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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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悪魔へ捧ぐ決別の咆哮

 戦いの中央で対峙したダンクとアトラの様子を、ダンクの配下であり兄弟でもある二人は、少し離れた場所から眺めていた。

 本来は二人も、このまま戦線に加わるはずだったが、アトラが前に出てきたことで、やや流れが変わりつつあった。前もってダンクは彼らに言っていたのだ。あの悪魔が出てきたら余計な手出しはするな、と。


 だが、予想外にも真っ直ぐにダンクへと向かっていったアトラの反応に、ミントは首を傾げている。彼女が持っているのは、手のひらサイズの人形たち。当然遊んでいるわけではなく、彼女が戦闘で使うもののようだ。


「なーんかあいつ、昨日と雰囲気違わない?」


「アトラ……ヘリオス」


「うん? どうしたの、ベル? まさかこのタイミングで、君も裏切っちゃう?」


「裏切る、か。なあ、ミント。……それを言うなら、俺はアトラを何回裏切ったと思う?」


 ミントは、そんなベルナーの言葉に、少しだけ驚いたような顔をした。いつもの彼ならば、一度釘を刺してもなお、こうして反論を返してくることは稀だからだ。


「俺は、何をやっているんだろうな。あの時、散々に後悔したはずなのに……まだ、流され続けている」


「……ふーん?」


「あいつに手を差し伸べなかったくせに、ここでウダウダ言って……そのくせ、ヘリオスみたいに助けに乱入するでもない。俺は……」


 俯き、口を閉じる。一歩を踏み出すことが、今の彼にはできなかった。己の行動ひとつで全てが壊れてしまうことを、彼はよく知っていたからだ。ただ、自虐するような嘲笑を漏らし、傍らの恋人を見る。


「どっちつかずの俺を、軽蔑するか?」


「別に? 言ってるでしょ、ボクはそんな可愛いベルが好きなんだってね。これは最初に約束したよね。ボクは、好きって言葉にだけは嘘は込めないって」


 信じてもらわなくてもいいけど、などと言いながら、ミントは場違いなほどに気の抜けた声で大きく背伸びをした。


「ま、もうどうせ割り込めそうにないし? せいぜい見せてもらおうじゃんか。あいつがダンク兄相手に、どこまでやれるかをね」


















「お望み通りに出て来てやったぜ? 一騎討ちと行こうぜ、ダンク」


「軽々しく名前を呼ぶんじゃねえよ、悪魔が。反吐が出る」


「そうかよ。その割には笑ってるぜ? よっぽど悪魔を自分でぶっ潰せるのが嬉しそうだな、おい」


「はっ。その通りだよ! これでてめえを何の障害もなくやれるってわけだ」


 一騎討ちという俺の提案を、あいつは受け入れたらしい。邪魔をするなと言うように、剣を大きく振り上げる。ギルドのみんなも軍も、いったん後ろに下がった。


 改めて、騎士みたいな格好だと思った。あの時と違って兜は外しているが、胴体はフルアーマーだ。あれを着込んで動くってだけで、相当な筋力が必要になるだろう。

 UDBと戦う以上は重装備なのはおかしくないし、ヘリオスによると「分かりやすいフラッグシップ」として部隊を鼓舞する意味合いもあるそうだ。


「へっ、生憎だがよ。そう簡単にやられるほど、俺は弱くはねえぜ!」


 そう啖呵を切り、俺は力を発動させる。ただ、オーラは纏わない程度に、だけど。

 破壊の牙の本来の効果は、模擬戦で使っていいものじゃない。が、少し出力を弱めて、身体のリミッターを緩めるくらいなら何とかなる。


「本性は出さねえってか? ふん、まあ良いさ。こっちは遠慮なく、全力で始末させてもらうぜ!」


 そう吠えると同時に、ダンクの掲げた大剣が、眩い光を放ち始めた。

 同時に、あいつの欠けた角の先に集った光が、不足していた部分を補う光の角になる。言葉通りに、あいつもPSを発動させたようだ。

 お互いに準備は整った。後は、火蓋を切るだけ。


「……ああ。ただ、戦う前にひとつだけ言わせてくれ」


 だけど、俺は敢えてその言葉を伝えることにした。


「あの時、孤児院を……みんなを傷付けたのは、間違いなく俺の手だ。その事に関して、お前が俺を憎んでるのは、当然のことだと思う」


「………………」


「みんなを傷付けて、逃げ出して……済まなかった」


 深く、頭を下げる。ダンクは、しばらく無言でじっと佇んでいたかと思うと、その口元を激しく歪ませた。


「くっ……ははっ。はははははっ!! 何だそりゃ! この期に及んで? 済まなかっただ? 笑わせてんじゃねえぞ、裏切り者の悪魔が!!」


「……場違いなのは分かっているさ。けど、言う機会もなかったからな。これは間違いなく、俺の本心だ」


「はっ! 昨日、ミント達にも言ったってな。で? 何のためだ、そりゃ? まさか、それで俺が手加減すると思ってるわけじゃねえだろ? ただの自己満足か?」


「そう、なのかもしれないな。だが、これを言わなきゃ……そして、お前のその返事を聞かなきゃ、俺はちゃんと戦えなかった。別に恩情を求めてるわけじゃないから安心しろ」


 相手が求めていない謝罪なんて、自分勝手なけじめでしかないのかもしれない。それでも、言わないわけにはいかなかった。そこを有耶無耶にしたままだと、この戦いに意味は無くなると思ったんだ。


「これは、俺なりのお前への誠意だ、ダンク。余計なもんを抱えたままじゃなくて、俺の全力でお前とぶつかることがな。……今度こそ俺は、お前から逃げない」


「……てめえ」


 笑うのを止めて、歯を噛み締めたダンク。その目から伝わってくる、隠しようもないほどの憎悪。それを真っ直ぐに見据えながら、俺はトンファーを構える。


「良いだろう。てめえが本気で詫びるつもりってんなら……大人しく叩き潰されてもらおうか」


「勘違いするなよ。俺は自分の勝手な都合で、この大事な戦いに負けてやるつもりは、さらさらない。受け止めて……今度こそ、ちゃんと全部に向き合ってやる!」


「ほざけ、悪魔が! てめえの罪は、受け止められるようなもんじゃねえんだよ!!」


 怒号と共に、ダンクが突撃してくる。光を纏って真っ直ぐ振り下ろされた大剣が、文字通りに火蓋を切り落とした。

 もちろん、それを素直に受け止めるつもりはない。俺は横に踏んでそれを避けると、お返しとばかりにトンファーを打ち付ける。が、そう簡単には行かずに、剣の腹が俺の一撃を防いだ。

 そのまま、防いだ剣で押し返し、薙ぎ払われる。飛び上がってそれを避けつつ、相手を飛び越えるような形で頭上からの一撃を狙うが、向こうのステップにより空を切る。野郎、さすがに場数を踏んでやがるな……!


 空中の俺に向けて、ステップを踏んだ方を軸足に、蹴り上げが飛んできた。俺は何とか身体をひねってそれを避ける。その脚も剣と同じく光を帯び、軌跡が残されていることに顔をしかめつつ、着地した俺はこちらから突っ込む。

 剣とトンファーが、何度も衝突する。思い切り振られた大剣の一撃を受け止めるのは無茶だが、細かい攻撃なら防ぐのはお手の物だ。

 しばらく、打ち合いが続く。こっちは軽くリミッター外してるってのに攻めあぐねてる。地力の差を感じつつも、焦らずにタイミングを見計らった。そして見付けた一瞬の隙。僅かに攻撃が薄い箇所を見付けた俺は、思い切り踏み込んだ。



 だけど、攻撃の隙間を縫ったはずの俺は、何かに衝突し、吹き飛ばされた。


「うっ!?」


「てめえはこっから……立ち入り禁止だ!!」


 俺が衝撃に動きを止めたのを待ち構えていたように、ダンクの剣が横薙ぎに振るわれる。何とかトンファーで受け止めるが、凄まじい衝撃が俺を吹き飛ばす。地面を転がりながら、俺はかろうじて受け身を取った。この重さ、まともに受けたら骨でも折れかねないな、ちくしょう。

 当然、追撃を仕掛けてくるダンク。何とか身をよじって離脱すると、いったん距離を取る。不服そうな舌打ちが聞こえてきた。……少しでも光が残ってたら駄目か。それを知れただけ、良しとするしかねえ。


 ヘリオスから聞いてはいた。〈聖印の残響(セイントリフレイン)〉。それがこいつの力の名前だ。こいつが攻撃する際に纏った光は、数秒ほどその場に残り続け、一種のフィールドを形成する。それはダンク以外に触れると弾き飛ばす作用を持ち、今のように相手の攻撃を防ぐこともできれば、斬った相手の傷口を抉ったり、そのまま吹き飛ばすことだってできるらしい。

 攻撃の軌跡が纏う光が、そのまま追撃にもなり、防御にもなる。体験すると、その厄介さは想像以上だな……!

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