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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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正しさの行く先 2

「僕はね、昔……とても大きな間違いを犯したんだ。本当に大事な友達が、目の前ですごく傷付いていたのに、僕には飛び出す勇気がなかった」


「それは、アトラさんの……?」


 ヘリオスさんは頷いた。私も、一緒に活動する中で、お二人の事情は聞くことになった。


「アっちゃんには叔父さんがいるから、その方が……なんて、あの時は思った。でもさ、それは結局、助けに入らなくて済む言い訳を探しただけなんだ。だって、もし叔父さんのとこに行くにしても、庇って、ちゃんと見送ることもできたはずなのに」


「………………」


「……自分が、よく分かっているんだ。僕は、肝心なところで友達より自分を優先したんだって。そんなことをしたやつが、正しいだなんて、おこがましいと思わないかい?」


「でも、アトラさんは、ヘリオスさんに怒ってなんて……!」


「……そうだね。だけど、相手が怒っていなかったら悪くないのかい? 逆に、相手が怒ったら何であろうと悪いの?」


「それは……」


 間違っていることは間違っている。正しいことは正しい。今まで、そう思っていた。だけど……私は、すぐに返答できなかった。

 ガルフレアさんの言葉とか、最近の色んなことを考えて……昔にヘリオスさんのやったことは悪いことで、だけどヘリオスさんのこんな顔を見て……私は。


「アっちゃんが怒っていなくても……身勝手だって分かっていても。僕はやっぱり、僕のことを許したくないんだ。だって、アっちゃんは死んでいてもおかしくなかった。生きていたから良かった、なんて言えないよ」


「ヘリオスさん……」


「だから僕は、自分が正しいなんて思えない。本当は、ずっと……」


 その後は囁くような声で、何と言ったか聞こえなかった。そこでヘリオスさんは、ごまかすような苦笑を浮かべた。


「ごめん。余計なことまで言っちゃったね……気にしないで」


「………………」


「……でも、そうだね、ひとつだけ。何が正しいかってことは、すごく難しいと思う。だから、ハーメリア……考えることは、止めないでね」


 これが正しいって決め付けちゃうと、気付けなくなることもあるから。ヘリオスさんは、そう締めくくった。……もしかしたら、それはあのダンクって人の……。

 何が正しいか、考えることを止めるな……。ガルフレアさんに言われた内容と、同じ言葉。


 みんなが正しいことをすれば、それだけでいいはずなのに。今まで、そう思って生きてきた。でも、ヘリオスさんみたいな人でも、踏み出せなかった……何が正しいか分かっていても、そうできなかった。

 あのガゼルの人は、アトラさんにひどいことをした。でも、あの人はそれを、正しいと思ってやっていたらしい。私からしたら本当にひどい話だけど……もしも私がやっていることも、誰かの目にそう映るとしたら。


 ……私は、何かを間違えているんだろうか?

 分からない。だけど、何だか少しだけ、もやもやとしたものが胸の中にある。このままじゃ駄目な気がするっていう、そんな漠然とした不安が。



 そんな時だった。


「……あれ?」


 何だか、向こうが騒がしい。ヘリオスさんも、それに気付いたみたいだ。私はいったん、考えるのを止める。


「何か見付かったのかもしれませんね……私たちも行きましょうか」


「うん。でもハーメリア、警戒は忘れないでね」


 ヘリオスさんの言葉に頷きつつ、私はそちらに駆け足で向かった。

 そこには、軽い人だかりができていた。軍人が何人かと、あれは……え? 軍人でも、ギルドでもない……男の子?

 人間の……いや、違う。耳が、獣人のものだ。白い髪の上に、犬と思われる獣の耳がついている。髪と肌の境目はうっすらと毛皮のようになっているし、小さな尻尾も見えた。もしかして……ハイブリッドなんだろうか。

 歳は、私と同じか少し下くらいに見える。身長は170もないくらいで、体格があまり良くないから、子供に見えるだけかもしれないけど。


「アング曹長!」


「どうしたのだ。彼は?」


「いえ、それが……」


 軍人は、困ったような顔をしている。視線を男の子に戻すと、その子はひどく怯えて身を縮めていた。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 皆さんの邪魔をするつもりはなかったんですけど……!」


「……ずいぶん怯えているようだが。何か脅したわけではないな?」


「違いますよ。そこの岩陰に隠れていたのを見付けたんですが、開口一番からこの調子でして……」


 どうやら、その軍人が言っているのは本当みたいだ。どうしてこんなところに、こんな子供が? うっかり迷い込むような場所じゃないし。とりあえず、落ち着かせて話を聞いてみないと。


「安心して。ここにいる人たちは、あなたに怒ったりしているわけじゃないよ」


「す、すみません……あまり近くに人がいると、怖くて……」


 男の子はそう言いながら、人だかりから少し距離を取った。これ以上怯えさせないように、みんなも少しだけ距離を離す。……ものすごく気弱、みたいだ。度を越している気もするけど……軍人に囲まれたら怖いのも仕方ない、かな?

 歳の近そうな私が、このまま声をかけるのが良さそうだ。


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