正しさの行く先
時間は、少し遡る。
「ハーメリア、そっちはどうですかい?」
「……何もありませんね。そろそろ交代しますか?」
「そうね。じゃあ、次は私がハーメリアちゃんのいた場所ね」
私はアレックさんとエミリーさん、三人でチームとして、『狂犬』が出たという場所の調査をしていた。分担しつつ、定期的にお互い入れ替わることで、見落としがないように調べている。
軍とギルドの合同での調査……人数は少ないけれど、こういう仕事は私たちの得意分野だ。ここで何かが暴れたのなら、少なからず痕跡は残っているはず。
……いや、そう言うと語弊があるかもしれない。痕跡そのものは、嫌ってほど残っていた。遺体は先に調べられて、もう弔いもされたようだけど……見付けた人が寝込むほどの惨状、と聞くだけで、ひどい状態だったってことは間違いない。
まるで、獣に食いちぎられたようだった――そんな話だけは、聞くことができた。
いま探しているのは、例えば、使われた武器や獣の足跡。いったい何が皆さんを殺したのか、その手がかり。だけど、現場には人の足跡しかなくて、武器の痕跡もない。銃撃の痕はあったみたいだけど……散らばった弾薬からして、小隊側が抵抗した痕の可能性が高い、と聞いた。
……人が、獣のように引き裂いた。今の状況だと、そういう結論になりそうだ。でも……本当にそんなことが? もちろん、PSによっては不可能じゃないってことは分かる。だけど、そんな……怪物みたいな、人が。
「……もしまた戻ってきたら逃げろ、か……」
そもそも、私はこの調査から外されそうになっていた。人手が足りない中だから、瑠奈さんたちも頑張っているから、って何とか説得はできたんだけど。
分かっている。私は他の皆さんほどの経験もないし、軍の人があっさりと壊滅したような相手に勝てるはずがない。若い相手に危険なことをさせたくない年長者の思いは、私にも想像くらいはできる。
でも、私だって……覚悟はしている。自分がどうなったって、この国のために戦いたい。その気持ちは、大人にだって負けていないはずだ。それに、私が十分に戦えるってことはロウさんも認めてくれている。今さら、成人していないからなんて理由で外されるのは、納得できないから。
「…………」
もちろん、私たちだけではなく、軍の人も周りにはいる。連携はしながらだけど、お互いに好きに調べている。スタンスも違うので、その方が良いだろうって判断だ。
そして、その中のひとりが、私に気付いてこちらに向かってきた。ヘリオスさんだ。
「軍の方はどうですか、ヘリオスさん?」
「まだ、手がかりらしい手がかりはなさそうだね。そっちもかい?」
ヘリオスさんは、軍との衝突で味方をしてくれたあの時から、普通の口調で話してくれることが増えた。意地を張っている場合でもないから、ってご本人は言っていた。
お互いに軽く情報交換をしてみたけど、それほど真新しいものはなさそうだ。
「やっぱり、遺体から得られた情報が限度……か。ここまで来て何もないなら、これ以上の情報を得るのは難しいかもしれないね」
「相手が戻ってくるのを待ち構えるしかないでしょうか……」
「そうなった場合はかなり危険だけどね。何しろ、一個小隊が潰されている。数を揃えてどうにかなる相手じゃなさそうだ」
ヘリオスさんはずっと表情を引き締めている。軍人として立っているときのこの人は、口調は関係なくしっかりとした部分が強く出ている、ってアッシュさんが言っていた。
「でも、そのぶんここには精鋭が集められたし……砂海の力もあるからね。ロウさんはもちろん、他のみんなも……若手の君だってすごく有望だ。軍とギルド、力を合わせれば、そう簡単に負けもしないはずだよ」
「……そうですね」
少しだけ返事が遅れてしまい、ヘリオスさんは小さく首を傾げた。
「すみません。本音を言うと、やっぱり、軍の人たちと一緒にやるのって……少し、身構えてしまって」
水に流そうって言うのがロウさんの、ギルド全体の方針なのは分かっている。だけど、私はそう簡単には割り切れずにいた。だって、あのデナムって人も、最後まであんな態度だったし……今でも仕方なく協力みたいな人もそれなりにいるみたいだ。
「ごめん、そうだよね。僕たちは、ギルドに色々とひどいことをしていたし……ハーメリアが嫌いになるのも、当然だと思う」
「あ……こ、こちらこそごめんなさい!」
うっかりしてた。ヘリオスさんの前で軍を悪く言うなんて。
この人は最初から協力してくれていたので、軍の人だって印象があまりなくて……私は慌ててフォローの言葉を探す。
「でも、ヘリオスさんたちは違いますよ。軍の人がひどいことをしてきた時にも、あなた達はちゃんと味方をしてくれましたし……」
……殺されたのは、あの時の軍人たちだってことは聞いた。
さすがに、死んだことを自業自得だなんて言うつもりはない。それ自体は、悲しいとも許せないとも思う。けど、それと同時に……私は今でも、あの人たちのやったことまでは許せないままだった。
「ヘリオスさんみたいに、正しい軍人さん達がいるのも分かっています。だから、軍がどうこうじゃなくて、ちゃんとその人を見ないといけませんよね……」
「……正しい、か。ねえ、ハーメリア。君から見て、僕は正しいのかい?」
「……え?」
だけど、そんなことを聞き返されて、私は思わず答えに詰まってしまった。
ヘリオスさんが正しいか、なんて、そんなの……正しいに決まっている。私はそう思ったけど、何だかそれを声に出せない雰囲気を感じたから。
「僕は自分のこと、正しいだなんて思えないからさ」
私が答えに迷っていると、ヘリオスさんははっきりとそう言った。