表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
2章 動き始めた歯車
29/429

もしもの自分、本当の自分

「浩輝のやつ、やったな!」


「ああ。ヒヤヒヤしたぜ、ったく」


 俺と暁斗は、自分達の席から離れた場所で、ジュース片手に観戦していた。コウがそう簡単に負けるとは思っていなかったが、相手もかなりの腕前だったからな。ま、良い勝負だったと思う。


「これで残すは、お前と瑠奈だけか」


「ルナは強えよ。心配しなくても負けねえ」


「お前は?」


「聞く必要あんのかよ?」


 暁斗は苦笑しつつ、首を横に振った。今でこそ俺はルナのグループだが、昔は暁斗と一緒のほうが多かった。学年が離れたから会う時間は減ったが、今でも俺達は親友だ。お互いのことはよく分かっている。


「……全員が勝っていったら、割とすぐに身内で当たるかもな」


「だな。けど、俺は望むところだぜ」


 俺らの実力は、ほとんど五分。白黒はっきりつけるには絶好の舞台だ。けど、暁斗はちょっと不安げに見えた。ま、理由は考えるまでもねえか。


「そんなにルナと当たるのが怖えか?」


「……思わず手加減しちまいそうなんだよな」


「お前らしいな。けどよ、それで負けたりしたら、あいつは間違いなく怒るぜ?」


「だよな……はあ、身内が勝つのは嬉しいんだが、何か複雑だな」


 ま、こいつが超シスコンな事を置いといても、気持ちが分からないわけじゃねえ。女子ってだけでもちょいと気が引けるしな。


「俺は逆に、どんどん勝ち上がってもらって、白黒ハッキリさせるいい機会だと思ってるぜ。特にコウとはな」


「浩輝、か。ライバルとしてか?」


「ああ。そろそろ、俺が格上な事を思い知らせてやろうと思ってよ」


 そう言ってみせると、暁斗はまた苦笑した。


「浩輝も、お前と同じこと思っているんだろうな」


「違いねえ、あいつは単純バカだからな。だからこそ……躊躇っていたPSを使ったんだと思うぜ」


「…………」


 さっきの試合、コウはもっと楽に勝てたはずだ。あれは温存してただけじゃねえ。使おうとしていなかったんだ。


「やっぱりあいつは、自分の力を?」


「ああ。マジで嫌ってる」


 練習の時に使えたのは、相手が俺らだったってこともあるんだろう。そういう意味じゃ、一時的にでも吹っ切れさせてくれたあの対戦相手には、本当に感謝しねえとな。


「本来、あの力はもっと強力なはずだ。が、実際に出来ることは少ねえ。理由は簡単だ」


「あいつが自分の力を受け入れてないから、か」


 あいつの力には、自分以外の生物にはほとんど使えないという、大きな制限がある。

 可能なのは、傷付いた時間を逆流させて傷を治すこと。凄そうに聞こえるが、実際はこれも完全じゃなくて、表面的な傷を治すので精一杯だ。


「だけど……無理もない話、だよな。きっと俺でも、あいつの立場なら力を避けるようになっていた」


「……そうだな」


 僅かな時間、会話が途切れた。俺は目を閉じて、少しだけ過去に思考を巡らせる。もしもあんなことが起こらなかったら、あいつはちゃんと力を使いこなしていたんだろうか。


「カイ……お前は大丈夫なのか。浩輝だけじゃなくて、お前もあの日の話は辛いだろう?」


「まあ、な。それは否定しねえよ。できるなら、あの日からもう一度やり直してえぐらいだ。けど……それが出来るほど、現実は甘くねえだろ?」


 みんな、少なからず辛い思いを抱えて生きている。俺達だけ、そんなズルが許されるはずがねえ。……それを望んだからこそ、あいつがあの力に目覚めたのは分かっているけど。


「……それにな、暁斗。俺は俺でしかねえんだ」


「なに?」


「あの日が俺の人生を狂わせたとしても、それが俺の人生なんだ。俺は、今の俺しかあり得ねえんだよ」


 誰もが考えたことがあるだろう。もしあの時ああしていたら、って。でも、現実にした選択は自分がしたもの。仮に何度その場合をやり直したとしても、選択するのが自分である限り、別の結果にはならない、と俺は思う。自らの選択の結果が今の自分……そこに『もし』は存在しねえってのが、俺の持論だ。

 もちろん、後悔ぐらい俺だってする。自分の選択が本当に正しかったのか、今でも疑問に思う。でも、振り返ってるだけじゃ何も変わらねえ。考えるならこれからのこと……変わらない過去より変わる未来、だ。


 それに。俺が今の俺を否定しちまえば、浩輝が俺にしてくれたことまで、否定することになる。それが余計にあいつを苦しめているのは百も承知だが……この感謝は、忘れたくねえ。


「……お前って時々、哲学者っぽいよな」


「時々? 俺はいつだって知的だろ?」


「はは、よく言うぜ。知的なやつは窓から飛び込んだりしないだろ?」


 冗談めかして言ったのは、これ以上続けると俺も弱音を吐きかねないからだ。暁斗もそれを分かっているのか、笑ってくれた。


「悪いな、暁斗。お前にもルナにも心配かけちまってよ」


「改まるなよ。逆に、俺やあいつが辛かった時も、お前らが助けてくれただろ? 助け合ってこその親友、だ」


「……おーおー、格好いいこと言ってくれやがって。そう言うのは惚れた女にでも言っとけ」


 からかい口調で返したのは、照れ隠しみたいなもんだった。みんなの存在が無ければ、コウも、俺も潰れていた。どれだけ感謝しても足りない。


「さて、せっかくだし、しばらくここで観戦するか?」


「おう、良いぜ。お前と二人っきりってのも久しぶりだしな」


 みんなには悪いが、もうしばらく二人で話していたかった。学年も違うし、こいつは部活もしている。話したいことが、けっこう溜まっていた。


 試合を観ながら、雑談に興じる。久しぶりの二人だけの話は、くだらねえ内容のものばかり。でも、楽しい時間だった。気が付くと、かなり時間が経っていた。そして……。


『如月 海翔、須藤(すどう) 玲二(れいじ)は……』


 結局みんなのとこに戻る前に、俺の名前が呼ばれちまった。


「カイ、出番みたいだぜ?」


「だな。お前は先に戻ってな。ああ、ジュースは席に置いといてくれよ」


「ああ、分かった。負けるんじゃないぞ?」


「はっ、誰に言ってんだ? 俺にはコウをぶっ潰すって使命があんだよ」


「……はは。じゃ、安心かな。思いっ切り暴れてこい!」


「言われなくてもそのつもりだぜ、ま、見てな!」


 見守る親友に背中越しに手を振ってから、俺は控え室に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ