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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
7章 凍てついた時、動き出す悪意 ~後編~
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届かないもの

 自分でも、何をしているのかよく分からなかった。ただ、おれの中で荒れ狂っていたものが、身体を突き動かしていた。


「レ、レン……!?」


「よくも……好き勝手に決めつけてくれたな、お前ら!!」


 おれに聞かれてたのが分かったからか、みんな、すごく慌てた顔をしてた。……そんなに聞かせたくなかったのか? そんなに、おれに知られたくなかったのか?

 ……そうじゃない、こんな状況なら誰だって焦るはずだ。勝手に盗み聞きしたおれが何を。駄目だ、落ち着いて話をしないといけない。――落ち着いて? いいのか、本当にそれで。折れて、言いたいことも言わずに、飲み込んで。嫌だ。もう、そんなのはたくさんだ。


「ぜんぶ、ぜんぶ、聞こえた! お前らが隠してたことも……おれには話せないって、言ったことも!!」


「……あ……」


「友達だから言えない? だったら、何でガルフレアには話せた!? 関係が薄いから? 違うよな? そんな相手だったら、おれ達はここに来てないからな! ……そいつなら話しても大丈夫だって思ったんだろ? おれと違って!!」


「おい、落ちつけよ蓮! ふたりは、別にそんなつもりじゃなかった!」


「だったらどういうつもりなんだよ!! ……怖いだって? おれが、今の話を聞いて、隠し事をしてたって知って、離れることが怖いだって!? 何か隠してることがあるぐらい、とっくに気付いてたに決まってるだろう!?」


 コウも、カイも、何も言わなかった。声を詰まらせて、ただ立っていた。それが、すごくむかついた。


「言えなかった、それは分かるよ! それでも待ってた……いつか、ちゃんと聞かせてくれることを! どんな大きな秘密だって、受け入れるつもりでいた! 聞かせてくれるって、信じてた! いつかおれのことを、話してもいい相手だって認めてくれるって思ってたんだ!!」


 聞いたら、教えてくれると思っていた。だけど、軽々と話せることじゃないんだろう、って予感もあった。だから、待ってたんだ。こいつらが自分から話してもいいって思えるようになる、そんな時を、ずっと。


「それを……それを、よくも。聞かれても、言えないかも、だって? それがどういうことか分かってるのか、カイ。おれのことを、騙し続けるんだって言ったんだぞ、お前」


「レン……待って、くれ、俺は……」


「何を疑ったんだ、コウ。お前とカイのことを知って、おれがどんな顔をすると思ったんだ。……ふざけるな。そんなにおれが信用できなかったのかよ! ガルフレアは信じられても、おれの事はその程度の相手としか考えてくれてなかったのかよ!!」


「……ち、がう……オレは、ただ……」


「レン! そんなことないよ、話を聞いて! 私たちは……」


「そんなこと、ないだって? お前が、お前がそれを……おれじゃなくてそいつを選んだお前が、それを言うのかよ!!」


「え……」


 そう叫んだおれに、ルナは……何のことだか分からない、って顔をした。ああ、そうか。そうかよ。本当に、何も伝わっていなかったのかよ。


「はっ。何が、親友だ。おれのことなんて、何も分かってくれなくて、何も信じてくれなかったお前らの、どこが親友なんだよ!!」


「っ! 蓮、いい加減にしろ! 二人は、ただ……!」


「うるさい!! お前が、お前の言葉なんか! おれは……おれは!!」


 こいつに説教なんてされたくない。こいつに、みんなを語ってほしくなんてない。おれの方が、おれの方がみんなとずっと一緒だったんだぞ。それなのに、何で。何で。何で……。


「……何なんだよ。おれは……おれは、ずっと。おれだって」


 必死に、やってきたんだ。上手くできなくても、自分にやれることを、頑張ってきたつもりなんだ。それなのに、どうして。


「誰も、おれを見てくれない。兄弟だと、親友だと思ってたやつらですら。誰ひとり、おれを必要としてくれないじゃないか……!!」


 みんなにとって、おれは……何だったんだ。どうして、おれじゃなくて、そいつに話したんだ。相談する相手にもできなかったのか、おれは。


「全部、おれの一人相撲だったってわけか。だったら、もっと早くに突き放してくれよ。お前なんかいらないって、はっきり言ってくれよ……!」


 おれがいても、何にも変わらない。変えられない。だったら、おれは。


「……なあ。おれは、どうすれば良かったんだよ!? 教えてくれよ、誰か……もう、何も分からないんだよ! 教えて、くれよぉッ……!!」


 ただ自分の奥から沸き上がってくるものを抑えられなくて、叫ぶ。自分でも、何もかもぐちゃぐちゃだ。分からない。おれは、何が言いたいんだ。分からないけど、苦しくてたまらなくて……。


「分からない、よ。……おれは、間違ってたのか? どこから、間違えてたんだ……? おれは……いったい……」


 目の前が滲む。身体中が熱くてたまらないのに、胸の奥のところだけが凍ったみたいに冷たく感じる。



 ――いてもいなくても、何も変わらなかったなら。

 おれがここにいる意味なんて、最初からなかったじゃないか。



「う……ああああああぁ!!」


「っ、蓮!!」


 わけも分からないままに、走った。叫んだ。そうしないと、内側から溢れてくる何かに、突き破られてしまいそうだった。

 みんなの声が……コウとカイの叫びが、聞こえた気がした。だけど、止まれなかった。止まった瞬間に、全部が崩れてしまうように思った。


 分からないことが、怖かった。自分がここにいる意味が、見えなかったことが、怖くてたまらなくなった。

 どこに向かってるのか、いま自分がどこにいるのか、それも考えられずに、ただ足を動かした。走って、走って、走って――。



 ――ああ。また、おれは、逃げているじゃないか。








「はぁ、はぁ、はぁ……う、ぅ……」


 そして、走る体力も無くなって、おれはその場に転がりこんだ。


 気付いた時には、砦からだいぶ離れてた。周りには誰もいない。

 ひどく汗が流れて、身体はとても熱い、はずなのに……寒くて、たまらなかった。

 ……今さらみたいに、自分が何を言ってしまったかが、頭に届いた。コウとカイの、泣きそうな顔を思い出した。いや、最後に聞こえた声、ふたりは泣いていたみたいだった。


「あ……あぁっ……」


 おれは、何をしているんだ。なんてことを、したんだ?


 話してくれるのを待ってた? ただ、聞く度胸が無かっただけのくせに。

 信じてくれなかった? なら、おれだって信じていれば聞けたんじゃないのか。

 ……おれを選んでくれなかった? おれが、選ばれる土俵から勝手に降りただけじゃないか。



 何もかも、悪いのはおれじゃないか。間違ってたのはおれじゃないか。それなのに、責任を全部、みんなに投げて……あんなことを、言った。あんなことを、間違いなく、おれが、おれ自身が、そう思ったんだ。自分勝手な言葉で、大事な友達を……おれが、泣かせたんだ。


「うああああああああぁっ……!!」


 おれは、最低だ。ほんとに、最低のクズだ。

 なんで、おれが泣いてるんだ。大切な友達を傷付けて、自分勝手に暴れて。 そのくせ、悲劇のヒーローでも気取ってるつもりかよ。泣く資格なんて、おれには。


「何だよ。何なんだよ、おれ、は……!」


 どうして、おれは、こんな。

 こんなやつ……こんな、やつ――




「…………蓮」


 ――ああ。

 どうして、おまえは、こんなおれを。



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