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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
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残るは

 席に戻ると、他の場所に散ってたみんなも帰ってきていた。そして、それ以外にも。


「へっ、ナイスファイトだったぜ、海翔」


「おう。ようやく来たかよ、親父」


 ひらひらと手を振る、俺と同じ鱗の色を持つ竜人のオッサン……俺の父、如月(きさらぎ) 当麻(とうま)。他にも、レンの父親である遼太郎りょうたろうおじさんに、優樹おじさん、それから修さんに慧。遅れていたメンバーが合流したようだ。


「海翔君、やっぱり君の動きは筋が良いな! どうだ、うちの道場に来てみないか?」


「あー……ははは」


「……前に断られただろ、親父。無理な勧誘は止めろって。カイが困ってるだろ?」


 遼太郎おじさんの勧誘に(ちなみに4回目)、レンが溜め息をつく。おじさんは道場の師範だけど、イメージとは逆に気さくでノリが軽い。

 ちなみに俺の身内には姉貴と母さんもいるが、二人とも残念ながら今はフィガロにいないし、どうにも今日は都合がつかなかったらしい。放送は見るって言っていたけどな。


 と、コウと目が合った。そういや、こいつの試合に対しても、何も言ってなかったな。


「カイ」


 コウが笑って立ち上がり、右手を上げる。俺もその意図を察して、同じく右手を上げ――お互いの健闘を称え、ハイタッチを交わした。そんな俺達を、周りは楽しげに眺めていた。


「ふむ、青春ドラマのようだな。若さとは羨ましいものだ」


「からかわないで下さいよ、慎吾先生。あれ、そういやルッカは?」


 ふと気が付くと、シグルドはいるのに犬人の姿が無い。……と、思ったら。


「……ここに……います」


「うぉう!?」


 足元から聞こえる震えた声に、思わず素っ頓狂な悲鳴を上げちまった。視線を落とすと、そこには小さくくるまった毛玉……もとい、ルッカがいた。


「……何してんだ?」


「お、お願いです、如月君。温めて……さ、寒い……」


「寒い?」


 確かに最近はけっこう寒くなってきたけど、何でいきなり……って、そういや、さっき妙な冷気が吹き荒れてたな。


「あんたの仕業かよ、シグルドさん」


「灸を据えるならばきつい方が良いだろう。加減はしたから心配するな」


 俺が尋ねると、青虎はすました表情でそう答えた。なるほど、お仕置きを嫌がるわけだ。


「も、もう駄目、死んじゃう。き、如月くぅん……」


 ああもう、そんな小動物みたいな目で見るなよ。俺が悪いことしてるみたいじゃねえか。


「分かった分かった。ちょっと待ちな……」


 ルッカの身体に手を添えると、まるで氷のように冷たかった。うわぁ、マジでしんどそうだなこれ。


「よっ、と」


 炎を発生させる要領で、熱だけを生み出す。カイロみたいなもんだ。ルッカの口から、人心地ついたような息が漏れた。


「……ふう。ありがとうございます、如月君」


「こんぐらい気にすんなよ」


 十分にお仕置きは済ませたからか、シグルドさんも特に文句は言わなかった。しばらく温めてやるか。


「さて、と。カイも勝ったことだし、残すは瑠奈だけだな」


「……うん、そうだね」


 暁斗の言う通り、俺達は勝った。後はルナが勝てば、全員が初戦を突破したことになる。


「緊張してるかしら?」


「それはやっぱりね。女子は少ないし、どれも凄い試合だし。だけど、思ってたよりは落ち着いてるかも」


 言いつつ、ルナは後ろのガルを振り返り、微笑む。


「私だって負けないよ。お墨付きをくれたコーチのためにも、ね」


「……ふ。そうか」


 ルナの言葉に、ガルも穏やかな微笑を浮かべた。こいつ、少しずつだけど笑う事が増えてんな。良い傾向だと思う。

 と、横では何やら小声でブツブツと呟いているやつが。


「うーん……(コーチと教え子……教師と生徒? 同居人が先か……そっからどう発展するか……こいつら鈍感だし、押してやらないと……いや、そもそも本当にこいつとくっつけて瑠奈は幸せに)」


「少し寝てろ、このシスコン!」


「ギャインッ!?」


 後頭部にチョップを喰らわしてやると、超絶過保護バカこと暁斗は情けない悲鳴を上げて、へなへなと崩れ落ちた。頭の上を星が回っている。


「こんのドアホ。それはお前が気にする事じゃねえんだよ」


「え、何? 何だったの?」


 聞こえていなかったらしいルナには何がなんだかサッパリって感じだったが、「気にすんな」の一言で終わらせといた。


「けど、そろそろ昼休みの時間だぜ」


 修さんに言われて時間を見ると、すでに昼の1時。もうこんなに時間経ってたんだな。それからすぐ、昼休みの放送が入った。


「綾瀬は午後に持ち越しか。人数的には他のやつらが早かったと言うべきだがな」


 確かに、そりゃそうだ。各地区、予選で振るい落としがあってるっつっても、大会の参加人数はゆうに百人を超える。

 ちなみに、今年は俺達のせいで、うちの学校の出場者比率はかなり高くなったらしい。地区予選では同じ学校と当たんないように調整されるから、助かったな。

 一試合にかかる時間は、試合毎にバラバラだ。実力差、相性次第では1分足らずで終わることもあるし、拮抗すりゃめちゃくちゃ長引いたりもする。

 ともかく、まだ半分の試合も終わってはいない。俺達が早かっただけで、ルナにすぐ試合がある保証はない。


「あんまり遅いと、無駄に気疲れしちゃいそうなんだけどね」


「いつかあると思って、気長に待つしかないさ」


 慧の言葉。こいつは昔から、コウとは逆に気性はのんびりとしているからな。そんな彼に、修さんが尋ねる。


「そういや、慧。お前、どうして大会に出なかったんだよ? エントリーもしなかったんだろ?」


「ああ……俺は、あんまり祭り事は好きじゃないんです。目立つのはなんかこう、慣れないって言うか」


「もったいねえなあ。お前、めっちゃ強いのによ」


 頭を押さえて起き上がりながらの暁斗の言葉に、慧は苦笑いを返した。


「大会に出ないってだけで、鍛えはしてるさ。今度、また手合わせしてみるか」


「おう、やろうぜ。ま、今はそれより大会のことだけどさ」


 昼休みは1時間程度。選手達にとっては貴重な自由時間だ。辺りの空気も緩み、先ほどとは違う種類のざわつきに包まれている。

 と、そんな中、急にシグルドさんが立ち上がった。


「ルッカ、少し来てくれるか?」


「え!?」


 ようやく回復しつつあったルッカが、その言葉に跳ね起きる。完全に怯えたリアクションに軽く呆れ顔になりつつ、シグルドさんは首を横に振った。


「先ほどとは違う、大事な話だ。少し、二人でゆっくりと話したい」


「……。分かりました、行きましょうか。では皆さん、そういうことなので僕たちは外しますね」


 ルッカは何かを察したような表情をすると、先ほどとは違い、素直にシグルドさんの後について行った。その姿が消えてから、修さんが口を開く。


「ルッカはずいぶんあの人になついてるな。親父、何か知ってるか?」


「ああ、一応な。彼は、ルッカがうちに来る前に世話になっていた男だ。まさかエルリアに来ていたとはな」


 遼太郎おじさんの言葉は、さっき本人達や綾瀬先生が言ってたことと一致した。良い人だってのは、俺にも何となく分かったけど。


「うちに来る前のルッカ、か。俺でもあんま知らねえんだよなあ」


「仕方ないさ、あいつも色々あったんだからな」


「色々、ねえ。引き取る時にはお前も一緒にいたんだっけか、慎吾」


「まあな」


 生返事をしつつ、何故か慎吾先生も立ち上がった。


「お前達、昼飯の前に俺も少し話がある。付き合え」


 お前達、とは年長者組に向けられたものだ。突然の提案に、親父は少し不服そうな顔をしている。


「別に大会終わってからでもいいんじゃねえのか?」


「早めに済ませておきたい話なんだ。時間には限りがあるんでな」


 慎吾先生の声音は、珍しく真面目なものだった。ルナと暁斗が、少し怪訝そうな表情を浮かべている。


「構わないじゃないか、当麻。どうせしばらく試合はないんだ」


「ああ。時間に限りがあるのは確かだし、出来るうちにやっとくべきだろう」


「……ま、それもそうか」


 優樹おじさんと遼太郎おじさんが説得すると、親父も軽く唸りつつ立ち上がった。基本的に言い出したら曲げないタイプなんだが、今回は意外とあっさりと折れたな。そんだけ話に興味を持ったって感じだろうか。


「それじゃあ、私達も少し外すわね、みんな」


「次の試合までには戻ってくる。昼飯は先に食っておくといい」


 口々に言い残しつつ、大人達もどこかに消えた。その姿が見えなくなってから、コウが呟く。


「わざわざ場所まで変えなくてもいいだろうにな」


「俺達に聞かれたくねえってことじゃねえのか?」


 ま、大人達にも内緒話くらいはあるだろうさ。……けど、こんな風にされると気になるのは間違いない。どこか真剣な話って感じだったし。


 と。今度は、修さんが悪戯っぽい笑みを浮かべて立ち上がった。


「慧、お前もついて来い」


「え? どこに……」


「決まってんじゃん。盗み聞きするんだよ!」


「え、ええ!?」


 修さんの楽しげな表情とは裏腹、慧は悲鳴のような声を上げる。


「いや、大人の秘密会議とか、気になってしょうがねえじゃん?」


「で、でも、良くないですよそんなの! それに、何だって俺が……」


「選手達の手は煩わせたくないだろ? なに、バレたら俺が何とかしてやるよ」


「一人で行けばいいじゃないですか!」


「まあまあ、お前も気になるだろ? さ、来い」


 明らかに乗り気じゃない慧の服をつかみ、強制連行モードに入る修さん。……彼の腕っ節はかなり強いので、慧の抵抗が意味をなしていない。


「お、おい兄貴……」


「結果は後で教えてやるからな~」


「だ、誰か止めてくれ! 浩輝、海翔! 暁斗ぉ!?」


 悲痛な声を上げる慧に、俺を含めて名前を呼ばれたメンバーはまとめて首を横に振る。


「そうなった修さんを止めるのは無理だ……」


「大人しく従っとけよ。俺も確かに気になるし」


「あはは。頑張れよ慧兄……」


「お、お前らなあああぁ……」


 尾を引く叫びを残しながら、慧と修さんも消えていった……恨むなよ、慧。


「……賑やかな家族だな」


 みんなが消えた後、ガルがそんな感想を漏らす。


「まあ、そうだな。ふう、兄貴も親父も言い出したら聞かないからな」


「うちの親父よりはマシだろ。未だに精神年齢ガキだぜ? あのオッサン」


「それ言ったら、うちの親だって何気に掴みどころねえし、クセ強いぜ?」


「いや、クセで言ったらうちが一番だと思うよ……」


「……違いねえ」


 みんな一斉に大きな溜め息をつく。いや、今さらながら、ほんと濃いなあの人たち。


「……ふふ」


 そんな姿を見て、ガルは楽しげに笑っている。声を出して笑う姿なんて、初めて会った時は想像もできなかったけどな。これもルナ達の影響か。


「だが、話には聞いていたが、みんな家族ぐるみの付き合いなんだな」


「うん。もともと私達は、親どうしの付き合いで知り合ったんだ。レン以外はね」


「おれの場合は、みんなが転校してきて、同じクラスになったのが先だったからな」


 親父達が、昔どういった経緯で知り合ったのか、詳しくは知らない。が、みんな今でも本当に仲が良いのは知っている。俺達もああいう仲になりてえよな。

 けど、本当に何の話なんだろうな? ……と言うか、今から俺達はどうするかな。


「とりあえず、飯食おうぜ」


「だな」


 みんなは荷物から弁当を取り出す。俺も自分の弁当を開いて……こう言ったら大抵は驚かれるが、作ったのは親父である。あの人は何気に凝り性なので、意外と料理は上手いんだ。母さんがバリバリのキャリアウーマンで、今みたいに家を空けることも多いしな。


 ふと気が付くと、ルナが何だか食べる気にならないって感じだった。案の定、少し考える様子を見せてから、立ち上がる。


「私、ちょっと控え室に行ってくるね」


「ふぇ? ふぁんふぇ……んぐっ、何でだよ」


「装備の最終チェックだよ。確か控え室でメンテナンスの道具を借りれるはずだし、最善の状態にしときたいからさ」


 弁当にがっつきながら暁斗が質問すると、ルナは自分の弓を手に取る。ちなみに、昔に細工とか色々あったらしくて、武器はみんな自分で管理している。


「けど、飯食わねえと力出ねえぞ?」


「分かってるよ。でも、人が少ない今がチャンスかなって。ご飯は観戦しながら食べれるしさ」


 こいつの言い分ももっともだ。今なら会場の外に出ている人も少しいるだろうし。


「そんなに時間はかからないからさ。みんなは先に食べててよ」


「ああ、分かった。自分の思うことは何でもやっておくべきだからな」


「早く戻ってこいよ!」


 そういうわけでルナもいなくなり……最終的に残ったのは男だけだった。







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