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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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暗雲

「それで……何があったんですか?」


 僕とシグルドさんは会場の外、人通りのない所に来ていた。


「本当はさっき伝えようと思ったんだが、お前が話を聞ける状態ではなかったからな」


「シグルドさんがやったんじゃないですか……」


 さっきのお仕置きは本当に辛かった。如月君がいなかったら本気で凍死していたんじゃないかって思ったほどだ。いや、元は僕が悪いんだけどさ……。


「済まないな、戯れが過ぎた。先に話しておくべきだったのだろうが」


「いえ、元々僕が悪いんですから……それで?」


 シグルドさんは、いつも無表情で無愛想だ。でも、僕は付き合いも長いし、何となく違いも分かる。この表情は、あまり良くないことがあった時だ。


「先ほど、〈帝国〉がこの周辺で活動している可能性がある、と報告を受けた」


「帝国が?」


 僕も思わず目を細める。正直、その言葉にはあまり良い印象を持っていない。


「正確には、帝国の援助を受けた小さなグループらしいが……その背後に、マリクの動きが見えるようでな」


「あの男が……」


 何度か会ったことのある人物の名前に、僕の眉間に力が入るのが自分で分かった。


「奴の持っている知識には、俺達も恩恵を受けている。あの装置についての技術などは最たる例だな。だが……」


「だからこそ、あの男への警戒レベルはS。最高に厄介な相手だと認定されています」


「ああ。その底知れなさは、俺達も十分に知るところだ」


 彼のもたらした技術……アレを初めて見た時は、我が目を疑った。その原理を聞いて、さらに頭が痛くなった。

 それは、僕の常識を覆すものだったからだ。そして、それを何でもないように話すあの男に、薄気味の悪さを感じた。

 僕達に惜しげもなくそれを提供したのは、彼がそれ以上のものを手にしているからなのだろう。本当に、底が知れない。


「そのグループが何をしようとしているか、俺にも分からない。しかし、まともなことを企んではいないだろう」


「そうでしょうね。あの道化が絡んでいる以上はなおさら……」


 言いつつ――嫌な予感が、僕の中を駆け巡る。


 エルリアで、今の時期に何かを企んでいるとしたら……もしも僕達なら、どこを狙う? 秘密裏な行動ならともかく、もしも『大規模な行動で目立つこと』を目的とした連中ならば。


「……シグルドさんは、この大会で何かがあると?」


「その可能性は、十分に考えられる」


 ……この読みが、杞憂であってほしい。心の底からそう思った。


「とは言え、心配はしすぎるな。マリクはお前がこの大会に出ていることを把握しているし、俺がいるという情報も意図的に流しておいた。何か事を起こせば俺達が敵に回ることは分かっているはずだ」


「大それたことはしないだろうという予測ですか。ですが……」


「懸念は当然だが、いずれにせよ、今は何ができるわけでもない。マリクに打診はしているが、それ以外はせいぜい、この会場に張り付いて、不測の事態が起きれば対処する備えをしておく程度だろう」


「……そうですね。忌々しい話ですよ」


 帝国だって、僕達と事を荒立てたくはないだろう。それに、慎吾先生達のことを向こうが知らないはずもない。小規模なグループ程度じゃ、この大会に何かやったって返り討ちに遭うのが関の山だ。

 もちろん、そのグループの目的が分からない以上は安心できないけど。まさか自爆特攻をするつもりじゃないとは思いたい。


「だけど、どうして僕ではなくシグルドさんに連絡が? 僕がこの国の担当なんですがね」


 さすがに信頼がないわけではないと思うけど。そう思って尋ねると、シグルドさんはこう言った。


「俺が上に言ったからだろう。この国にいる間は、俺が任務を引き受ける、とな」


「え?」


 思いもよらぬ言葉に、そのまま聞き返す。そんなのは初耳だった。


「今のところ、六牙(りくが)が二人も動く緊急性がある話ではないからな。この大会は、お前にとって大事なイベントだろう?」


「シグルドさん……」


「マリクの件はさすがに伝えないわけにはいかなかったが、できれば、今はお前には大会を楽しんでもらいたい。今は、一人の高校生としてな」


 シグルドさんは、うっすらと微笑んでいた。任務の時には間違いなく見ることのできない、柔らかな笑み。この二日間での笑った回数は、彼と知り合ってからの合計より多いんじゃないだろうか……なんてことを口にすれば今度こそ凍って死ぬので黙っておく。


「良い友人だな、彼らは。お前のことを大切に思ってくれているようだ」


「……はい。僕も、彼らが好きですから」


 それだけは、間違いなく僕の本心だ。例え今の僕が、本当の姿じゃないとしても。いつか……いや、もうすぐその友情を忘れなくてはいけないと分かっていても。

 願わくば、この大会を大切な思い出にしたい。そうすれば、少しは踏ん切りがつく気がするから。


「とにかく、お前は大会に集中しろ。彼らはなかなかの使い手だ。いくらお前でも、油断すれば負けかねないぞ?」


「……まったく。どうして今日はそんなに優しいんですか、シグルドさん」


 明日、大雪が降っちゃいますよ。そう呟くと、シグルドさんの表情が一気に仏頂面になった。……いけない、また口が滑った。


「さ、さて、そろそろ戻りましょうか? みんなも待っていると思いますし」


「……そうだな。…………」


 凍らされるのは勘弁だったのでそう持ちかけると、シグルドさんは不機嫌な表情のまま頷き……その虎の耳が、ピクリと跳ねた。


「どうしました?」


「……騒がしい」


「え……?」


 言われて、僕も意識を集中させる。そして、会場の方の様子がおかしいことに気付く。シグルドさんの言う通り、妙に騒がしい。――悲鳴のようなものが聞こえた。


「…………!」


「……大胆な行動ができるほどの規模ではないと聞いていたが。ここまでの馬鹿をやらかすのは、さすがに想定外だな」


 まさか、こんなに早く動き始めたのか? しかも、会場を直接狙って……だとすれば、みんなが危ない!


「俺達の読み通りならば、色々とまずい。急ぐぞ、ルッカ」


「はい……!」



 僕達が駆け出そうとした、次の瞬間。目の前に、複数の人影が立ちはだかった。








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