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ルナ ~銀の月明かりの下で~  作者: あかつき翔
6章 凍てついた時、動き出す悪意 ~前編~
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次の一手は

「狂犬には気を付けろ、という忠告も無視はできないだろう。人物か、作戦か、兵器か、それともUDBか。言葉だけでは何を指しているかは分からないが」


「名前の印象だけならば、何だか無差別に被害を出しそうですね……」


 俺たちにとって、未知の脅威。それも、敵であるヴィントールが、わざわざ忠告するほどの何か。


「だけど、敵に大事な情報を教えるものか? おれ達をひっかき回すために、適当なことを言ったってこともあるんじゃないか?」


「……それに関してはあくまで感覚論になるが、彼の言葉は信用に値するのではないかと考えている。彼自身の誠実さは、芝居などではなかったと思うからな」


 だから俺たちは、すでに狂犬とやらの脅威にさらされている、と考えて動くべきだろう。いや……俺たちよりもこの国が、と言うべきかもしれない。ヴィントールは「民にいらぬ犠牲を出したくなければ」と言ったのだから。

 もちろん軍人も民の一部であるが、彼の言葉はもっと素直に、民間人への犠牲を危惧したものだったように思える。


「アガルトの時も、何とか阻止はできたが、あれは上手く事が運んだからだ。一歩間違えば、正面衝突で大量の死者が出ていた。今回は、あの時と比較しても、かなり派手な動きをしているように見える」


「……あの時よりもさらに酷い何かが動いている。そう考えるべき、でしょうか?」


 飛鳥の表情はとても暗い。心優しい彼女のことだ、アガルトの人々が味わったものよりもさらに悪辣な何かが動いているなどと、考えたくもないだろう。浩輝が心配そうに様子をうかがっている。


「大丈夫だよ、飛鳥ちゃん。それを止めるために、あたし達がいる。そうだよね、みんな?」


「うん、イリアさん。私も、ただ怪我をする人を眺めているのは嫌だし。まだ、何も起こさせないことはできるはずだよ」


「……そうですね。ごめんなさい、少し弱気になってしまいましたね。うん……皆さんと一緒なら、あの人たちだって止められますよね」


 女性陣の言葉に、みんなが頷く。それが困難であろうと、立ち向かう意思を誰もが捨てていないから俺たちはここにいる。


「けど、そうなると、聖女さんの方はハズレだったんすかね?」


「いや、それはさすがに早えだろ。敵がひとりとも限らねぇし、聖女と狂犬が同一人物、なんてのもあり得るぜ?」


「……言われてみりゃそうだな……言葉のイメージが真逆すぎてな」


「名前で決めんのは危ないぜ? クリードが〈大蛇〉だったみてえに、狂犬だからってイヌ科とも限らねえしな。どっちにしろ、敵の言葉をそのまんま鵜呑みにするなんて危ねえ橋は渡れないだろうけどよ」


「そうだな。俺もあくまで無視できないと思っているだけで、それに囚われるつもりはない。未だに敵か味方かも分からない聖女に、狂犬……どちらも目を離すわけにはいかないだろう」


 無論、それ以外にも警戒は必要だ。だが、当てもなく調べるよりは、まず明確な目的を目指した方が良いだろう。


「では、そろそろ状況を整理するか。未だリグバルドの攻撃は終わっていないのは明確で、俺達は次に備えていかなくてはならない。これから動く上で、当面の鍵は4つあるだろう。1つ、元首とのコンタクト。2つ、軍との連携。3つ、聖女の動き。そして4つ目が、狂犬についての調査だな」


 ウェアルドが、指を折りながら全体に投げ掛ける。


「この中でも、俺はまず、前の2つ……元首および軍との連携を磐石にすべきだと考えている。後の2つについて調べるには、人手も必要だろうからな 」


「軍……か」


 複雑そうな表情をしたのはアトラだ。そこと向かい合うことは、恐らく彼の因縁とも直面する結果を呼ぶ。ウェアもそれは理解しているだろう。


「知っての通りだが、軍には反ギルド派が存在している。それも、かなりの上層部にも蔓延っているらしい。しかし、今回の敵はあまりにも強大だ。俺たちが一丸とならずして、対処できるとは思えない」


「だけど、それは簡単にはいかないと判断。話して通じる頭があれば、アトラの件みたいな馬鹿な真似はしてこなかったはず」


「この件については、大佐にも相談する。とにかく、俺たちが持つ力を証明して、かつ敵の恐ろしさを理解してもらわなければならない。口で言うほど簡単ではないだろうがな。……荒療治だろうと、未熟者たちの目を覚まさせるのは急がなければな」


 そう口にしたウェアルドから、刺すような空気が漂っていたのは、気のせいではないのだろう。彼は、明らかに軍に苛立っている。アトラの件も大きいだろうが、未だ危機への対処よりも面子を重視しているらしい一部の連中が、我慢ならない様子だ。ウェアだけでもないだろうが。


「元首はロウのツテもあるし、今回の勝利は彼の耳にも入るだろう。そちらも、可能な限り早期にコンタクトを取れるように動く。どう転ぶにせよ、国のリーダーの存在を無視するわけにはいかんしな」


「反ギルド派と反元首派は、ある程度イコールで結べるようですからね。そこの利害で協力できる可能性もあるでしょう。政治的な問題には手を出すべきではないのですが、この際利用できるものは選り好みしていられない」


「しかし、今回の勝利は懸念ともなりうるな。オレ達はあれで終わるとは思っていないが……本気で『追い払えた』と考える者もいるかもしれん。そうでなくとも、増長を招く可能性はありそうだ」


「……勝ったせいで余計に、ってのは何だか嫌ですね。俺たちのおかげで勝てたなんて言うつもりはないですけど、そのせいで揉めるなんてさすがにきついですよ」


「だからと言って、戦わないわけにはいかなかったわよ。それに、増長するならチャンスでもあるわ。何か仕掛けてくるなら、事態が動くってことだものね」


 でしょ? と美久が振り返った先にいた海翔がにやりと笑う。確かに、彼が言いそうな前向きな言葉である。この二人も、次第に息が合ってきた感じがあるな。好意に応えるかは別の話のようだが。


「やるべきことは多い。が、焦っても、変に後ろ向きになっても始まらん。ひとつずつ、俺たちにできることをやっていくしかないだろうよ。……さて、そろそろ戻って、他のギルドやヘリオス達とも今の話をするとしよう。その後は……」


 そこまで言ってから、少しだけ間を置いて、ウェアルドは笑った。


「休息し、英気を養うのも大事な仕事だ。晩飯は腕によりをかけて作るから、楽しみにしておけよ、お前たち?」






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