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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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思わぬ再会

「……オレ達の話はこんなところでいいだろう。そっちにも聞かせてもらおうか。何がどうなって、戦場ジャーナリストが一国の元首にまでなっているんだ?」


「それは、故郷に貢献するための出戻り、という言葉で納得してもらえるかね?」


「やはりこの国の出身だったか。ならば、闇の門で得た人脈も活用しつつ、この20年……元首になるまでならば15年で成り上がったんだな? その下地作りが、あの戦いに関わった理由か」


「そんなところだよ。我輩とて、元から権力があったわけではないのでね。だが、あの戦いそのものも、どうにかしたかったのは事実だぞ? 我輩とて命を張りはしたのだからね」


「ああ、すまん。オレもそこは疑っていないさ。信用はしているからな……信頼はできんが」


「はっはっは、手厳しいね!」


「(……何だかこの人、すごく父さんを思い出すな)」


「(私も……)」


 瑠奈と暁斗が小声で話し合っているが、俺も同感だ。全体として、慎吾のそれを、より仰々しくした印象だな。もちろん、俺は慎吾を信頼はしているが……委ねすぎると大変なことになるのも確かだったからな。


「そろそろ、過去語りより今の話をするぞ。リグバルドがこの国を執拗に狙う理由は、お前がいるからか?」


「それは違うだろう、と言っておこうかね」


「また随分と、回りくどい言い方だな」


「リグバルドの対策は以前から進めていたのでね。我輩も、マークされているのは間違いないようだ。しかし、だからといってこんな手間をかけるかと言えばまた違うと考えている」


「お前のレベルで人心操作に長けているのは、それだけで政治面からすれば厄介極まりないと思うがな」


「それでも、君たちを差し置いて狙うほどの首ではないだろう? テルムがさっくりと落とせる標的でコストがかからないにしても、だ」


「それで? ならば何が理由なんだ?」


 ウェアの尾が椅子を打つ頻度が増えている。


「勿体ぶるのはお前の悪い癖だ。言っておくが俺は、先ほどの騒動と、お前が今まで傍観していたことで、とてつもなく機嫌が悪い。謎解きをして遊ぶ気分ではないんでな、とっとと結論を言え」


「傍観とは心外だね。ライネス君から相談を受け、一度は衝突せねば解決しなかったと判断して、摩擦の少ない筋書きをセッティングしたつもりだがね? そもそも、我輩が収めようとしていたところを、君がブチギレて制圧してしまったのではないか。無論、そうなる可能性が高いことを想定していたがね!」


「だろうな! だが覚えておけ、ダシに使われた側は、上手くいったからこそ逆に腹が立つんだよ! お前はいつもそうだ。最善の結果であれば道筋のリスクは問わない策ばかりで、なおかつ周囲には作戦が終わるまで明かさず……だいたいお前がそんなだからだな!」


「ウェア。いい加減に少し落ち着け。先ほどからお前が話を止めているぞ?」


「……う。す、すまん……」


 ランドにたしなめられるとさすがに堪えたようで、ウェアが珍しく尻尾を垂らした。

 ……ウェアはどうやら、彼が苦手なようだな。誠司にとっての慎吾のようなもの……と言うほどの親しさもなさそうだが。話を聞く限りは、ある意味ビジネスライクな関係だろう。


「さて、では結論だが。……分からないのだよ、これが!」


「………………」


 元首は実にいい笑顔でそう言い切った。引っ張られた俺たちは、軽く脱力する。


「そもそも、分かっていたのならこんな回りくどい真似はする必要もないのだ。もしも本当にこの国が欲しいだけならば、降伏だってしてみせるつもりだからね」


「お前、それは……」


「現実的な問題としてだよ。もし向こうがこの国の支配を本気で望んで攻めてきたならば、テルムに勝てる可能性はゼロだ。奇跡など起こりようもない。それは、君たちも分かるのではないかね?」


「それは……申し訳ありませんが、その通りだと思います」


「そうであろう? ならば、被害が少ない選択を選ぶとも。我輩が邪魔ならば我輩は処刑でもされるのかね、はっはっは!」


「いや、笑いながら言うことじゃないっすよ!」


「安心したまえ、あくまでも極論さ。差し出して止まる保証がない限りは、より良い方向にするために力を尽くすべきだからね?」


 被害を減らすための最善ならば何だってしてみせる、ということか。……しかし、問題は彼の言う通り、あまりにも力が違いすぎることだ。いかに俺たちが協力したとして、できる範囲には限りがある。


「だが、実際のところは、彼らの目的は何も分からないままだ。通信なども試みたが、応答する気配はない。本当に、ただ攻撃してきているだけなのだ。君たちの知っての通り、目立った目標もなくね」


「国中の人が住む場所を襲ってはいるけれど、均等にだものね。ずっとおかしいとは思っているけれどさ」


「うむ、例えば我輩が目的ならば、とっくに我輩に何かしらのアクションを起こしているはずだ。直接命を狙ってくるなり、国の疲弊したタイミングで降伏を持ちかけてくるなりね。だが、それもない」


「だから、自分が目的ではないと言ったのか」


 リカルド元首を本当に潰したいならば、極端な話、転移で彼に奇襲をかければ全ては終わる。現状はそういうわけでもなく、ただこの国の人々を疲弊させているだけだ。


「ならば、彼らの目的とは何か。この国をわざわざ狙うメリットはあるか。あるとして、今のような奇怪な攻め方をする必要はあるか。この辺りが鍵になるだろうね」


「今までも、彼らは実験のために、よく分からない行動をしてはきましたが……」


「ふむ。前にイリアが言っていたことを考えるには、丁度いい機会かもしれませんね」


「あたしが? ……この国である理由、という話のことですか?」


 アガルトがアポストルの実験にふさわしかったのと同じように、この国が適していること。……あるいは、この国でなければいけない理由か。


「歯に衣を着せずに言えば、実戦データが欲しいだけであれば、テルムは適切なターゲットではないでしょう。他国と比較すれば軍は小規模ですし、練度も決して高くはありませんからね」


「うむ、正直で結構。そうだね、我輩もそう考えているよ」


「このぐらいが丁度良かった、とかじゃないのかしら? 実験で戦力を減らしたくないでしょうしね。ヴィントールってやつも、装備の実験とか言っていたんでしょう?」


「ですが彼は、拠点に待機していました。もしも彼の戦闘データを得ることが目的ならば、積極的に前に出ていたはずです。もちろん、実験も兼ねているとは思われますが……今回の彼らの主目的は、それ以外にあると考えるべきでしょう」


 そもそも、ヴィントールほどの完成度を誇るUDBが産み出された以上、これ以上の実験をどこまで求めているのか、という話でもある。ジンの言うとおり、彼らのテストは『ついで』のように思える。


「UDBの攻撃がデコイであったことは、まず間違いないだろうね。これは我輩の感だが、先日のニケア高地での勝利すら、彼らの計画のうちであると予想している」


「敗北を隠れ蓑にして、本命に取りかかっている可能性がある、というのですね」


「じゃあ……私たちが勝ったのも、あの人たちの思い通りに?」


「ああ。誤解してほしくはないが、君たちの勝利はこの国にとって不可欠だったとも。だが、今回の我々は完全に後手に回っている。そのぐらいの想定が必要だという話さ」


 元首の言うとおりだろうな。勝たないわけにはいかなかったが、ヴィントールの口振りからしても、向こうにとってこれは計算のうちと考える方が自然だ。マリクのことだから、どちらでも構わなかったと言うのかもしれないが。


「ならば何が本命か、ですが。あと我々に残された情報は、聖女と狂犬についてです。まだ正体も分からないのですが、今はリグバルドに絡むと仮定しましょう。その上で、それらが『手段』なのか『目的』なのか、ですね」


「……どういうことっすか?」


「聖女とか狂犬とかが起こす何かそのものが目当てなのか、そいつらが何かを起こしてるうちに目的を達成しようとしてるのか、ってとこだな」


「……あー、なるほど……?」


 浩輝はいまいち腑に落ちていない様子だが、海翔の噛み砕いた説明は正しいだろう。手段か目的か……その二択を絞り込むには、いまいち情報が足りないが。


 ――不意に、部屋の扉が開いた。


「そういう意味なら、ボクは目的は別にあると思っているよ」


「…………へ?」


 そして、入ってきたのは予想だにしない人物だった。

 人当たりの良い、ややぼんやりとした雰囲気の男性。……俺たちとも顔見知りであるその人は、一同に向かってゆるりと手を振った。


「あ、アゼル博士……!?」


「やあ、久しぶりだね、みんな。元気にしてたかい? ガルフレア君やフィオ君も、すっかり回復したようで何よりだ」


 バストールで別れたきりだったアゼル博士は、そんな挨拶を投げかけてくる。まさか、彼がこの国にいるとは……確かに世界各地を巡っているとは聞いていたが、思わぬ再会だ。



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