盗み聞き
「……と?」
「……は……か?」
「……い。……は……だ」
大人たちは、会場の人混みからも離れた路地で話していた。その表情は真剣そのもので、何かしら重要な話をしているのは間違いないだろう。そして。
「(おい、聞こえるか?)」
「(無理ですよ、ここじゃ遠すぎて……もう止めましょうよ)」
盗み聞き二人組は、慎吾達から約十メートルほど離れた建物の影にいた。というのも、ここにしか隠れるスポットが無かったからだが。
「(PSでどうにかならねえかな)」
「(俺のだと難しいですね。修さんは……無理ですよね、あの力じゃ)」
「(……だな。近付くしかねえか。あそこに止まってる車のとこまで行けば……)」
「(いやいや無理ですよ、見つかっちゃいますって)」
「(馬鹿! 諦めたらそこで何もかも終わりなんだぞ! 最後まで足掻かずに、どうして諦めるんだ!)」
「(……理論は共感出来るけど、使いどき間違ってます)」
慧は全力で頭を抱えた。どうしてこの人は、こう無駄にアクティブなんだろうか、と。神様が蓮と性格の割り振りを間違えたに違いない、などという割と失礼なことを考えているうちに、修はいつの間にか突撃準備を始めていた。
「(俺は行く! 成せば成る、成さねば成らぬ何事も!)」
「(ちょっと待って下さいって! そもそも、その理論で女の子にアタックして、修さんは何回も玉砕してるじゃないですか!?)」
「そ、それは関係ねえだろ!?」
「(あ!)」
慧から受けたツッコミの内容に思わず大声で叫んでしまう修。叫んだ後にマズイと気付いたが、時既に遅し。
二人はゆっくりと大人たちを伺う。しかし、幸いと言うべきか、向こうには特に動きはなかった。
「(ふう~、気付かれてないな……お前、人の傷口を!)」
「(人並みよりはモテるのに、何故か好きな子にはフラれてますよね、修さんって)」
「(だ、黙れ!)」
完全に論点がズレ始めた。無論、慧にとってはそれが狙いだが。
「(第一、お前はどうなんだ!)」
「(俺? 彼女いますよ。写真見ます?)」
「(ぐ! ぐ……興味ねえ!)」
「私は興味あるわね」
『うわああぁ!?』
揃って絶叫する二人。いつの間にか、二人の真後ろに楓が立っていたのだ。気配も何も感じなかった、達人の足取りだ。
「何をしているのかしら?」
「あ、いや、え~っと……」
「す、すみません!」
頭を下げた慧に対し、修は必死に言い訳を考えるが、今さらどうしようもない。そして、他の大人達も集まってきた。
「慧、何をしているんだお前は……」
「う……」
「ま、良いじゃねえか優樹。若いうちはこのぐらいやんちゃで」
「大方、修が言い出したんだろ? 誰に似たんだか」
「……間違いなくお前にだな」
どうやら叫んだ時点でバレていたらしい。代表として、慎吾が二人に尋ねる。
「内容は聞こえていないか?」
「は、はい……」
「それならいい。戻るぞ」
こうして、二人の(と言うよりも修の)盗み聞き作戦は、見事な失敗に終わる事になった。