き起こっている。


「ど、どうしよ、海兄!?」


「どうしよったって、俺たちは邪魔にならないようにするぐらいしか……人が乗っていなかったらいいんだけど……」


 そう言いつつ、海翔も気が気でない様子で、せわしなく尻尾を動かしている。子供が手伝ってもどうしようもない、しかし無視して他の場所に行く気にもならない、と、二人は遠目に眺めるしかできなかった。



 その時、二人を含めて、周囲の人々の注意は、どうしても騒動の中心へと向いていた。だからこそ――。


「…………え」






 この火災は、幸いにも犠牲は出ずに済んだ。燃えた車の中には誰もおらず、迅速な消火活動により周囲に燃え広がることもなかった。

 車の持ち主が誰かも分からず、妙に不審な点が多かったが、大した被害はなかった。放火も疑われたが、後続の事件が起こったわけでもない。そのため、人々の記憶にはそこまで留まらない程度の騒動として終わった。



 ――誰一人として気付かなかった。

 火災騒ぎに誰もが気を取られた影で、二人の少年が姿を消していたことに――





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