表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
339/429

巻き戻された歯車

 ……砦の惨状を、手分けして落ち着かせてから……赤牙は、一室を借りて集まっていた。


 マスター達や他のギルドも、もう砦に合流している。ウェア達は、自分たちが不在の時に起きてしまったこの事態に、悲痛な顔をしていたが……今は後悔する時ではない、と前を向くのも早かった。率先して砦の体勢を立て直すことに尽力している。

 遺跡がどうなったか、アゼル博士や元首がどうしているか、といった話も聞かねばなるまいが……赤牙として、その前に向き合わねばならない現実がある。



 浩輝は意識を失い、未だに目を覚まさない。命に別状はないようだが……力を使い果たした彼が、いつ目覚めるかは分からないそうだ。

 あのときの浩輝は、完全に正気を失っていた。……精神が不安定になるとPSが暴走することがあるが、逆に、能力が高まりすぎると精神に影響を与えることもある。そのため、一度そうなってしまうと、悪循環に陥りやすいのだ。

 元々、彼のPSは不安定だった。それでいて、トラウマの元凶が目の前に現れたのだ。ああなったことも、理解できる。……止められなかった後悔は、別の話だが。

 飛鳥は、浩輝を止められなかったことに泣いていた。美久は、海翔の姿を見て何も言えなくなっていた。目の前で友が貫かれた瑠奈も、どれだけ心に傷を負っただろうか。


 浩輝のことは、目を覚ますまで待つしかない。俺たちが、それよりも先に向き合わねばならないのは……仲間に起きた、変化についてだ。


 誠司の隣に座る……青竜の少年。

 普段の負けん気が嘘のように、大人しく座るその子、十歳かそこらの少年は……間違いなく、海翔だった。


「本当に海翔、なの……?」


「はい……ただ、皆さんの知っている俺ではないんでしょうけど……」


 目の当たりにした俺でも、信じ難いくらいだ。いくらPSでも、このような現象を引き起こすなどと……前回のことを聞いていたからこそ、俺はまだ受けいれられたが、事情を知らない他のみんなはそうではない。


「同じ、だ。おれと、初めて会った頃と……」


「……たぶん浩輝は、無意識に……あの時まで、カイを戻したんだと思う。……また、同じことが……」


「こんなことになるなんて……私が……あの人のことに、気付いていたら……」


「……それでも、あいつは手段を変えてきただけだろう。自分を責めるな。止められなかったのは、みんな同じだ」


 己にも言い聞かせるように、告げる。

 特に、エルリアのみんなのショックは大きいだろう。友が死にかけて、力を使って倒れて……かつてと同じく、時を失った。瑠奈たちにとっては、2回目でもある。


「いったい、何がどうなってんだ? 浩輝の力ってのは、そんなことまでやれるもんだったのかよ……?」


「説明します、アトラさん……いや、違う、そうじゃない……説明するよ、アトラ」


「……! 俺たちのこと、覚えてんのか?」


「……記憶は、すごく朧気になっているよ。でも、完全に忘れてしまったわけじゃないんだ」


 少し遠慮気味ながらも、海翔は説明を始める。理知的なところは……この頃から、同じなんだな。


「たぶん、浩輝が巻き戻したのは、傷を負った瞬間の俺なんだ。それから少しだけ、気を失うまでのことは、はっきりと覚えているから」


「……傷を負ったって事実だけを巻き戻した、ってこと?」


「うん。俺が覚えてることからの推測だけど、たぶん間違ってないはずだ」


「いや……けど、だったら残ってるのはそっから少しだけのお前なんだろ? じゃあ、それ以外のことは忘れちまうんじゃ……?」


「よく考えて、アトラ。いまこの瞬間のあなたは、過去のことを覚えているはず。記憶とは、体験した一瞬だけではなく、未来の自分に残るもの。そういうことだと推測」


「あ……。言われてみりゃ、そうか……」


「フィーネの考えで間違ってないよ。ともかく、赤牙として過ごした記憶は残っている。……その、正直なところ実感はないし、自分でもすごく違和感は強いんだけどさ」


 そして、それは……前回と同じ、か。だから、海翔はリュートの顔を覚えていた。

 この場にみんなが集まったのは、海翔の意思だと聞いている。少年は、自分たちのことをちゃんと説明したい、と誠司に提案したようだ。


「如月……無理はしていないか?」


「大丈夫です、誠司おじ……先生。……混乱は、やっぱりしていますけど。ちゃんと、話せます。みんなには、しっかり……聞いて、もらいたいんです。浩輝のためにも……」


 そうして彼は、一同に話し始めた。俺は、昨日の夜に聞いていたことだが。……まさか一日で、こんなことになるとは思わなかった。


「まず、前提からだよな。……俺の元々の名前は、橘 海翔。俺と浩輝は、本当は血の繋がった兄弟なんだ」


「え……」


 その事実だけでも、みんなを驚愕させるのには十分だった。二人は両親も健在だと思っていたし、種族の違いがあると、なかなかその発想には至らないものだ。まさか……どちらも実の両親ではなかった、などと。

 知ってしまった今では、色々と納得している。浩輝に対してはいつも見守るような視線だった海翔のことも。どんな無茶をしても、彼が浩輝を守り抜こうとしていたことも。

 暁斗と海翔が特に仲が良かったのも、元々はそちらが同級生だったからだろう。だからこそ、二人は今でも対等な親友だったんだ。


「ふたりが、兄弟だったなら……いったい、どうしてそんなことに? リューディリッツって人は、海翔くん達にいったい何をしたの……?」


「……うん。それも、ちゃんと話すよ。暁斗、瑠奈ちゃん、先生……少し、補足をお願いしてもいいかな?」


「……ああ。大丈夫だ」


 そうして海翔は、ゆっくりと語り始めた。彼らの家族が迎えた、その一日のことを……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ